「僕は彼よりいいプレーをしていた。試合の舵を握り、ラリーを牛耳っていた。それなのに、ただ、感情を外に出してしまったがために、すべてが変わってしまったんだ。なぜってチョンは、いつもそこにいる。いつも、集中している。何かがうまくいかなかろうが、変わらず戦い続けている。そして僕は、ちょっとしたことからコントロールを失い、それで終わってしまった。僕は、自分のおつむのために負けたんだ」
 決勝で敗れたあと、こう言ったルブレフの目には、うっすら涙がにじんでいた。

 リスクをおかし続ける超攻撃派のルブレフと、堅固でオールラウンドなチョンという、対照的なふたりが衝突した、21歳以下のトップ8対決「Next Gen ATPファイナルズ」(イタリア・ミラノ/11月7〜11日)の決勝は、期待を裏切らない熱戦となった。そして、ルブレフが打ちひしがれるのも無理はなかった。第2セットの途中まで、そして部分的にはそのあとも、試合を牛耳っていたのは、ルブレフのほうだったからだ。

 しばらく見ないうちに、ルブレフは成長していた。

 殴るようにフォアハンドを打つことは同じでも、彼はミスをせずに数本、十数本連続で、それを叩き込むことができるようになっていた。3日前のラウンドロビン(2グループに分かれての総当たり戦)の試合ではそうではなかったから、恒常的なものではないのかもしれない。しかし間違いなく、決勝という重要な場で、レベルを上げることができるようになっていた。

 チョンは振り回されながらも踏ん張っていたが、目に見えて押され気味だった。打ち合っていても、ショットの伸びではルブルレフが上。チョンのファーストサービスの確率が低かったのも、助けになっていなかった。しかしそこで、冒頭でルブレフが言った、問題のゲームがやってくる。第1セットを4-3で取り、その直後のチョンのサービスをブレークしたルブレフは、第2セット3-2から自分のサービスに入った。しかしフォアハンドの強打をネットにかけることから始めた彼は、さらに2本のダブルフォールトをおかし、ブレークバックを許すと、その苛立ちをタイブレークまで引きずったのだ。

「何が起ころうと、どんなに厳しいものだろうと、終わったポイントのことは忘れて、次のポイントに集中しなきゃいけないんだ。そういう風にしていれば、悪いプレーをしているときだって、勝つことは可能なんだ」

 ときに哲学的になるルブレフは、こう自分に言い聞かせるように言って、髪を掻きむしった。

画像: アンドレイ・ルブレフ

アンドレイ・ルブレフ


「あの5、6分の間、僕は感情を外に出し、終わったポイントについて文句を言っていた。反対に彼は、ただ静かに、1ポイント1ポイントをプレーしていたんだ」

 ルブレフは、チョンがなぜ倒すのが難しい相手であるかを、こう説明する。

「第一に彼はいいショットを持っている。驚くべき脚も持っている。そしてその精神は、中でも最強だ。彼は精神的に本当に強い。何が起きようと彼は決してあきらめない。常に戦い続けている」

 それは事実だ。

「負けそうだと感じていようが。彼は決して引かない。文句ひとつ言わず、感情を見せない。だから、彼は厳しい試合のほとんどに勝つんだよ。競った試合になると勝つ。彼は精神的に、まったく引かないからだ」

 そうだろうか。

チョンは第2セットのタイブレークを7-2で制してセットカウント1-1としたあと、続く2セットを取って、試合のあらゆる瞬間にどちらにも転び得た、その接戦をものにした。そして試合後、「チョンは精神的に強い」とルブレフが言っていたと伝えると、彼はいたずらっ子のような笑みを見せた。

画像: チョン・ヒョン

チョン・ヒョン



「第1セットを落とし、第2セットでワンブレークされたとき、僕は本当にナーバスになっていた。そしてすごく怒っていた。でもそれを顔に出さず、ポーカーフェイスを保とうと努めていたんだ。僕は本当に精神的に強い、という僕のイメージをつくろうとしていたんだよ」

 つまり、作戦成功、だったわけである。

 この日も、彼がいっしょに働いているという心理学者についての質問が出た。彼はいつもと同じ言葉を繰り返したが、そこにはポーカーフェイスという言葉が追加されていた。

「彼女はいつも、まずは常に落ち着きを保つように努めよ、怒りが込み上げたり、ナーバスになったときには、ポーカーフェイスをつくって、勝つための何かを探そうと努めよ、と言っている」

 最後の2セットでは、ルブレフがフォアハンドを連射する中、しつこく深く返し続けることがうまくなってきたチョンは、長いラリーに耐え抜き、稀に甘いボールがくれば逃さず叩いた。そして最後のフォアハンドを叩き込んだ瞬間、チョンの顔からポーカーフェイスは消え、本当にうれしそうな笑みがぱっと浮んだ。

 初日の試合観戦中には居眠りしそうになったが、この日は眠かった目が冴える。ともに違った意味で目覚ましかったチョンとルブレフ----今日、ふたりの未来のスターを目撃する幸運に授かった。

決勝結果

○チョン・ヒョン(韓国) 3-4(5) 4-3(2) 4-2 4-2 ●アンドレイ・ルブレフ(ロシア)
※今大会は4ゲーム先取の5セットマッチ

※トップ写真は、「Next Gen ATPファイナルズ」の決勝が始まる前の記念撮影、チョン・ヒョン(左)とアンドレイ・ルブレフ(右)
MILAN, ITALY - NOVEMBER 11: Andrey Rublev of Russia (R) and Hyeon Chung of South Korea pose prior to the mens final of the Next Gen ATP Finals on November 11, 2017 in Milan, Italy. (Photo by Emilio Andreoli/Getty Images)

[お知らせ] 「Next Gen ATPファイナルズ」の現地取材レポート、こぼれ話、およびトップ8の紹介記事はテニスマガジン1月号(11月21日発売)に掲載

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