彼女には今大会、自分の中で掲げる、一つの「テーマ」があった。
 
 無理に決めようとして、博打的なショットは打たない。コーナーに打って相手に鋭角に返されるよりは、センターにしっかり強いボールを打ち返す。
 
 それは彼女が今年から進学した、早稲田大学テニス部のコーチにも言われてきたことである。

「打ちたくなるのを抑えて、学生テニスでも使えるプレーを身につけるため、センターに打つように心がけています」

 吉岡希紗(早稲田大学)が掲げる課題とは、つまりそういうことだった。

 地元の東静岡でジュニア時代から活躍し、四日市商業高校時代は全国選抜も制した吉岡の持ち味は、長い左腕を鞭のようにしならせ、ライン際へと打ち込む強打。だが、一発でウィナーも奪えるその武器が、ときに攻め急ぎやミスを生む諸刃の剣にもなる。

 だからこそ大学での吉岡は、確実性の高い選択を求められ、自らもミスの少ないプレーを追った。それは常勝・早稲田の看板を背負う、強者の宿命でもあるだろう。

 吉岡がそのように「学生テニスでも使えるプレー」を目指すのは、今年の早稲田が13年間守り続けてきた、大学テニス団体戦の日本一決定戦“大学王座”を逃したことも背景にあるだろうか。

 「大学も、テニスのために早稲田に入った」との自負を持つ彼女には、1年生とはいえ、双肩に掛かる責任がある。今年の王座を制した筑波大学のメンバーに、同期で同じ東海地区出身の阿部宏美(筑波大学)が居ることも、悔しさに拍車を掛けた。

「王座に出られなかったことを、よい方向に向かうきっかけにしなければ」

 その決意こそが、彼女にさらなる自覚を促した要因だろう。

 とはいえ、浜松オープンのようなITF(国際テニス連盟)主催の国際大会は、いつもとは異なる雰囲気のなか、プロ相手に戦える貴重な経験の場でもある。2年前に、牧之原開催の国際大会でベスト8に入ったときも、勝ちを意識しすぎず、挑戦者の気持ちで向かっていけたのが勝因だった。
 
 今大会で掲げるテーマに、本来の持ち味である強打や勝負師の勘がブレンドされたとき、彼女はきっと、新たな自分に出会えるはずだ。

※写真は吉岡希紗(早稲田大学)
写真提供◎浜松ウイメンズオープン実行委員会
撮影◎てらおよしのぶ

著者◎内田暁:浜松ウイメンズオープンオフィシャルライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)などがある。


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