本日は冬のグラスコートよりレポートです。少し長いですが、グラスコートの豆知識にお付き合いください。

 そもそもグラスコートに使用される”芝”(グラス)とは何でしょうか?

 ウィキペディアを見てみると"1種類あるいは数種類の芝草を人工的に群生させ(中略)運動や休養や鑑賞は保安の目的に利用されるイネ科の多年草の総称”となっています。

 毎年、ウインブルドンのシーズンに色々と話題にのぼるグラスコートですが、結局は植物であり、自然の産物です。

 我々のクラブで使用している芝生は、夏の暑さに強く、冬の寒さに弱いティフトンという品種のため、冬場は”冬眠”します。

 土の中の平均温度が15度を下回ると、ティフトンは成長を止めます。こうなると傷ついた芝生の回復が難しくなります。弊クラブでは冬にのみ、メンバーの方々へ使用可能なコートを設けて限定的に使用することで、冬のシーズンを乗り切ります。

毎年、傷んだ部分を張り替えまず。修復が大きい場合は全面に及ぶことも珍しくありません。

 さて、これがウインブルドンの芝生になると、どのようなメンテナンスを行っているのでしょうか?

 一年を通した芝生の管理方法や育成方法は、全体的には非常に似ています。

 ウインブルドンも大会期間中以外にも、国の行事や大会もあり、何よりメンバーの方々がプレーするためにも、年間を通じてメンテナンスは欠かせません。

 そして、芝生の品種や、毎年の気候の変化に対応するために、ウインブルドンでも研究が続けられています。

 実はこれもあまり知られていない事実ですが、ウインブルドンの芝生は様々な品種の種を配合して改良を続けられています。

 1993年頃からは、特に非常に大きな発展を遂げたと、セミナーで解説をしていただきました。そのため、これ以前にしかウインブルドンでプレーしていない選手が、最近のウインブルドンでプレーをすると、過去のイメージとのギャップに驚くようです。

ウインブルドンで開催されるグラスコートセミナー。土や種はもちろん、用具やグリーンキーパーを取り巻く環境などについても講習会が開かれます。

 近年は世界的な気象の大きな変化に対応していくためにも、多くの研究費を使って研究を続けています。現在はRyegrassという品種の中から3種類の種を選択して配合しています。

 Ryegrassという品種の種だけでも、非常に数多くの品種が存在するだけでなく、その組み合わせによって群生を作る相性などもあるため、毎年のトライアルが続いています。

数多くのRyegrassの種の品種の中から3種類を混合したもの。毎年、品種や混合の割合は見直されます。

 また、見逃せない大きな要因が近年の気候の変化です。

 2018年のウインブルドン観戦でロンドンを訪れた方の中には、気づかれた方もいらっしゃると思います。

 ロンドンの多くの公園などで使用されている芝生は、依然として従来のRygrassが多いため、高温と多雨に対応できずに枯れてしまっているところも多いのに、ウインブルドンのコートの芝生は青々としていたことを……。そういったことも踏まえて、AELTCでは研究を重ねています。

ウインブルドンのセンターコートの芝生の管理方法として特徴的なことのひとつは、大会が終了すると、一度、コートの表面をすべてはぎ取って”選定”をすることにあります。このことにより、毎年、強い芝生の根を残すとともに、芝カスや雑菌の塊などを一度、きちんと排除します。

 芝生は生き物であるため、毎年同じということは、絶対にありません。

 また気を付けて観察すれば、朝と夕方でも微妙に違いますし、各コートごとに少しずつ違う事に気づくことができます。

 最近は世界ではハードコートが増え、日本では人工芝コートが主流となっています。しかし、イギリスで長い歴史の中で育まれてきた、テニスという競技はゴルフなどと同様に、“自然”と向かい合いながらプレーすることが本質として、どこかに込められているように、私には思えます。

シーズンオフのウインブルドンのセンターコート。次の熱戦に備えて必死に準備をしているのは、決してプレーヤーだけではありません。

 日差しや風向き、湿度や温度、昨日までの雨や、前の試合で他の選手が削ったシューズの跡。芝生の上では、かすかな変化がダイレクトに伝わります。

 相手や自分のプレーだけでなく、コートの状態や、天候のトラブルも含めたテニスのプリミティブな楽しさと難しさを教えてくれるのが、グラスコートの魅力だと、私は思います。

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