ナダルのケガ情報はフェイク、マドリッド・オープンがパンデミック渦中に新しい試み

プロのテニスプレーヤーを巻き込んだ新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミック渦中で初めて行われたビデオゲームの大会には、多くの現実味――ある意味で現実ではありえない状況でもあるが――があった。月曜日に予定されていた試合がラファエル・ナダル(スペイン)の急な背中の不具合のために延期されたかと思われたのだが、大会ディレクターはのちに冗談だったと認めた。

 ラケットの代わりにゲームコントローラーを使って行われたマドリッド・オープン初日でのそのちょっとした可笑しな出来事は、参戦を予定していたガエル・モンフィス(フランス)がこの仮想テニス大会に関与していないストリーミングサービスとの関係が原因で本当に棄権した24時間後に起きた。

 パンデミックの中で活動休止を強いられているスポーツ界のためにテニスがゲームの世界へと集結する中 技術的な軽い不具合や参加者からの可笑しな発表とたっぷりの情熱――そこには試合用の身支度を整え、ラケットを担いで『アイ・ラヴ・ロックンロール』の音楽をバックに自宅の居間に入場していくビデオを投稿することで、特にクリエイティブなところを見せた2019年USオープン準決勝進出者のベリンダ・ベンチッチ(スイス)も含まれる――に、それらの奇妙な展開が加えられた。

「この悪夢はいつ終わるのか分からない。すでに非常に長く、決して終わらないかのように感じられる」とフェリシアーノ・ロペス(スペイン)は語った。彼はシングルスとダブルスの双方でトップ20にいたことのある選手で、現在はマドリッド・オープンの大会ディレクターを務めている。

 フレンチ・オープンに向けた前哨戦のひとつであるクレーコート大会のマドリッド・オ―プンは、5月1日から10日まで開催される予定だった。しかしその“本当の”マドリッド・オープンは、ここまでキャンセルまたは延期された他の30以上の大会のひとつだ。男子と女子のプロサーキットは新型コロナウイルス感染症の世界的大流行のため1ヵ月以上休止しており、ウインブルドンも75年ぶりにキャンセルされることになった。

「我々がこのプロジェクトに取り組み始めたときの最初の考えは、ファンたちがこの状況の中で得られないものを提供するということだった」とロペスは明かした。

 月曜日にナダルから「故障を本当に心配しているから試合を棄権したい」と説明するテキストを受け取ったと真面目な様子で発表したのは、このロペスだったのだ。しかしそのときには、ユーモアをきかせようとした試みだったと思わせる気配はまったくなかった。

 ロペスはのちにツイッターで、「みんな、もちろん冗談だよ」とネタばらしをしている。

 この4日間に渡る“バーチャル”マドリッド・オープンには、男女それぞれ16人ずつの選手が参加している。その中には19度グランドスラム大会を制した男であるナダルと同3勝のアンディ・マレー(イギリス)、女子では1月に引退したカロライン・ウォズニアッキ(デンマーク)、アンジェリック・ケルバー(ドイツ)、カロリーナ・プリスコバ(チェコ)らの元元世界ナンバーワンたちもいる。賞金総額は30万ユーロで、優勝者はそのうちの何%を現在財政的に困難を抱えているランキングの低い選手たちのために寄付するかを決めることになる。それ以外にもさらに、5万ユーロがウイルス関連のチャリティに寄付される。

 この大会は4人ずつの4つのグループに分かれてラウンドロビン(総当たり戦)を行い、上位2名ずつの8人が決勝トーナメントに進出してチャンピオンを決定する。試合は3ゲーム先取の1セットマッチ(3-3となった場合タイブレーク採用)が基本となり、各対戦は10分ほどを要することになる。

 視聴者はスペイン語と英語の解説付きのライブストリーミングで試合を観ることができ、ときどきゲーム中のプレーヤーの姿が小さな囲みウインドウに映し出される。

 月曜日に2勝を挙げたディエゴ・シュワルツマン(アルゼンチン)は“数日間”練習を積んでいたことを白状したが、また「このゲームはあまり得意ではない」ことも認めた。

 この日ひときわ注目を集めたのは、世界ランク8位のベンチッチだった。冒頭で軽く触れた通り、白いサンバイザーをつけて試合に向かう時とまったく同じウェアに身を包んだ23歳のベンチッチは、大きなラケットバッグを肩にかけた姿でトンネルならぬ自宅の階段を登って居間のテレビの前までくると、おもむろにラケットバッグのジッパーを開けてゲームコントローラーを取り出した。

 初日のストリーミングには試合やインタビューが中断されるなど、ちょっとした不具合もあった。

「今日は僕の側で少しタイムラグがあった」と現在世界16位で21歳のデニス・シャポバロフ(カナダ)は不満げに訴えた。「インターネットのスピードがあまりよくない感じだったよ」。

 金曜日のドロー抽選が始まって1分ほど経過した頃、スペインの局と共同放映を行っている英語の局は、何もコメントせず黙っていて悪かったと謝罪した。それ以外にも選手の名前を正しく発音できなかったこと――そのうちのいくつかは似ても似つかなかった――、本物のプロテニスについての知識が足りていなかったことなど、いくつかの点についてこの日のアナウンサーたちからさらなるお詫びの言葉が出た。

 そしてもちろん、これらすべてのどれもが実際のテニスとは何の関係もないことなのだ。(APライター◎ハワード・フェンドリック/構成◎テニスマガジン)

※写真はマドリッド・オープンのセンターコート(Getty Images)

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