「さよならロベルタ」ビンチがローマでテニスと涙の別れ

 ロベルタ・ビンチ(イタリア)は、単に2015年USオープンでセレナ・ウイリアムズ(アメリカ)を倒し、彼女のグランドスラム達成を阻んだことだけのために、人々の記憶に残ることを望んではいなかった。

「BNLイタリア国際」(WTAプレミア5/イタリア・ローマ/5月14~20日/賞金総額335万1720ドル/クレーコート)の女子シングルス1回戦で敗れたあとに引退したビンチはまた、女子ダブルスで世界1位となり、サラ・エラーニ(イタリア)と組んでダブルスの生涯グランドスラムを達成してもいた。彼女はまた、4度にわたるイタリアのフェドカップ優勝に大きく貢献した。

「セレナのことだけじゃない」とビンチは言った。

「よりキャリア全体の成就のために覚えていてもらえたら、ありがたいわ」

 それでも35歳のビンチは、セレナに対する試合を振り返り、どうしてあんなことができたのか、と考えを巡らせることがあると認めた。

「そんな風に思ったことは何度もあるわ。ええ」とビンチは笑いながら言った。

「信じられないような勝利だった。もちろん、私のキャリア最高の勝利であり、たぶんファンたちは、セレナ、観客などすべてとともに、私のことを記憶するのかもしれない。あれは信じられないほど素晴らしい日だったわ」

 ニューヨークでのその試合の間、ビンチは桁外れのパフォーマンスで、セレナ贔屓の観客の心さえも勝ち取った。それから彼女は、同胞対決となった決勝で、フラビア・ペンネッタ(イタリア)に敗れたのだった。

 ペンネッタに敗れたあとと同じように、フォロ・イタリコでラッキールーザーで本戦入りしたアレクサンドラ・クルニッチ(セルビア)に6-2 0-6 3-6で敗れたあと、ビンチは微笑んでいた。

「私は、“今日がおそらく最後の日なのだから、楽しみ、微笑むよう努めるのよ”と自分に言い聞かせていたの」とビンチは言った。

「私は、観客や私の両親、私のチーム、友達がそこに来ていてくれたことを、うれしく思っていた。私は負けた――それはわかっているけれど、それでも幸せよ。それ(幸福感をもってキャリアを終えること)が私が望んでいたことだった」

 新古典派の彫像に囲まれた絵のように美しいピエトランジェリ・コートのビッグ・スクリーンに、自分のキャリア・ハイライトのビデオが映し出されている間に、ビンチは涙をぬぐった。

「私は今、泣いているけれど、それでも幸せよ。自分が達成したことをうれしく思っている」とコート上のセレモニーの際に、彼女は観客に向かって言った。

「よりよい試合をしたかったけど、負けたことは問題ではないわ」

 ビンチは自分のチームのスタッフと両親を抱擁し、イタリア・テニス協会会長のアンジェロ・ビナーギ氏から、21本の薔薇の花――彼女のキャリアの1年ごとに1本――を受け取った。
  
「いま話すのは簡単なことではないわ」とビンチは言った。

「私はただ“ありがとう”としか言えない。素晴らしい年月だった」

 ファンたちは『ありがとうロビー』と書かれた横断幕を掲げていた。

「明日から、私は休暇に入るわ」と彼女は、強調するためにイタリア語の「休暇」という言葉の各音節をはっきりと発音しつつ叫んだ。

「私はもう、続けられない」

 フェド杯でのビンチは、ペンネッタ、フランチェスカ・スキアボーネ(イタリア)、エラーニらとチームを組んでいた。このメンバーのそれぞれが、イタリア女子テニスの黄金時代に、グランドスラム大会決勝に至った経験を持つ。

「私たちは、家族なのよ」とビンチは言った。

「このグループと一緒にプレーできたことを、とても誇らしく思うわ」

 ビンチに対する対戦成績を4戦4勝に向上させたクルニッチは、ネットで長い間ビンチと抱擁を交わし、それから観客に向かって申し訳なさそうに手を挙げると、「ごめんなさい」と言った。

 この日もいつも通り、ビンチは、片手打ちバックハンドのスライスと、軌道の高いグラウンドストローク、そしてネットへの急襲などによって構成された、彼女独特のプレースタイルを頼みに戦った。

「私は、難しく、ほかとは違ったプレースタイルを擁していた。オールドファッションなスタイルをね」と彼女は言った。

「でも、このスタイルは、ときどき厳しいものでもあるの。いい調子をキープしなければならず、大いに走らねばならず、すべてのショットで(どう打つか)考えなければならないから」

 ビンチは、「でも今、私はリラックスし、スライスとかドロップショットとか、そういうことを考えなくて済むわ」と言い添えた。

「次に考えるのは、アイスクリームとコーヒーと、ショッピングね。ラケットでも、テニスでもなく」(C)AP(テニスマガジン)

※写真は引退セレモニーでのロベルタ・ビンチ(イタリア)
ROME, ITALY - MAY 14: Roberta Vinci of Italy waves to the crowd after the Women's singles first round match against Aleksandra Krunic of Serbia on day two of the Internazionali BNL d'Italia 2018 at Foro Italico on May 14, 2018 in Rome, Italy. This was Roberta Vinci's final match before retirement. (Photo by Julian Finney/Getty Images)

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