錦織圭vsスタン・ワウリンカ(スイス)の準々決勝が終わり、日本のメディアの緊張もとけたような気がします。でも、それは一瞬のことで、コートに行けば今日も激しい戦いが続いています。

それにしてもワウリンカの錦織対策は見事でした(詳しくはレポートで!)。

錦織のテニスを封じましたね。試合前の練習で軽くラリーをして、バックハンドのクロスとダウン・ザ・ラインを正確に打ち分けて、サービスをチェックして早々と引き上げていった姿を思い出すと、あのときはもはや、やるべきことが明確で強い決意をもっていたのだと思えてきます。やられた…という気持ちです。

ディフェンディング・チャンピオンという肩書きがついて回るワウリンカは、今大会はたいへんなプレッシャーにさらされているはずですが、でも、その言葉を使った質問を受けるたび、新しい大会だと思って参加している、と落ち着いて返していて、そういうメンタリティも強みになっている気がしました。

錦織の挑戦を受ける立場ではなく、あくまでも“挑戦者”でいたようです。

 次の準決勝の相手は第1シードのノバク・ジョコビッチ(セルビア)。対戦成績はジョコビッチが16勝3敗と大きく勝ち越していますが、5セットマッチのグランドスラム、とりわけ直近の3試合はいずれもフルセットのロングマッチで、またまた死闘となりそうです。

2014年全豪 ○ワウリンカ 2-6 6-4 6-2 3-6 9-7 ●ジョコビッチ(4時間)

2013年全米 ○ジョコビッチ 2-6 7-6(4) 3-6 6-3 6-4 ●ワウリンカ(4時間9分)

2013年全豪 ○ジョコビッチ 1-6 7-5 6-4 6-7(5) 12-10 ●ワウリンカ(5時間2分)


ワウリンカのコーチ、マグナス・ノーマンが昨春テニスマガジンのインタビューに答えてくれた中で、「ビッグ4の長い時代をワウリンカが破って、彼の次にまた新たなグランドスラム・チャンピオンは誕生すると思いますか?」という質問に対して、

「ビッグ4(ジョコビッチ、ナダル、フェデラー、マレー)は大きな時代をつくってきて、まだ健在。でも、あえて言うならディミトロフ、ラオニッチ、錦織でしょう。錦織はどんなサーフェスでも同じようにプレーできるようになった。それは大きな進化で、またサービスも改善されてきました」

と答えています。錦織がUSオープンで決勝に進む前のコメントです。

ワウリンカは、悪いことが起きるとその方向に向かっていってしまうところがあるように思います。昨年全オーストラリアン・オープンで優勝したときはそれがなく、よい方向に突き進みましたが、その後の戦いではやはりそれが顔を出す場面が見られました。

でも昨日の錦織戦では、やるべきことを一貫して行い、高いレベルで集中し続けました。グランドスラマー、世界4位の実力でした。

錦織がグランドスラムのベスト4へ進出できなかったのは残念でしたが、また実力を上げた大会になりました。

1~3回戦の下位選手たちからの猛攻を振りきったこと。4回戦でダビド・フェレール(スペイン)のような長年トップクラスでプレーしてきた鉄壁のディフェンス力を持つ相手を、オフェンス力で上回ってストレート勝ちしたこと。準々決勝までたどりついて、上位選手のワウリンカにしてやられたものの、錦織を警戒して万全の準備をして臨まれたこと。それは錦織のテニスを評価してのことです。

…錦織がワウリンカのテニスを一段引き上げたのかもしれませんが。

これまではロジャー・フェデラーが、攻撃的なオールラウンドテニスで男子テニス界を牽引してきましたが、しかし、ここにきて男子テニスはよりスピーディな展開へと引き上げられています。錦織はその先頭にいて、動きの早さ、頭脳的なゲームメイク、コース変更、タイミング変更、さらには相手の裏をかくテクニックまで、新しいテーマを提供している張本人に違いありません。

これまでややディフェンシブなテニスに寄っていたアンディ・マレー(イギリス)が、今大会は以前よりも攻撃的にポイント獲得を目指しているように見えます。マレーは昨年末のATPワールドツアー最終戦で錦織に4-6 4-6で敗れています。変化のきっかけの一部に錦織があるのでは? そんな想像もしてしまいます。

(編集部A)

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