マイケル・チャン「稀代の勝負師」
テニス界における過去の名選手を紹介するレジェンド企画。第1回は現在、錦織圭のコーチを務めるこの選手。89年、17歳3ヵ月でのフレンチ・オープン優勝は、今もなお男子のグランドスラム史上最年少優勝記録として輝いている。(原文まま、以下同)【2015年6月号掲載】
レジェンドストーリー〜伝説の瞬間〜
Michael Chang|PROFILE
1972年2月22日生まれ。アメリカ・ニュージャージー州出身。1988年プロ転向。自己最高ランキング2位(1996年9月9日)、ツアー優勝34回、準優勝24回。2003年引退
写真◎BBM
小さな身体をハンディととらえず、素早いフットワークと頭脳的なプレーで世界2位まで駆け上がった。89年フレンチ・オープン優勝が唯一のグランドスラム・タイトル
マイケル・チャンと対戦する相手は、コートでボールが2バウンドするまでは絶対に油断できなかった。たとえチャンをコートの外に追い出してオープンコートに決めたとしても、それが少しでも甘ければ、彼はコートの反対側から飛ぶように走ってきてボールに追いついてしまう。
チャンを仕留めるには、普通の試合の何倍も多くのウィナー級のボールを打ち続けなければならないし、最後の最後まで集中力を緩めず、完璧なプレーをすることが求められた。
チャンの名を不滅のものにしたのは89年フレンチ・オープン4回戦だろう。当時世界1位、イワン・レンドルを相手に奮戦。2セットを連取され、脚にケイレンを抱えて動けなくなりながら、アンダーサービスやリターンのポジショニングの駆け引きでレンドルの動揺とミスを誘って逆転勝利を飾った。
この試合の評価を巡っては世界中のファンの間で賛否両論のようだが、試合を見ていたかつての名選手のトニー・トラバートは「私はテニスコートでこれほど勇気づけられる選手を今まで見たことがなかった」と称賛し、また、チャンのコーチだったホセ・ヒゲラスは「今まで見た試合の中でもっとも信じられない一戦」という言葉を残している。
チャン自身も第5セットでは一度試合をあきらめかけたというのだが、「“そのとき、神様がお前は何をしてるんだ?”と言っているような気がした」と当時のことを振り返っている。「それから先はもう、勝ち負けはどうでもよくなった。とにかくこの試合を最後まで戦おうと思った」と言い、「最後はメンタルのバトルだった」と続けている。
チャンのキャリアは「自分の身体条件で試合に勝つには?」という自身への問いと、回答の繰り返しで貫かれている。文字通り、自分の能力の最後の一滴まで絞り出そうとし続けていたのがチャンであり、ファンはその懸命な姿に魅了された。
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