1年前の高校インターハイ優勝者は、今年、大学団体戦優勝校の主要メンバーとして、浜松に返ってきた。
 
 先週、愛媛県で開催されていた“大学対抗テニス王座決定試合”にて、初めて頂点に立った筑波大学。その筑波の中枢として単複を戦い、全試合で勝利を得たのが、昨年の浜松オープン2回戦進出者でもある、阿部宏美(筑波大学)だ。

 阿部はその大学日本一のタイトルを、素直に「うれしい」と認める。昨年、インターハイ優勝者であることに触れられるたび、「恥ずかしいんで言わないでください」と俯いていた彼女が、この王座に関しては「受けれられる」と言った。

 ちなみに、インターハイ優勝者の肩書を彼女が受け入れ難かった訳は、自分の中で納得できるテニスができなかったため。「あんなテニスで優勝できたの?」と思われることに、彼女は、後ろめたさに似た気恥ずかしさを覚えていた。

 もっとも、完璧主義者な彼女は、今も自分のテニスに満足している様子はまったくない。大学入学後もしばらくは、練習での充実感や、自分の成長を感じることができなかった。

 「テニスが、落ちてるような気しかしなかった」との焦燥感は、ある種の孤立感とも繋がっていただろう。ミスしないことを第一義とする大学テニスの教条も、彼女のなかでは未消化のままだった。

 「テニスがつまらない……」

 今年の6月頃には、そんな想いにも絡め取られていたという。
 
 そのような停滞感に少しずつ変化が現れたのが、9月の関東大学リーグ戦の頃。最後の夏を迎える最上級生たちが醸成した熱く明るい空気感は、部全体に伝播して、「先輩たちのためにも!」との一体感を生む。結果手にしたリーグ戦1位および王座タイトルは、決して「勢いや偶然で得たものではない」と、阿部は静かな口調で断言した。

 それでもやはりと言うべきか、阿部は、「筑波に初優勝をもたらした1年エース」と見られることに、大きな抵抗感を示す。

 「自分のなかで、納得できるテニスではない」との思いが、無邪気に喜ぶことを許さない。

 彼女には、言語化するのは困難ながらも、目指す理想像がある。ときにその理想に背を向けて、「ごまかすプレーをする自分がイヤ」だとも言った。

 ならば、それぞれがテニスを介し自己表現を志すプロが集うこの大会は、自らの目指すテニスを追うのに、最適な場だと言えるだろう。
 
 納得できるテニスができた――そんな言葉を、今大会の彼女から聞きたい。

※写真はる、阿部宏美(筑波大学)
写真提供◎浜松ウイメンズオープン実行委員会
撮影◎てらおよしのぶ

著者◎内田暁:浜松ウイメンズオープンオフィシャルライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)などがある。


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