フェデラーの超現実的なショットにキリオスも仰天 [USオープン]

「USオープン」(アメリカ・ニューヨーク/本戦8月27日~9月9日/ハードコート)の男子シングルス3回戦。

 ニック・キリオス(オーストラリア)に対するロジャー・フェデラー(スイス)の勝利において、行方を分けた最たる部分は――このことは選手双方が認めていたが――17分の間に起きた。それは、フェデラーが3-3、0-40からのサービスゲームで、この苦境から逃れ出たときのことだ。

 もっとも壮観な部分? 試合を観た者なら誰であれ同意すると思うが、それは、そのずっとあとに起きた。それは、猛ダッシュしてドロップショットに追いつき、地面から数センチというところでボールをとらえ、ネットポストの外を迂回する形で相手コートに入れた、フェデラーのフォアハンドのウィナーだ。それはフェデラーが、試合が6-4 6-1 7-5で終わる数ゲーム前にやってのけた“離れ業”だった。

「ほとんど、超現実的だった」とキリオスは言った。彼は目を大きく見開き、口をぽかんと開けて、そのラケットの魔法に感嘆した。

「特別なやつだったね、間違いなく」とフェデラーは言った。数多い偉大なショットを生み出してきた彼自身が特別と言うのだから、それは間違いなくなにがしかの意味を持つ。

 ショットを有効とするのに、ボールがネットの上を越えなければいけないとする規則はない。しかしフェデラーは、これは彼が練習でトライするようなタイプのショットではないと釘を刺した。それは主に、通常は、アーサー・アッシュ・スタジアムのような大きなアリーナほどコート脇に走り込むスペースがないため、このようなことをすると「フェンスに突っ込んでしまう」からだ。

 キリオスのこのひとつ前の試合では、主審のモハメド・ラヒアーニが審判台から降り、劣勢に立たされていたキリオスがベストを尽くしていないことについて彼と話したことが、大騒ぎを巻き起こしていた。キリオスは、そのあと挽回して勝った。ラヒアーニはしきたりに違反したとして全米テニス協会(USTA)から注意を受けたが、大会で主審の仕事を続けることを許された。

 今回のキリオスは言うまでもなく、試合中に、自分で自分に向ける様々な音量のつぶやき以外には、どんなアドバイスも受けなかった。彼にはコーチがおらず、セラピー・セッションのように響いた最新の記者会見の間、彼はコーチを持つべきか、あるいはメンタル面を助けられる専門家の助けを得るべきか、口に出して迷っていた。

 フェデラーは、最終セットの5-5、40-15でキリオスがやった特に問題ある選択――大きく開いたスペースにシンプルにフォアハンドを叩きこむかわりに、ドロップショットを打ってネットにかけた――をほのめかしてこう言った。

「明らかに、あんなふうにプレーし、それで負けたら…常に反省すべきところは大いにあると思う。でも、それが彼のプレーのやり方なんだ」

 確かにその通りだ。

 キリオスの精神姿勢とフェデラーのそれの対比は、移り気だが、間違いなく才能あるこのオーストラリア人にとって、無駄ではなかった。

「僕たちは、非常に違ったキャラクターを持っている。でも、彼のやり方はお手本になるよ。彼がコート上でどうふるまっているか、彼の態度は」と第30シードのキリオスは言った。

「自分のことを過剰に変えたくはないが、彼がある種の状況でやることは、間違いなくお手本として取り入れられる。彼は、テニスをプレーしたい誰にとっても、究極の模範だよ」

 第2シードのフェデラーはフラッシングメドウで、出場した17回大会で連続となる4回戦進出を決めた。最後にここで優勝したのは10年前とはいえ、彼はUSオープンで5度タイトルを獲得している。

 フェデラー対キリオスの結果は、第3セットでフェデラーが『一体どうやってやるんだ?』と言いたくなるようなショットを打つずっと前、非常に早い段階で決まっていたのかもしれない。

 冒頭で触れた通り、この試合の第7ゲームで、フェデラーは総計4つのブレークポイントに直面した。最初の3つでは、キリオスがミスをした。4本目で、フェデラーはフォアハンドのウィナーを叩き込んだ。それからゲームはさらなる5度のデュースを通して続き、フェデラーは結局そのゲームをキープした。そしてキリオスはその後、もはや一度もブレークチャンスを手にすることはできなかった。

「あのゲームの直後から彼はリラックスし、皆が彼には打てると知っているすごいショットを打ち始めた。すべてのプレッシャーが消えたんだ。彼は信じられないほどすごい、トップランナーだよ」とキリオスは言った。

「彼が先頭に出たときには、できることはもうあまりない」

 また、この土曜日の午後には、ふたりの男子シード選手が敗れた。第4シードのアレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)と、第17シードのルカ・プイユ(フランス)だ。

 同国対決でフィリップ・コールシュライバー(ドイツ)に7-6(1) 4-6 1-6 3-6敗れたズベレフは、ニューヨークでまだ一度も4回戦に進出したことがない。一方のプイユは、ジョアン・ソウザ(ポルトガル)に6-7(5) 6-4 6-7(4) 6-7(5)で競り負けた。

 コールシュライバーは次のラウンドで、2014年USオープン準優勝者の錦織圭(日清食品)と対戦する。第21シードの錦織は、第13シードのディエゴ・シュワルツマン(アルゼンチン)を6-4 6-4 5-7 6-1で退けた。

 ナイトセッションでは、グランドスラム大会優勝歴13回のノバク・ジョコビッチ(セルビア)が第26シードのリシャール・ガスケ(フランス)を6-2 6-3 6-3で下した。一方、2014年覇者で第7シードのマリン・チリッチ(クロアチア)は午前2時過ぎに終わった試合で、19歳のアレックス・デミノー(オーストラリア)の挑戦を4-6 3-6 6-3 6-4 7-5で辛くも凌ぎ切った。

 第6シードのジョコビッチは準々決勝で、フェデラーと当たる可能性がある。

 しかしながらその前に、フェデラーは4回戦で世界ランク55位のジョン・ミルマン(オーストラリア)を、ジョコビッチは68位のソウザを倒す必要がある。ミルマンもソウザも、グランドスラム大会でかつてここまで勝ち進んだことはなかった。

「僕がこの試合で当然勝つと予想されていることはわかっている」とジョコビッチは言った。「同時に僕は、今日やったような集中力とパフォーマンスのレベルを保とうと努めているんだ」。

 フェデラーはミルマンのことをよく知っている。というのもふたりは、今季のグラスコートシーズンの前に、一緒に練習していたのである。(C)AP(テニスマガジン)

※写真はロジャー・フェデラー(スイス)のスーパーショットに驚きの表情を見せるニック・キリオス(オーストラリア)
NEW YORK, NY - SEPTEMBER 01: Nick Kyrgios of Australia reacts during his men's singles third round match against Roger Federer of Switzerland on Day Six of the 2018 US Open at the USTA Billie Jean King National Tennis Center on September 1, 2018 in the Flushing neighborhood of the Queens borough of New York City. (Photo by Matthew Stockman/Getty Images)

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