大坂なおみのUSオープン優勝により、日本でアイデンティティに関する議論が再開

 大坂なおみ(日清食品)のUSオープン優勝が、日本人とは何を意味するのか、という問いを提起してきたアスリート、ノーベル賞受賞者、美人コンテスト受賞者などのリストに彼女を加えることになった。

 日本人の母とハイチ人の父の娘である大坂は、日本で生まれたが、アメリカで育った。しかし彼女は、グランドスラム大会でシングルスのタイトルを勝ち獲った初の日本人選手として、日本で賞賛されている。そのことが、彼女の混血のバックグラウンドに関する問いへの注意をそらすことになった。

 かつて日本には、人種の混ざった家庭の子供たちが、いじめられ、さげすまれ、ハーフと呼ばれ、完全に日本人ではないと後ろ指を指された時代もあった。

 しかし今、日本は20歳の大坂を喜んで迎えている。彼女は――ほとんど日本語を話せないにも関わらず――彼女の第二の故郷への愛着について、愛情をこめて話している。しかし、彼女の勝利はまた、今や変わることを強いられている、単一種族の文化におけるアイデンティティについての人々の態度に、一石を投じることになった。

「無意識なのか意識的なのか、多くの日本人が抱いている『日本人である』ということについての極めて狭い概念が、緩んできているのか、確信をもって言うことはできませんが」とイングランドのサセックス大学でアイデンティティの研究をしている橋本直子は、APへのメールの中で述べた。

「私の意見では、日本人はいまだ、一般的には、日本人の父と日本人の母の間に生まれ、完璧な日本語を話し、日本人のようにふるまうものとして定義されているようです」

 しかし、アスリートや有名人は、違う範疇に入るようだ。混血のバックグラウンドを持つスポーツスターの数がますます増えている中、大坂には、この国に多くの仲間たちがいる。例えば以下だ。

――ダルビッシュ有。MLBシカゴ・カブスのピッチャー。日本人の母とイラン人の父を持つ彼は、大阪で生まれた。

――ベイカー茉秋。柔道のリオ五輪金メダリスト。日本人の母とアメリカ人の父の間に生まれた。東京生まれ。

――ケンブリッジ飛鳥。陸上4×100mリレーのリオ五輪銀メダリスト。ジャマイカで、日本人の母とジャマイカ人の父の間に生まれ、日本で育った。

――サニブラウン・アブデル ハキーム。陸上の短距離選手。日本人の母とガーナ人の父の間に、東京で生まれた。

――室伏広治。ハンマー投げの五輪メダリスト(2004年アテネ金、2012年ロンドン銅)。ルーマニア人の母と日本人の父の間に生まれる。日本生まれの日本育ち。

 室伏は、自分は常に自分が日本人であると感じていた、と言う。

「自分が、混合の文化遺産と伝統を持つことは知っているが、私は常に自分が日本人であると感じてきた」と彼は言った。彼はまた「それは、私が気にかけていることでも何でもなかった」とも言い添えた。

 日本における見るからに混血のアスリートは、2020年東京五輪が近づく中、間違いなく増加していくことだろう。この国は、歴史の浅いスポーツで、有能な競技者を探している。

 2年前のリオ五輪では、逆のことが起こった。ブラジルは、ブラジルが専門としないスポ―ツで戦うため、日本にルーツを持ったアスリートたちを――200万人以上のブラジル人が、日本人の祖先を持つ――擁していたのだ。

 大坂は、「あなたは新しいタイプの日本人(――人種の混合であり、3つの文化を代表した――)だと思いますか」と尋ねられた。

「私にとっては、ただ私という人間よ」と彼女は答えた。

「ときどき私にこんな質問する人がいるけど、本当に面食らうわ。そのことについて考えなきゃいけないから。わからないわ。私は3つの別の文化とか、何かの混合とか考えたりはしない。私は、ただ私は私だ、とだけ思っている」

 人々は、自分が「日本人ぽく」振舞っていると言う、と大阪は明かした。「でも、私のテニスはあまり日本人的じゃないと思う」とも彼女は言い添えた。

 大阪は、コート外での優しさと気品、コート上での激しさで日本の視聴者を魅了した。彼女は日本食が大好きだと話しており、カツカレーが好物だと言う。

 ごく最近、自動車メーカー大手の日産と大きな契約を結んだ彼女は、またここ2年カップヌードルの会社、日清食品のサポートを受けてきた。日清は、彼女の勝利を記念した新しいカップヌードルを新発売することになっている。

 東京でテニスショップを経営するウインザー商事のスポークスマンは、客は大坂が使ったのと同じラケットを買いたいと言ってくるという。彼は2年前、彼女が店を訪れた際に本人に会ったことがあると話した。

「私の印象では、彼女は非常に物静かで、テニスをプレーしているときのパワフルなイメージはありませんでした」と彼はNHKに語っている。

 人種に関する論争は、2016年に吉川プリアンカがミス・ワールド・ジャパンになったときにも浮上した。彼女の母は日本人で、父はインド人。彼女は東京で生まれていた。

 これは宮本エリアナがミス・ユニバース・ジャパンでグランプリに輝いた1年後に起きた。彼女は日本で、日本人の母と、アフリカ系アメリカ人の間に生まれた。

 サセックス大学研究者の橋本は、日本の法律下では、大坂は22歳になる前に、自分の国籍を選ばなければならないという。彼女は現在20歳であり、(日本では)法律的にふたつのパスポートを保持することは許されない。

 橋本はまた、最終的に他の国籍を取得した3人のノーベル賞受賞者にも言及した。小説家のカズオ・イシグロはイギリスのパスポートを保持しており、科学者の南部陽一郎と中村修二は、ともに現在はアメリカ国籍を擁している。

 彼女は、厳しい1パスポート・ルールは、日本の偉大な才能を国外に逃す頭脳流出につながる恐れがあると言う。

「大坂なおみの優勝は、それ自体が祝われるべきである一方で、彼女のケースは『日本人らしさ』に関して狭い概念をもっていた日本人たちに、日本人であるとは何か、を考え直させる素晴らしいチャンスを提供しているのです」と橋本は言った。(C)AP(テニスマガジン)

※写真は横浜市内のホテルで行われた帰国会見での大坂なおみ(日清食品)
YOKOHAMA, JAPAN - SEPTEMBER 13: 2018 US Open Women's Singles champion Naomi Osaka of Japan poses for photographers during a press conference on September 13, 2018 in Yokohama, Kanagawa, Japan. (Photo by Kiyoshi Ota/Getty Images)

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