ナダル+フェデラー=ジョコビッチ〜新しいタイプのフォアハンド_ジョコビッチのフォアハンド検証第1弾

ジョコビッチのフォアハンドは、フェデラーとナダルにあるいくつかの要素のコンビネーションであり、新しいタイプのフォアハンドと言える。一方で、ジョコビッチのフォアハンドにはフェデラーとナダルという偉大なフォアハンドの持ち主と著しく異なる点もある。この特集は、ビデオグラファーであるジョン・ヤンデルが〈最新〉と評されるジョコビッチのフォアハンドをひも解く。【2011年11月号掲載】

翻訳◎木村かや子 写真◎小山真司

世界3強~ジョコビッチのフォアハンドを検証する第1弾

新しいタイプのフォアハンドが登場!
ナダル+フェデラー=ジョコビッチ

グリップとプレースタイルの関係に変化が起きている。

John Yandel

ジョン・ヤンデル◎1952年12月20日、アメリカ・オクラホマ州出身。エール大学卒。第一線のビデオグラファーかつモダン・プロテニス研究者の一人として、世に広く認められた人物。ハイスピードビデオカメラによるプレー映像は、80名以上のトッププレーヤーから6万種類以上におよび、そのデータベースは、プレーヤー、コーチ双方のテニス研究の方法、理解の方法を変える、新しいビジュアル的資料となった。現在、世界複数国のテニス協会コンサルタントを務めるほか、トッププレーヤーたちのビデオ分析において厚い信頼を受けている。ジョン・ヤンデル・テニススクールがカリフォルニア州サンフランシスコにある。ヤンデル氏が運営するインターネットサイトTennisplayer.net

フェデラー&ナダルとジョコビッチの比較

ジョコビッチのグリップがナダルのそれよりも厚いとは驚きだ!

そうなんだ!

1|プロテニス界で「最高の武器」と言えばジョコビッチのフォアハンド

 現在のプロテニス界で、もっとも効力のある武器は何だと思いますか? この質問に対して答えるのは、そう簡単なことではないでしょう。しかし、ノバク・ジョコビッチのフォアハンドを思い浮かべると、それは疑う余地なく「最高の武器」だと言えるのではないでしょうか。

 ジョコビッチが成功した理由の大部分に、私は彼のフォアハンドがあると思っています。私のホームページTennisplayer.netにハイスピードカメラを使って撮影したジョコビッチのフォアハンド動画がありますので、機会があればぜひご覧になってください。

 それらを見ると、彼のフォアハンドがテレビで見るものと印象が違うこと、イメージした技術とかなり違う技術であること、そして、多くのトッププレーヤーたちのフォアハンドとも異なる技術であることがわかります。

似ている!

2|フェデラーとナダルにある要素を併せ持つジョコビッチ

 ジョコビッチのフォアハンドは、ある意味で、ロジャー・フェデラーとラファエル・ナダルのフォアハンドにある、いくつかの技術的要素のコンビネーションと言えます。一方で他の要素においては、彼らと著しく異なっているとも言えます。

 現在のトッププレーヤーたちのフォアハンドは、多くの技術的要素(幅広いグリップに始まり、それに関連してそれぞれが違うバックスイング、スタンス、ポジションなど)が組み合わさったものです。バリエーションが多く、その点で、技術解説をするのがとても難しくなっていて、それらバリエーションの“幅”を見落としたり、極端なバリエーションを“基本”と誤解してしまうプレーヤーやコーチが多くいます(一方で、かつてのフォアハンドはそのような組み合わせが少なく、シンプルだったため、技術解説はしやすかったものです)。

ナダルのグリップ+フェデラーのコートポジション=ジョコビッチ

 私は今回、そうした複雑な要素が絡むフォアハンド――現在のテニス界で「最高の武器」と評されるジョコビッチのフォアハンド――を、ハイスピードカメラを使って分析した結果に基づき解説します。

 まずはみなさんの“目”を確かめるところから始めましょう。

 写真の『グリップ』を見てください。詳細は後述しますが、ジョコビッチの手がナダルのそれよりもさらにグリップの下側にあることがわかりますか?

 すなわち、ウエスタングリップのナダルよりもジョコビッチはさらに手を下側に回して――より厚いフルウエスタングリップで握っているということです。おそらく現在の世界のトッププレーヤーの中でジョコビッチは、もっとも厚いグリップの持ち主のひとりではないかと思います。

 ところが、ジョコビッチがこれほどまでに厚いグリップであることを、みなさんはこれまで認識していましたか? ナダルの方が厚いグリップだと思っていませんでしたか? おそらくほとんどの方がテレビの中のジョコビッチを見ていれば、そのような厚いグリップであることには気づいていないはずです。

 なぜ気づかないのでしょうか? それはジョコビッチがフェデラーのようなポジションをとって、ベースライン近くでボールを早めにとらえるからです(ライジングでとらえています)。

 そして、ジョコビッチの『スピンレベル』がフェデラーとほとんど同じで、フェデラーに比較的似たフラットな軌道のボールを打っていることも関係しています。ナダルのヘビースピンの軌道とは異なるものです。ちなみにフェデラーのグリップはセミウエスタングリップです。

 これらのことを併せて見ていくと、ジョコビッチは、現在のテニス界においてもっとも守備に優れるナダルに近いグリップで、もっとも攻撃に優れるフェデラーに似たスタイルでプレーしているということになります。

ジョコビッチのフォアハンド~フルウエスタングリップ

ナダルのグリップと見比べてみよう。親指、人差し指をはじめ、各指の巻きつき方がナダルのそれと違うことがわかる。ジョコビッチの方がナダルよりも手をグリップの下側に回しているのだ

ナダルのフォアハンド~ウエスタングリップ

ボール軌道はフラットで、フェデラーに似ている

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