エレナ・ゲンチッチの体験から「ジュニアを指導する上で大切なこと」

ノバク・ジョコビッチ(セルビア)は断言する。「僕のテニスの基礎はエレナ・ゲンチッチによってつくり上げられたものだ」----その名コーチが来日し、日本のコーチたちに対しレッスン&ディスカッションを行った。ここではゲンチッチの体験から「ジュニアを指導する上で大切なこと」を紹介しよう。テーマは「プレッシャーを決して与えない」「大切なのはプログラム」「才能とは何か?」【2012年4月号掲載記事】

写真◎井出秀人、Getty Images 

ジョコビッチを育て上げた名コーチが来日! エレナ・ゲンチッチが登場

エレナ・ゲンチッチ

Elena Gencic◎1936年生まれ。セルビア国立大学ベオグラード大学歴史学科卒業後、ふたたび同大学にて哲学を専攻し、計8年間大学で学び卒業。1970年フェドカップにユーゴスラビア代表として出場。フレンチ・オープン、ウインブルドン、USオープンにも出場した。ユーゴスラビアのフェドカップチームコーチの経験がある。モニカ・セレス、ゴーラン・イバニセビッチ、そしてノバク・ジョコビッチのジュニア時代を指導した

 オンコートレッスンの後、場所を移してディスカッションの時間となった。参加者たちが次々と質問をぶつけ、それにゲンチッチが答えていく。その考えはどのようなものだったのか。ゲンチッチの意見を要約する。

ゲンチッチにその才能を見出されたジョコビッチ

熱心に受講する参加者たち

プレッシャーを決して与えないこと

 ジュニアたちに教える上で一番大切なのは、決してプレッシャーを与えないことです。もし両親からプレッシャーを受けているジュニアがいたら、それを取り除いてあげてください。試合に負けたら「何をしているのか!」、勝ったら「もっと頑張れる!」――両親もコーチもこれではジュニアはつらくなる一方です。その子のためにと思いがちですが、やり過ぎたり、言い過ぎたりすることに、十分に気をつけなければなりません。

 ノルウェー、デンマーク、フィンランドといった国々のテニス協会は12、14歳のランキングを作っていません。ETA(ヨーロッパテニス協会)も12歳以下のランキングは廃止しています。ジュニアたちに余計なプレッシャーを与えないためです。もちろん試合はありますが、私はこの考えにとても賛成です。

 コーチは選手の意見をよく聞き、その意見を尊重してあげなければいけません。絶対にこっちの方がいいのだからと、自分の意見を押しつけるのは間違っています。なぜなら、やるのはコーチではなく選手だからです。ジュニアだからと言って誘導してはいけません。

 例えば、ビギナーにはどんなグリップでも最初にすべて握らせ、打たせます。スタンスもです。その上で「どのグリップ、どのスタンスが一番打ちやすかったか?」と聞きます。コーチの仕事は最初からこうだと押しつけることではなく、そのグリップ、スタンスのメリット、デメリット、身体の使い方といったことを理解した上で、必要があればサジェスチョンしていくことです。そしてその成長を温かい目で見守っていくことです。

 ジョコビッチが将来、有望な選手であることはすぐにわかりました。私が彼に対して気をつけていたのは、自分の意見をあまりすすめ過ぎないことでした。ジョコビッチがバックハンドを片手打ちから両手打ちに変えたのは6歳のときです。私がそうさせたのではありません。ある日、自分からそう言ってきたのです。

「すいませんエレナ、僕はバックハンドを両手打ちにしたいのですが」

 私が理由を聞くと、両手打ちの方が強いボールを打てるからだと言いました。自分で気づいたのでしょう。それはとても大切なことです。

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