デイビス&フルーリアン_選手の性格タイプを理解することの重要性〜第32回(2018年)TTCスポーツ科学セミナーvol.01

『第32回TTCテニス指導者のためのスポーツ科学セミナー』は、プレーヤーからコーチに転身した2人、ロバート・デイビス&ジャン-フィリップ・フルーリアンが講師となり、選手とのコミュニケーション方法、メンタルトレーニング、コート上での効果的な練習方法などを日本の指導者に向けて解説した。その中から第1回目のレポートとして、「コミュニケーション向上のために、選手の性格のタイプを理解することの重要性」を紹介しよう。どのような立場にあるコーチにとっても、役立つ内容だ。【2019年2月号掲載記事】

取材◎田辺由紀子 構成◎編集部 通訳◎稲葉洋祐(TTC) 写真◎川口洋邦 取材協力◎吉田記念テニス研修センター(TTC)

講師◎ロバート・デイビス

Robert Davis◎アメリカ出身。29年のATPツアーコーチ経験を持ち、テクニカルディレクターやナショナルコーチとしてペルー、パナマ、タイ、インドネシア、ミャンマー、シンガポールに貢献。自身のコーチ活動の傍ら、Global Professional Tennis Coach Association(GPTCA)カンボジア、インドネシア、マレーシア、ラオス、ベトナム、ミャンマー、シンガポールの会長も務める。また、テニス記者としてELITE Tennis Journal編集長を務めるほか、ATPやITFの出版物、TENNIS Magazine Australiaへ寄稿もしている。

講師◎ジャン-フィリップ・フルーリアン

Jean-Philippe Fleurian◎フランス領ニューカレドニア出身。プロテニスプレーヤーとして15年間活躍(シングルス最高37位)。全盛期には、ベッカーやエドバーグ、アガシにも勝利し、フランスのデ杯代表としても活躍。引退後は、USTA、カナダ、カタールテニス連盟でトレーナーを務めるほか、ITFの報道官や選手とのコミュニケーション担当、またGlobal Professional Tennis Coach Association(GPTCA)ではカナダとアメリカの会長も担っている。近年では、自身がトッププレーヤーになるまでの選手としての成長過程例をもとに、選手育成ツールの開発も行っている。

Theme コーチングを学ぶ

1 選手の性格タイプを理解することの重要性

ロバート・デイビス講話
私が「指導方法は一つではない」と気づいたとき

かつては一つの教え方でみんなを教えていた

 私は今、ATPツアーでプレーするプレーヤーのコーチを務めるなどATPの現場にいます。そうしたトップの現場にいて感じるのは、コーチングは一つの理論で行われているものではないということです。特に、近年ではそれは顕著になってきていると感じます。

 私が最初にコーチを始めた頃は、一つの教え方でみんなを教えることができました。とにかく“自分のやり方”―それ以外はないという教え方です。正直にいえば、実は、そのやり方のほうが私は好きです。でも、当然、私のやり方に馴染む選手もいれば、そうでない選手がいたのも事実です。

 私がアイサム・クレシという選手のコーチに就いたときの話をしましょう。当時、彼は世界ランキング220位でしたが、3ヵ月後に407位まで落ちました。彼のお父さんから電話がかかってきて、「あなたのやり方が悪いとは言わないけれど、逆方向に行っているんじゃないですか」と言われました。

 つまり何が言いたいのかというと、私がコーチを始めた頃と今では、時代が違うということです。今の時代は、選手とコーチの相互関係のもとに、コーチングが成り立っています。上から下へ、こうしなさいというトップダウンのやり方が今までは通用したかもしれませんが、今はお互いのコミュニケーションの下で、コーチングは成り立っています。

 私はそうした時代に適応するために、今回いっしょにこのセミナーの講師を務めるフーリアンから、もっと選手の性格のタイプを理解したほうがいいとアドバイスを受け、そのことが大きな助けになりました。

 もうひとつ、ツアーの中で私が練習方法や指導方法が一つではないと感じるきっかけになったことをお話ししましょう。

 私はATPやWTAにいて、いろいろな新しいコーチング理論に驚かされてきましたが、実は、マリオン・バルトリが行っていた練習に笑ったことがあります。彼女の練習はすべて、コーチである彼女の父親が考案したものだったのですが、あまりにも奇抜で、「これは何の役に立つのだろう」と思ったものでした。しかし、彼女は2013年のウインブルドンで優勝。それはその練習が正しかったということを意味しているでしょうし、私は、自分が彼女のやっていた練習を笑ったことを恥ずかしく思いました。

 その経験を通じて、誰に対しても正しい練習法、ただ一つの練習法というのはないんだということを学びました。その選手が何を必要としていて、どういったものが合っているのかを見極めるのが大事だということをあらためて教えてもらいました。

続きを読むには、部員登録が必要です。

部員登録(無料/メール登録)すると、部員限定記事が無制限でお読みいただけます。

いますぐ登録

Pick up

Ranking of articles