燃え盛るテニスへの情熱を糧に、31歳ナダルが遂げた〈進化〉の証明 [USオープンDAY14]

「USオープン」(アメリカ・ニューヨーク/本戦8月28日~9月10日/ハードコート)は最終日、男子シングルス決勝が行われ、世界ランク1位のラファエル・ナダル(スペイン)が、世界ランク32位で第28シードのケビン・アンダーソン(南アフリカ)に6-3 6-3 6-4で快勝。4年ぶり3度目のUSオープン制覇を果たした。グランドスラム通算優勝回数は「16」となり、男子ではロジャー・フェデラー(スイス)の19回に次ぐ史上2番目の記録を更新した。

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 それは完璧なナダルだった。トップ20と一人も対戦せずにつかんだグランドスラム・タイトル? ノバク・ジョコビッチ(セルビア)もアンディ・マレー(イギリス)もスタン・ワウリンカ(スイス)もいない大会で手にした栄冠? そんなものではこの31歳の〈鍛錬の美〉を否定することはできない。復活した旧二強の話題でもちきりだった2017年のグランドスラムを締めくくるにふさわしいプレーで、ナンバーワンに返り咲いたばかりの王者はその頂に立った。

「2週間の中で、テニスのレベルを上げ、自信も高めていけた。このトロフィーにはとても大きな意味がある」

 第1セットの前半はナダルが何度もブレークチャンスを握るも、身長203cmのアンダーソンが強力サービスを軸にしのぐという展開。均衡が崩れたのは第7ゲームで、デュースからアンダーソンのダブルフォールトとフォアハンドのワイドアウトでブレークに成功。さらに第9ゲームもブレークし、結局2-3から4ゲーム連取で第1セットを奪った。

 世界1位と32位という実力差に加え、グランドスラム初の決勝を戦うアンダーソンと、これが23回目というナダルの経験量の違いを考えれば、もはや勝負があったと考えてよかった。第2セットは第6ゲームをブレーク。第3セットは最初のゲームでブレークし、自身は一度もブレークポイントすら握らせなかった。

 10本のサービスエースを奪ったアンダーソンに対してナダルは1本にすぎなかったが、サービスにまつわる他のスタッツではすべてナダルが上回った。特に顕著だったのがセカンドサービスからのポイント獲得率。ナダルは70%、アンダーソンは36%だった。見方を変えれば、ナダルのリターンからの攻撃力を表した数字ともいえる。

 アンダーソンは、「ラファはリターンのポジションを頻繁に変えて多彩な攻撃をしてきた。僕がサービスゲームで苦しんだ理由だ」と振り返った。

 絶対にはずさないパッシングショット、巧みなボレーに力強いスマッシュ—-アンダーソンの長いリーチから繰り出される伸びのあるショットに対し、ベースラインのかなり後方に下がって打ち合うことも少なくなかったが、より洗練されたオールラウンダーへと磨きをかけたプレーを随所に見せ、勝利まで突っ走った。

 通算16回目のメジャー優勝のうち10回がフレンチ・オープンで、USオープンの3回はそれに次ぐ。初優勝がもっとも遅かった場所である。クレー・シーズンへの入魂、すべてのポイントがマッチポイントと比喩されるほど肉体と精神を酷使する戦い方から、シーズン後半のエネルギー切れが指摘された。選手寿命も長くはないだろうと言われたものだ。しかし、今年のナダルからはその評に抗ってきた努力が浮かび上がる。

「自分にはまだ伸ばせるところがあると信じている。それを伸ばすために、毎朝起きるたびに熱い思いでコートに向かうんだ。だからまだこうしてこの世界で戦っていられるし、成功しているんだと思う」

 これで今年のグランドスラムは、ナダルとフェデラーが2つずつタイトルを分け合ったことになる。

「ロジャーと僕で共通するものがあるなら、テニスに対する情熱と愛かな」

 ファンが愛するラファの笑顔が咲いた。ここに来年、ライバルたちが戻って来ればいったいどうなるのだろう。想像するだけで心が躍る。

(テニスマガジン/ライター◎山口奈緒美)

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