世界が目にした特別な夜ーーフェデラーが20歳チチパスに敗れる [オーストラリアン・オープン]

 途切れない支配が消えても、ときどき休止期間をとってはいても、ロジャー・フェデラー(スイス)はいつも、グランドスラム大会の最終日にその真価を発揮することが多い男だった。ごく最近までは。

「オーストラリアン・オープン」(オーストラリア・メルボルン/1月14~27日/ハードコート)の大会7日目に行われた男子シングルス4回戦で、37歳のフェデラーは自分よりもずっと若い20歳のステファノス・チチパス(ギリシャ)に7-6(11) 6-7(3) 5-7 6-7(5)で敗れた。

 この驚きは、フェデラーのメルボルンパークでの3連覇の夢に終止符を打つことになった。

「僕には、膨大な後悔の念がある」とフェデラーは言った。彼はチチパスに対し、手にした12のブレークポイントのどれ一つをも取ることができなかったのだ。

 この勝利でチチパスは、グランドスラム大会の準々決勝に進出した初のギリシャ人プレーヤーとなった。

 一方、この負けでフェデラーは、準決勝に至れない状況が4つのグランドスラム大会で続いたことになる。フェデラーは2018年フレンチ・オープンをスキップし、ウインブルドンは準々決勝で不覚をとり、USオープンでは4回戦で敗れていた。

 これは、フェデラーが獲得した20のグランドスラム・タイトルの最初のものを獲った2003年ウインブルドン以降で最長となる“不毛期間”だ。

「ロジャーは僕らのスポーツの伝説の偉人だ。僕は彼に膨大な敬意を抱いている。彼は何年にもわたり、素晴らしいテニスを披露してきた。僕は6歳のときから、彼に憧れていたんだ」とチチパスはコメントした。

 彼はセレナ・ウイリアムズ(アメリカ)のコーチ、パトリック・ムラトグルーとともにトレーニングしてきた。

「僕にとって、これは夢の実現だ…ただ彼と対戦すること自体が」とチチパスはフェデラーについて語った。

「最後には勝ったこと? 言葉では言い表せない」

ステファノス・チチパス(ギリシャ)(写真◎Getty Images)

 フェデラーはドローに残っている中でもっとも年齢の高い選手で、もしこの日勝っていたなら、1977年に43歳でベスト8入りしたケン・ローズウォール(オーストラリア)以来、最年長の準々決勝進出者となっていたところだった。

 ピンクのヘアバンドで乱れた髪をまとめている長身でひょろりとしたチチパスは、今年ベスト8に勝ち上がった中で最年少のプレーヤーだ。彼は、フェデラーが6度目のオーストラリアン・オープン優勝を決めた昨年、1回戦で敗退していた。

「もちろん、ロジャーに対する素晴らしい勝利だ。ロジャー・フェデラーが誰か、彼がテニス界で何をやったかは、皆が知っている。でも、僕は達成したいと思っている未来のゴールのために、集中力を保ち続けなければならない。これは非常にいい始まりだ。僕は慎ましくあり続ける必要がある」とチチパスは言った。

 彼は次に、グランドスラム大会で初の準々決勝に進出したもうひとりの選手、第22シードのロベルト・バウティスタ アグート(スペイン)と対戦する。

「この勝利はいいマイルストーンだ。いい第一歩だ、と言っておこうか。前にも言ったように、より大きな何かのためのね」

 少なくともフェデラーは、チチパスは若き日の自分を思い起こさせるかと尋ねられたときに、こう答えてジョークを飛ばすことはできた。

「彼はバックハンドを片手で打つ。そして僕もかつて、髪を長くしていた」

 誰かがフェデラーはもう終わりだ、などと書く前に言っておくが、こういった輩はもうかなり長いこと、そういうことにしようと努め続け、フェデラーが繰り返しタイトルに戻ってきていた事実を思い出してほしい。

 この躓きのあとフェデラーは、今季は過去3年間スキップしていたフレンチ・オープンを含め、一連のクレーコートの大会でふたたびプレーするつもりだと発表していた。

 この日の試合は、質の高さという意味でも、双方のプレーヤーの華やかなプレースタイルという意味でも、最初から最後までスリルに満ちていた。これは皆がずっとフェデラーから期待してきたものだが、世界は第14シードのチチパスに何ができるかを、今学びつつあるところだ。

 彼の巧みなラケットさばきはボレーで役立っており、彼はフェデラーと同じくらい頻繁に前に出て、ほぼ同じくらいの頻度でネットプレーに成功する数少ない選手のひとりだ。

 ややひんやりしていたこの夜、チチパスはネットに出た68回のケースのうち48ポイントを取り、対するフェデラーは66回で50ポイントを取った。

 チチパスはまたサービスがよく、エース数ではフェデラーの12本に対して20本とはっきり上回り、これのおかげでフェデラーがブレークチャンスをつかんだ際にうまく切り抜けることができていた。第1セットで2回、第2セットで8回、第3セットで2回あった。

 試合の第1ゲームでチチパスは2度、今年からメルボルンで採用されている「サーブクロック」の25秒(制限時間)を使い切り、タイムバイオレーションの警告を受けた。2度目の警告はサービス1本の喪失を意味し、チチパスは続いてダブルフォールトをおかしてフェデラーにブレークポイントを与えてしまった。

 そのブレークポイントで、チチパスは最初フォールトとコールされた時速198kmのサービスをチャレンジ(自動ライン判定)で覆し、フェデラーのチャンスをもみ消した。フェデラーは審判のジェームズ・ケタボンヌに、ポイントをやり直すべきだと主張したが要求は受け入れられず、それがフェデラーを怒らせた。

 それがパターンの合図だった。各カギとなる瞬間に、フェデラーが躊躇うか、チチパスが何か特別なことをするかだったのだ。

「踏ん張って、いくつかのポイントで自身にチャンスを与え、落ち着きを保つ。特に若い選手にとって、常に容易なことではない」と54度目のグランドスラム大会準々決勝進出を目指していたフェデラーは言った。

「そんなふうに管理できたことについて、彼を誉めて然るべきだ」

 チチパスは、第3セットまで自分自身のブレークポイントをものにすることが一度もできていなかった。そしてフェデラーがフォアハンドをネットにかけ、彼が必要としたたった一つのブレークをようやく彼がやってのけたとき、試合時間はほとんど3時間にさしかかろうとしていた。

 何か特別なものを感じ取った観客たちは、チチパスの名を繰り返し叫んだ。若手がべテランの巨匠を凌ごうとしているときに頻繁にそうであるように、観客席には、これは一つの結果という以上の意味がある何かの合図なのかについてのざわめきが起きていた。

 テニスを長く牛耳ってきたビッグ3――フェデラー、ラファエル・ナダル(スペイン)、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)――のそれぞれが、すでにこの大会で次世代からの挑戦を退けていた。しかし、この試合は違った。チチパスは違ったのだ。

「彼はテニス界の頂点に立つだろう」とフェデラーは言った。「それも、長いこと」。(C)AP(テニスマガジン)

※写真はロジャー・フェデラー(スイス)
MELBOURNE, AUSTRALIA - JANUARY 20: Roger Federer of Switzerland plays a backhand in his fourth round match against Stefanos Tsitsipas of Greece during day seven of the 2019 Australian Open at Melbourne Park on January 20, 2019 in Melbourne, Australia. (Photo by Fred Lee/Getty Images)

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