この夏のインターハイ(全国高校選手権)で、高校テニス界の頂点に立った。

 だが周囲からそう言われると、彼女は、いくぶん居心地の悪さを覚えるという。

「優勝したけれど、内容が納得できないので……」

 それが阿部宏美(愛知啓成高校)が抱えるジレンマの、最大のタネである。

 全国優勝にも関わらず「納得できない」理由は、彼女の完璧主義者的な性質にあり、その高い理想を追う性向は、矛盾するようだが、エリート街道とはやや異なる道を歩んだ来歴に拠るところが大きいかもしれない。

 小学生時は、全国大会上位進出の常連だった。地元の東海地区では、天才少女と呼ばれたこともある。だが、中学校に上がった頃に肘を痛めると、それまでと風向きが変わり出した。通っていたテニススクールを止め、他のクラブに所属するも、そこは学校帰りの子供たちが立ち寄るような、あくまで“習い事”の場。練習量は少なくなり、そうなれば成績が落ちるのも必然だった。

 ただ、指導者らしい指導者も存在しなかったこの中学生時代が、彼女のテニスに向き合う一つの姿勢を形作る。

「サーブは、どうやればもっと上手くなれるか?」
 
「試合には勝ったけれど、相手の子の方が上手だったネットプレーを、自分はどうすれば上達できるか?」

 試合を重ねるたびに課題を見つけ、自ら考えながら答えを追った。

 そのような取り組みは、愛知啓成高校に進学した頃から急激に実を結びだす。

「試合をやるたびに、『つかんだ』と感じるものがあって。『フォアがうまくなったな』とか」

 この頃は、試合が終わるごとに「強くなる」自分を実感できたという。実際に成績も、ふたたび全国上位の常連にまでなっていた。

 その状況がやや変わりだしたのは、ライバルと目していた年長者たちが卒業し、最上級生になったとき。

「勝って当然」――周囲から感じるそのような視線が、「負けたくない」との思いを生んでいく。すると知らず知らずのうちに、攻撃的なプレーが影を潜め、「ミスを減らし、とにかくラリーをつなげるテニス」へと変容していた。

「こんなテニスではなかったという思いは、めっちゃあります」

 葛藤を吐き出すように彼女は言った。

 そんな彼女が久々にかつてのテニスを思い出したのが、先週のITF牧之原大会でのこと。初めて出場するプロの国際大会では、プレッシャーも先入観もなく、年長者の実力者相手に自ら攻めてポイントを取った。それはこの1年ほど感じることの出来なかった、懐かしい感覚だったという。

 着心地の悪い“インターハイ優勝者”の肩書きなどに、束縛される必要はない。チャレンジャーの立場に身を置いたとき、阿部が目指す理想のテニスがコートに描かれるはずだ。

レポート◎内田暁(大会オフィシャルライター)

※写真は阿部宏美(愛知啓成高校)
写真提供◎浜松ウイメンズオープン実行委員会
撮影◎てらおよしのぶ

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