マルチナ・ヒンギス_新しいことをふたたび学び直している感覚がある_来日インタビュー

ヒンギス自らがテニスマガジンの巻頭技術特集、「両手打ちバックハンド」の指導を担当してくれたその日、私たちはさらに多くのことを彼女に聞いた。現在33歳のヒンギスは、コーチとして若い選手を指導することを始めるとともに、今年7月には、2007年9月以来となるツアー参戦を果たした。彼女は今、新しいテニス人生を楽しんでいる。※このインタビューは2014年9月に行われた東レPPOテニスのサポーターとして来日した際に行ったものです。【2014年1月号掲載】

構成◎編集部 写真◎菅原 淳、小山真司 取材協力◎ヨネックス

Martina Hingis Special Interview〜マルチナ・ヒンギス来日インタビュー

ツアーに戻った今、
新しいことをふたたび
学び直しているような
感覚がある

Q ツアー復帰してからダブルスのプレー(パートナーはダニエラ・ハンチュコバ)は楽しめていますか?

ヒンギス「7月末のカールスバッドの大会で復帰してからいくつかの大会に出場して、ドローが厳しい部分もあったけれど、すでに世界ナンバーワンのダブルスペア(サラ・エラーニ/ロベルタ・ビンチ組)とも2回対戦できたことは大きい経験だったわ。試合自体はどちらもストレート負けだったけれど、その中でいいゲームもあったし、何よりダブルスの試合はすごく楽しいわ」

Q そのトップランクのダブルスペアから勝利をおさめるために復帰したと思いますが、実際に戦ってみて〝勝てる”という手応えはありましたか?

ヒンギス「復帰してすぐに勝てるとは思っていなかったけど、本音を言えばすぐにでも勝ちたかったし、USオープンの1回戦はストレート負けだったけど、競った内容(3-6、5-7)だったので、十分に手応えはあると思っているわ」

Q 来年も挑戦しますか?

ヒンギス「う~ん。今はまだ何とも言えない(笑)。これからいくつかのエキシビションゲームに参加する予定があるので、来シーズンのことはすべてが終わってから。年内中には考えたいと思う」

Q “選手としてツアーを回るのが、私の人生”と言われています。今、選手としてカムバックし、世界を回る楽しさをどのように感じていますか?

ヒンギス「戻った当初は、アナスタシア・パブリウチェンコワ(ロシア)のコーチをしていて、何度かコートに立つうち、いつの間にかダブルスを始めていた。でも、プレーヤーとしての復帰となると6年のブランクがあるし、確かにダブルスはシングルスのようなハードなトレーニングはないにしろ、もう17歳の身体ではないから疲労が響くわ(笑)。でも、この世界に戻って、今は新しいことをふたたび学び直しているような感覚があるので、その部分は楽しい。一方で、練習は本当にたいへんよ。これまでに経験したテニスの知識と17歳の身体があれば最高だけど(笑)」

Q 日本には37歳でカムバックしたクルム伊達公子選手がいます。

ヒンギス「今でも私は練習をハードに感じていて、3日間も身体が動かなくなることがある。でも、私より10歳年上のキミコがシングルスプレーヤーとして、あんなに素晴らしいプレーができるなんて信じられないし、すごく尊敬しているわ」

Q 現在のテニスは以前と比べて何が違うのでしょうか?

ヒンギス「今のテニスは、私がプレーしていたときよりもコンディションが重要になってきていると思う。自分の身体のことからストリングのテンションのことまで、何から何までケアしないと身体がきついわ」

Q それだけ今のテニスがタフになってきているということですか?

ヒンギス「ボールのスピン量にしてもパワーにしても、女子のテニスが男子のテニスに近づいてきていると思う。でも私はすでに30代で、しかも6年のブランクがあるから、それが一番の理由かもしれない。その反面、セレナ・ウイリアムズのように20代後半から30代の選手たちの活躍が増えているのも事実。彼女たちはたくさんの試合を積んだことで得た経験を生かして、頭脳的にプレーしているのかもしれない。そこに、以前よりフィジカルなテニスになってきていることは間違いないと思う」

WTAツアーの年齢制限ルールについて、変えるべきだと思っている

Q セレナはクレーコートでのゲームを改善して2度目のフレンチ・オープン優勝を果たし、16個目のグランドスラム・タイトルを獲得しました。コーチであるパトリック・ムラトグルーは彼女のゲームの何を変えたと思いますか?

ヒンギス「彼はセレナのサービスを変え、より安定させたわ。彼女にはすでにすばらしい完璧なサービスがあった。私の目にはもっとも美しいサービスに映り、テクニックはシンプルで、それは最速を誇る。クレーではより賢く、より辛抱強くなり、みんなを圧倒している。そしてショットに多くのスピンを利かせて、変化をもたせていると感じるわ」

Q 男女を問わず、30代の活躍が目覚ましいテニス界で、あなたが注目している選手はいますか?

ヒンギス「ナダルはまだ20代後半で、ケガから戻ってくるたびにパワーアップしてくる。私は彼のプレーが好き。常に新しいものを身につけて、学んでいるように見えるから。昔から進化し続ける彼のプレーやエネルギーを見るのは大好きだわ。彼のように進化し続ける気持ちを持っていないと、ツアーを回り続けることは難しいと感じるから」

Q 1990年のWTAツアーの選手の平均年齢は17.9歳でしたが、その約20年後の平均年齢は21.6歳です。この年齢増加をどう説明しますか?

ヒンギス「そのほとんどが年齢制限ルール(14歳からツアーに参加できるようになり、年を重ねるごとに出場できる大会数が増える。フルに出場できるのは18歳から)に関係しているでしょう。私は16歳にしてフルタイムで出場していたけれど、現在のジュニアたちが女子のゲームに慣れるにはもっと長い時間を必要としているわ。(17歳でウインブルドンに優勝した)シャラポワやラドバンスカ、そしてパブリウチェンコワがトップ30に素早く入ったのをみんな憶えているかもしれないけれど、現在はそのような選手は少なくなってきている。

 その主な理由は、18歳にならなければ大会にフルに出場できないからよ。私はこのルールに賛成したことはないわ。確かに14歳はフルスケジュールでプレーするには若すぎるけれど、18歳では遅すぎる。16歳がふさわしい年齢なのでしょう。私が16歳だったとき、15大会に出場することが許されていた。プレーヤーはそれぞれで違うでしょうが、もし高いレベルでプレーしていたら、フルスケジュールでプレーできた方がいい。18歳や20歳のときよりも、16歳のときの方が学ぶことは容易だし、若ければ素早く学ぶし、回復も早い。2、3年を無駄にするのはもったいないわ。私はずっとルールは変えるべきだと言い続けてきたけど、WTAは変えるつもりがないようね」

Q 最後に日本のファンにメッセージをお願いします。

ヒンギス「テニスはツアーのプレーヤーの試合を観るのも、自分でプレーするのもどちらもできるスポーツ。私は観るのもプレーするのも好き。テニスは決して簡単なスポーツではないけれど、だからこそそれにチャレンジする楽しさがあるし、学ぶことも多く、常に新鮮だわ。一番大切なことは楽しむことだと思う。みなさんもテニスコートに足を運んでほしい。きっと楽しいと思うわ」

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