今年3大会目のグランドスラム「ウインブルドン」(イギリス・ロンドン/本戦7月1~14日/グラスコート)女子シングルス決勝。

 テニスの聖地ウインブルドンでチャンピオンになった20分後、女子シングルス優勝トロフィー「ローズウォーター・ディッシュ」をしっかりと携えたシモナ・ハレプ(ルーマニア)は、大会優勝者のリストの書かれたセンターコートの中のプレートをチェックした。

 彼女の決勝の相手だったセレナ・ウイリアムズ(アメリカ)の記載がいくつも並んでいる下に、すでに彼女の名が刻まれていた――『Miss S・ハレプ』と。

 この試合を前にしたハレプは、セレナのグランドスラム24勝という大記録達成を阻むことを気にかけてはいなかった。ハレプが気持ちを割いていたのは、オールイングランド・クラブで彼女の最初のタイトルを勝ち獲ることだけだった。

 そして彼女は、ほとんど完璧なプレーを披露した。

 最初から最後までベストのレベルでプレーした第7シードのハレプは、目覚ましい勢いで第11シードのセレナを6-2 6-2で圧倒し、グランドスラムで2度目のタイトルをつかんだ。

 全時代を通してのグランドスラム・タイトル獲得数でセレナがマーガレット・コート(オーストラリア)の最多記録「24」に追いつくことを目指しながら3度連続で決勝に敗れた中、すべてにかかった時間は1時間にも満たなかった。

「間違いなくこれは、私の生涯で最高の試合だったと思うわ」とハレプはコメントした。

 この試合でのハレプは、わずか3本しかアンフォーストエラーを犯さなかった。これは特筆すべき数字であり、セレナよりも23本も少ない。

 過去のビッグマッチでどれほどナーバスになっていたかを率直に明かし、セレナに対して10戦9敗という戦績でこの日を始めていた選手にしてはまったく悪くない数字だ。最初の3つのグランドスラム決勝で敗れたあと、ハレプは昨年のフレンチ・オープンを皮切りにふたつの決勝に続けて勝ったことになるのだ。

「彼女は文字通り、全身全霊を込めてプレーしていた。おめでとう、シモナ」とセレナは表彰式の際にスピーチした。

「私にとっては、ちょっぴり“ヘッドライトに照らされた鹿”みたいに面食らってどうしたらいいのかわからない状態だったわ」

 過去2度のグランドスラム決勝でのセレナは、1年前のウインブルドンでアンジェリック・ケルバー(ドイツ)に、続く9月のUSオープンでは大坂なおみ(日清食品)に、やはりストレートで敗れていた。

「私はただ、“どうやって決勝に勝つか”の答えを見つけ出さなければならないわね」とセレナは今後の課題について口にした。

 37歳のセレナは、プロ化以降の時代での最多記録である23度目のグランドスラム制覇を果たした2017年オーストラリアン・オープン以来(コートは彼女のタイトルのうち13をアマ大会だったときに獲得した)、どの大会でも優勝していない。

 最後に優勝したときすでに妊娠していたセレナは、それから1年以上ツアーから離れていた。そして彼女の娘、オリンピアが2017年9月に生まれた。

 テニスツアーに戻って以来、セレナはいくつもの故障に対処しなければならなかったが、それでも何とかエリートの中に留まっていた。体調不良や左膝の問題のせいで、彼女はシーズン開始からウインブルドンが始める前までの期間に12試合しかプレーすることができていなかった。

「ただ、戦い続けなければならない。とにかくトライし続けなければ」とセレナは決意を新たにした。

 その土曜日の決勝で、27歳のハレプがセレナにとって容易な相手にはならないだろうということを示して見せるのに、それほど長い時間はかからなかった。

 一度は彼女を世界ランク1位に押し上げた才能と強みを見せつけたハレプは、セレナに対して決して本当の意味で試合の核心に入っていくチャンスを与えなかった。

「私はこれまで、セレナと対戦するときにはいつも少し威圧されてしまっていた。彼女は皆にとってのインスピレーションであり、皆にとってのお手本なのよ」とハレプは語った。

「私は今日の試合前に、自分自身とグランドスラム大会の決勝だけに集中しようと決めたの。彼女と対戦するということについてではなくてね。だからこそ、私は自分のベストのテニスをすることができたと思う。リラックスし、強敵である彼女に対してであってもポジティブな気持で自信を持ってプレーすることができたのよ」

 いつも通り、ハレプはすべてのショットを追いかけた。しかしながら滅多にディフェンスに回ることなく、セレナが決めたかに見えるショットを返球するところからあっという間に自分のウィナー叩き込むところまでもっていくことができていたのだ。

「私は決めようとし過ぎ、強く打ち過ぎていた」とセレナは振り返った。

「彼女がものすごく多くのボールを返してきていたから…」

 この試合で見せたハレプのリターンは並外れており、セレナのラケットから時速185km以上の速度で打ちだされるサービスを繰り返し打ち返した。

 気温が20度台前半だったその涼しい午後、曇り空の下でハレプはいきなり2つのサービスブレークから試合を始めた。彼女は時速170kmで最初のサービスエースを決めるなどして、何と11分後には4-0とリードしていた。

 試合が始まってからハレプは最初の18ポイントのうち14本を取り、観客の多くはセレナが取る稀なポイントのたびに大歓声を上げた。ハレプは最初のアンフォーストエラーを犯す前に8本のウィナーを記録し、第7ゲームまでたった1本の凡ミスさえを避け続けた。

 それとはまったく対照的に、セレナはやや硬くなっているように見えた。彼女は腕が縮まったような状態でショットを打ち、最初のウィナーを奪う前に9本のアンフォーストエラーを積み重ねた。

 準決勝のあとにコート上で落ち着きを保とうとしていることについて話していたセレナは、自己最高のプレーをしている選手を前にしていても実際にそうしていた。

 セレナは手を腰に当てたり、「一体何ができるの?」とでも言いたげに手のひらを上に向け、自分のチームが陣取るボックス席の方を見上げたりした。

 彼女の感情がもっとも爆発したのは第2セットの2ポイント目で、それは身体を伸ばしてフォアハンドボレーのウィナーを決めた直後だった。セレナは前かがみになり、「カモン!」と叫んだ。

 しかし、そこからの挽回劇は決して起こらなかったのである。セレナがバックハンドをアウトした瞬間にブレークを果たして3-2とリードしたハレプは、そこからはもう大したことを起こさせなかった。

 これまでのハレプは、ウインブルドンでは一度準決勝に進出したことがあるだけだった。しかし彼女はそれを変えようと決意を燃やしていたのだ。

 優勝者はオールイングランド・クラブの永久会員権を与えられると聞いたた彼女は、タイトルを獲りたいのだと大会の出だしにロッカールームの案内係に言ったのだというエピソードを明かした。

「そして今、私はここにいる」と彼女は決勝が終わったあとに輝くような笑みを浮かべて言った。2週間が過ぎ、彼女はついにトロフィーを勝ち獲ったのだ。

「それはこの大会が始まる前の、私のモチベーションのひとつだったの。だから今、すごくうれしいわ」

(APライター◎ハワード・フェンドリック/構成◎テニスマガジン)

※写真はシモナ・ハレプ(ルーマニア)
LONDON, ENGLAND - JULY 13: Simona Halep of Romania lifts the trophy after winning the Ladies' Singles final against Serena Williams of The United States during Day twelve of The Championships - Wimbledon 2019 at All England Lawn Tennis and Croquet Club on July 13, 2019 in London, England. (Photo by Shaun Botterill/Getty Images)

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