•  試合当日の朝の練習時に、「あれ? ちょっとおかしいぞ、自分!?」の思いに襲われた。

     腕が上手く振れていない。ラリーがなかなか続かない。

     鮎川真奈(エームサービス)がその日戦う相手は、「意識しないように」と自らに言い聞かせるほどに、意識せざるを得ない選手である。

     澤柳璃子(リンクス・エステート)は、同期のライバルであり、15歳からの3年間、毎日のように朝夕ともに練習した友人だった。

    「いい試合をしたいというより、勝ちたい……璃子に勝ちたいと思いすぎて、気持ちが空回りしてしまう」

     過去の対戦では、いつもそうだった。今回はそうならないようにと思っていたのに……そして前日までは何も無かったのに、やはり朝の時点で硬くなっている自分がいた。

     そこで彼女は、受け入れた。意識してしまう自分を。

     だから、いつもとは違う自分のプレーになるだろうことも。

     対する澤柳は、特に相手を意識することはなかったという。少なくても彼女は、そう思っていた。だが試合が始まると、それまでに比べると動きが硬い。

     その相手の姿を見て、鮎川はいくぶん安堵した。

    「相手も、私と同じように思ってたんだ……」

     そう感じたとき、やるべきことは明確になった。

     この試合での澤柳は、いつも以上にスライスやロブを多用した。ただそれは、鮎川にしてみれば想定内。170cmの長身から打ち下ろされる鮎川の強打を乱すため、鮎川と戦うときの澤柳は、いつも以上に緩急をつけてくる。だからこの日の鮎川は、我慢した。強打したい気持ちを抑え、「相手より1本でも多く返す」ことを肝に銘じたのだ。

     そのような鮎川の決意を、ネットを挟む澤柳も感じただろう。そこで彼女は、ネットプレーに活路を見いだした。ネットに出て、相手を一層振り回し、最後はスマッシュを豪快に決める。第2セット序盤は、澤柳が流れに乗りかけていた。

     その兆しを断ち切ったのが、第2セット第3ゲームに飛び出した“一撃”。ネットに出てきた澤柳の横を、バックの豪快な強打で抜いた鮎川は、この日一番の「カモン!」の叫び声をあげた。

    「ずっと『いつか打ってやるぞ』と思っていたところで、やっと殻が破れた。気持ちよかった」

     それまで自分を抑え、勝利に徹していた鮎川が、ようやく束縛を打ち破るように放った“らしい”強打――。その1本のパッシングショットを起点として、鮎川が主導権を掌握した。最後はふたたびもつれかけたが、「ここを落としたらあとがない」と自分を追い込み、そして勝ち切る。

     我慢をすること、そして、リードした展開から最後をしっかりしめること。

     それらの課題を克服して手にした勝利は、彼女の成長の証だった。

     ITF2.5万ドルの決勝進出は、これが初めての経験。だが準決勝で勝利したとき、鮎川に満足感や安堵はまるで無かったという。

    「自分のテニスが今日は出来てないので。もっと出来るでしょ、と思っている自分がいます」

     自分のテニスで優勝をつかみとるべく、決勝戦は、第1シードの清水綾乃(Club MASA)へと向かっていく。

    レポート◎内田暁(大会オフィシャルライター)

    画像: 澤柳璃子(リンクス・エステート)(写真提供◎浜松ウイメンズオープン実行委員会、撮影◎てらおよしのぶ)

    澤柳璃子(リンクス・エステート)(写真提供◎浜松ウイメンズオープン実行委員会、撮影◎てらおよしのぶ)

    ※トップ写真は鮎川真奈(エームサービス)
    写真提供◎浜松ウイメンズオープン実行委員会
    撮影◎てらおよしのぶ

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