シリーズ「家族の証言」は、そのタイトル通り、選手の家族に選手の小さい頃の話や思い出を存分に語ってもらって構成したもの。家族だからこそ知る、話せる、貴重なエピソードの数々は非常に興味深い。今回は土居美咲選手について、母・裕佳さんが語ってくれた。およそ7年前の取材である。【2013年1月号掲載】

写真◎Getty Images

土居美咲
どい・みさき◎1991年4月29日生まれ。千葉県大網白里町出身。6歳でテニスを始める。2008年に17歳でプロ転向。2010年全日本選手権シングルス優勝。2015年ルクセンブルクでツアー初優勝、2016年ウインブルドン4回戦進出。自己最高世界ランク30位(2016年10月)、最新世界ランクは82位(2020年1月20日付)。ミキハウス所属

横浜から千葉へ

 小さい頃は女の子よりも男の子とばかり遊んでいました。ままごとをしているような静かな女の子ではなく、ぬいぐるみなども、ほとんど持っていなかったような気がします。外で男の子と遊ぶ活発な子でした。

 スカート姿はほとんど記憶にありません。小学生の頃は入学式以降、ほとんどはいていなかったように思います。中学は制服でしたから仕方なくという感じでした。「男の子みたい」とか「男前」とか言われていましたし、バレンタインではチョコレートをつくるよりも、よくもらっていたようです。

 美咲が生まれたのは横浜ですが、2歳の頃に千葉県へ引っ越しました。そこは新興住宅地で、その中に公園やテニスコートがありました。子供たちが公園で遊び、親がテニスをするというところで、ときどき親子でいっしょにテニスをする。それが美咲のテニスとの出合いでした。

 小さい頃から左利きでした。文字を書くのも、箸を持つのも左。ただ両利きというか、右でも器用にこなすんです。卓球で遊ぶときは右でラケットを持っていましたから。テニスも左右のどちらでも打てたのですが、何度試してみても「やっぱり左のほうがいいかな」と言って左になりました。

 小学1年生からテニススクールに通い始めました。幼稚園の頃から水泳を習っていましたが、だんだんとテニスに通う回数が水泳を上回っていきました。最初は週1回だったテニスが、2回、3回となり、最後は週6回くらいになって、水泳は“卒業”しました。

 小学生の頃は全国レベルの選手ではありませんでした。6年生のときに初めて全国小学生大会に出ましたが、奈良くるみ選手に3回戦で1-6 1-6で負けています。すごくいいラリーをしているのですが、最後のポイントが取れない。当時の美咲は良い球は打っていましたが、まだミスが多く、荒削りでした。奈良さんは堅実で、すでに全国トップレベルの選手でした。

 ただ、千葉県のレベルが非常に高かったですから、そこで揉まれたことは大きかったと思います。そういえば、ある大会で単複で優勝を飾ったとき、単複の優勝スピーチがまったく同じ内容だったことがありました。それを友達に指摘され、「あれ、そうだった?」とようやく気づくくらい、肝が据わっていました。

高校2年生の17歳でプロ転向

大阪で兄がヒッティング

 中学時代から海外遠征にも行かせてもらえるようになり、世界の大会に出ていましたから、いずれプロで戦いたいという気持ちが強かったと思います。通信制の高校(駿台甲英)に進学を決め、高校2年生(08年12月)のときにプロに転向しました。

 高校1年生のときはウインブルドン・ジュニアでダブルス準優勝を飾ったり、ジュニアの大会を中心に回っていましたが、賞金はありませんし、ジュニアのポイントにしかなりません。どこでジュニアを卒業するのか、プロにシフトするのかを考えたとき、そのタイミングが、たまたま高校2年生だったわけです。

 国内での試合は、だいたい観戦していますが、海外はそういうわけにはいきません。ウインブルドンで3回戦に進んだとき(2011年)も行っていません。最初から3回戦まで勝ち上がることがわかっていたら行きましたけど、予選を勝ち上がるかどうかもわからなかったですから……。

 昨年(2011年)の東レPPOテニス、ラドバンスカとの試合は印象に残っています(1-6 1-6)で敗戦)。美咲も頑張っているんですが、相手が三枚も四枚も上手。すごく差がありました。どうしてここまで上手なのか、厳しい世界だな、そんなふうに思いました。

 先日(2012年)のHPオープンはベスト4で一週間以上も大阪にいました。準決勝の日に(兄の)諒太が来たのです。前の日に「応援に行きたい」と言うから、「応援じゃなくてヒッティングしてよ」と。準決勝の日の朝、ふたりで練習していましたが、その光景を見ながら、昔はいつもケンカばかりしていたのに……と不思議でしたね。

 お寿司が好きですが、何でもよく食べます。好き嫌いがない。「これはあまり好きじゃないから要らない」ことがないですね。今のコーチ(サイモン)にも「美咲は何でもトライする」と褒められますから、海外でも食には困らないようです。日本食がなくても大丈夫みたいです。

 美咲へのメッセージ? 何でしょう。ケガをしないで、シーズンを乗り切ってほしい。そしてグランドスラムで頑張れるように――その前に、まずはグランドスラムの本戦で常に戦えるような選手になってほしいですね。厳しい世界ですけど、しっかりと頑張ってほしいと思います。

続きを読むには、部員登録が必要です。

部員登録(無料/メール登録)すると、部員限定記事が無制限でお読みいただけます。

いますぐ登録

Pick up

Ranking of articles