ナダルが、死者を出した洪水による惨状を語る

 彼の目は悲し気にうつろい、彼の声は痛みを映していた。ラファエル・ナダル(スペイン)は、スペインのマヨルカ島での、死者を出した洪水によって引き起こされた荒廃について語った。

 10月9日、激しい暴風雨が鉄砲水を引き起こし、押し寄せた水と泥のせいで多くの車が流され、建物が壊されて、13人が命を失った。5歳の子供と母親の乗っていた車は川の水と泥に押し流され、濁流がふたりの命を奪った。マヨルカ出身のナダルは、被害者の何人かを知っていた。

「(亡くなった)子供と母親。僕は彼らのことを知っている。彼らは僕の親友のひとりの親戚だったんだ。だから僕はこの状況を内側から経験し、子供を探している人々のドラマを本当に目の当たりにした」とナダルはパリで語った。この話をしている間、彼の声は悲しみに震えた。

「それは、この人生の一部なんだ。回復するのがほぼ不可能なほど、不幸な状況だ」

 マヨルカ島のある地区は、約4時間にわたり、同エリアの1年の平均降水量の3分の1にも及ぶ、23cmもの降水量を記録した。

「災害は、僕の住んでいるところからほんの6kmほどの村で起きた。僕は家にいたんだが、雨はぜんぜん止まなかった」とナダルは言った。

「僕の家のすぐそばの村で起こったすべては、本当にむごいことだった。ひとつではなく、いくつもの村に被害があったが、特にサン・リョレンクがひどかった」

 強い濁流が、人口8000人の町の道を通りすぎる過程で車を押し流し、木を引き抜いた。水浸しの道々と、流れによって転覆した車の累積、そのうちのいくつかがメインの道路のガードレール沿いに並んだ様子は、サン・リョレンクで見られた共通の風景だった。また隣町のアルトラ、シロットの海沿いの村でも被害者が出た。

 ナダルは、非常に密接に結びついた地域社会の中での、膨大な喪失感を表現した。

「あそこにいなかったら、村の内部の様子がどんなであるか、想像することはできない。あの村の中には、多くの家族がいる」とナダルは言った。

「僕の母の家族、祖母、姉、こちらの側の家族の皆はあそこの出だ。だから僕は、その皆と大いに繋がりがあるんだよ」

 ナダルは、サン・リョレンクで住民が彼らの家から泥を除去する手助けをし、マヨルカ島にある彼のテニスアカデミーは、洪水の被害を受けた人々に避難所を提供した。彼はサポートを提供し続けたいと考えている。

「ロレックス・パリ・マスターズ」(ATP1000/10月29日~11月4日/フランス・パリ/賞金総額544万4985ユーロ/室内ハードコート)で膝の故障を経て復帰を果たそうとしているナダルは、サン・リョレンクの人々を助けるため、12月にマヨルカでエキシビション・イベントを行う予定だと言った。

「僕らができる唯一のことは、彼らが失ったすべてを取り戻す手助けをする、という形で彼らをサポートするよう努めることだ。失われた命に関しては、どうしようもないけれど」とナダルは言った。

「僕らは物質的意味で、すべてを失った人々のために資金を集めることができるよう、何かを生み出そうと努めている。命を失った人々のためには何もできないから、少なくとも物質的に援助できるように。本当に悲しいことだ」(C)AP(テニスマガジン)

※写真はラファエル・ナダル(スペイン)
PARIS, FRANCE - OCTOBER 28: Rafael Nadal of Spain speaks during a press conference ahead of the Rolex Paris Masters on October 28, 2018 in Paris, France. (Photo by Justin Setterfield/Getty Images)

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