杉田からダニエル、日比野、奈良、尾﨑と、日本勢5人が勝利のバトンつなぐ [USオープンDAY3]

「USオープン」(アメリカ・ニューヨーク/本戦8月28日~9月10日/ハードコート)は3日目、前日に雨の影響で中断およびキャンセルされたシングルス1回戦と、男女ボトムハーフ(ドローの下半分)の2回戦が行われた。

 日本勢は、第3セット初めで中断になっていた杉田祐一(三菱電機)を含めて5人が登場。本戦初出場の杉田はワイルドカード(主催者推薦)のジェフェリー・ブランカノウ(フランス)に6-2 6-2 6-0で勝利し、3年ぶりの出場となるダニエル太郎(エイブル)は同じくワイルドカードで世界ランク159位のトミー・ポール(アメリカ)を6-1 4-6 4-6 6-2 6-2で退けた。

 女子は日比野菜緒(LuLuLun)と尾﨑里紗(江崎グリコ)が揃ってグランドスラム初勝利を獲得。日比野は地元アメリカの18歳で世界ランク36位のキャサリン・ベリスを6-3 4-6 7-5で、尾﨑はやはりアメリカの選手で予選上がりの26歳ダニエル・ラオを6-3 6-7(5) 7-6(5)で退けた。奈良くるみ(安藤証券)はサラ・ソリベス トルモ(スペイン)に6-1 6-2で快勝した。

◇   ◇   ◇

 朝の11時から約7時間半もの間、日本勢がこれほど痛快に、勝利のバトンをつないでいったのをグランドスラムで見るのはいつ以来だろうか。

 トップは杉田だった。これまで予選で8年連続して負けていた全米オープンは、グランドスラムで本戦出場経験のない唯一の大会。しかし、約2ヵ月前にツアー初優勝を果たし、世界ランキング44位で臨む28歳には、初々しさよりもちょっとした貫禄すらうかがえる。

 対する19歳のブランカノウは、ツアーレベルでの試合経験が皆無という新鋭。昨年の全仏オープン・ジュニアを制した有望株だが、今季はハイレベルの舞台での経験回数を高めてきた杉田が、その差を見せつけた。

 杉田の速いテンポのストロークに対し、ブランカノウは若さの特権である思いきりの良さを生かせず、逆に荒削りを露呈。昨日危なげなく2セットを連取した杉田は、中断から約23時間後の試合再開から1ゲームも与えることなく約30分で勝利を決めた。

 この大会を含めてこれから2ヵ月あまり、錦織圭(日清食品)のいない日本のテニス界を、ほかの男子で支えていかなくてはならない。

「背負っているというほどでもないですけど、テニス界を盛り上げたいというのはある」と話す。

杉田祐一(三菱電機)

 まるでその思いを受け取ったように、ダニエル太郎がこれに続いた。ワイルドカードのトミー・ポール(アメリカ)はこの夏ブレークしてきた20歳の新鋭だ。今月初めのワシントンで錦織を大いに苦しめるなど、159位というランキングでは評価できない勢いがある。

 しかもダニエルのほうは、ウィンブルドンのあと5大会に出て1勝しかしていない。「ここまで負け続けると、全然自信を持てなかった」。

 しかし、生まれた場所であり、グランドスラム初出場を果たした場所でもあるニューヨークに来て、気づかないうちに湧き出るエネルギーがあったのか、第1セットを6-1といい滑り出しを見せる。一度はセット1-2とされたが、気力を振り絞って逆転勝ちをもぎ取った。

 次の相手はラファエル・ナダル(スペイン)だが、「まさかナダルとこんな大きい舞台でやれるなんて…」と実感が湧かない様子。その後、試合はセンターコートのナイトマッチに入ることが決まった。この日のためにテニスをやってきたと言ってもいいだろう。自信喪失の中、よくぞ勝ってくれた。

ダニエル太郎(エイブル)

 女子も続いた。まず、大きな仕事をしたのが日比野だ。昨年の全豪オープンでのグランドスラム・デビューから7大会連続で初戦敗退を喫してきたが、「今年中にグランドスラムで一勝」という目標を叶える最後のチャンスとしてこの大会に臨んでいた。

 相手は15歳から全米オープンに出場しているアメリカのホープ。過去のグランドスラムでは、初戦からシード選手とばかり対戦するドロー運の悪さが日比野の連敗の背景にあったが、「そのおかげで大きいコートにも慣れて、緊張しなかった」と、完全アウェーのショーコートにも平常心をキープした。第1セットを6-3で先取。最終セットにもち込まれ、ブレークを先行される苦しい展開だったが、「最後まであきらめず、ポジティブに試合を運べた」と、3-5から4ゲーム連取の逆転劇を見せた。

日比野菜緒(LuLuLun)

 このあと先にコートに入ったのは尾﨑だったが、その試合の第2セット終盤でコートに入った奈良が先に勝利を決めた。

 何しろ尾﨑のほうは、3時間2分もの大接戦。第2セットでサービング・フォー・ザ・マッチを迎えながら締めくくることができず、最終セットも序盤のリードを守れない。第10ゲームで5つのマッチポイントをしのぎ、タイブレークにもち込むと、そこでも3-5の劣勢から巻き返した。苦しみ抜いた試合の締めくくりは、奈良が試合を終えたコートからちょうど駆けつけてきた関係者たちの目の前で。

尾﨑里紗(江崎グリコ)

 まだ1回戦ではあるが、ジェットコースターのような一日は、この先にまだ何かが起こる前触れだと信じたい。

(テニスマガジン/ライター◎山口奈緒美)

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