その忌まわしき出来事の5年後、元テニススターのジェームズ・ブレイク(アメリカ)は自分に向かって走ってくる大柄な男がニューヨーク市警の私服警察官だとは思いもしなかったと語った。

 USオープンのためにニューヨークにやってきた彼はその日、マンハッタンのホテルの外に立っていた。

「誰かが僕に向かって走ってきたが、ファンだと思っていた。『あなたのプレーを見たよ! 僕はこの試合を観に行ったんだ。僕の子供もテニスをプレーしている』などと言う誰かかと思ったんだよ」とブレイクは振り返った。「僕は何も疑うことなく、微笑んでいた」。

 しかし黒人であるブレイクは、クレジットカード詐欺の容疑者と間違えられていたのである。ホテルの前を映し出していたビデオは、隠密捜査中だった私服警官が彼の腕をつかんで歩道になぎ倒し、彼をうつぶせに押さえつけて手錠をかける様子を映し出していた。

 このような経験があったからこそ、アメリカ・ミネソタ州ミネアポリスで先週あった警官によって拘束されて押さえつけられたあとに亡くなったジョージ・フロイド氏のビデオを見たときのブレイクの反応は大きなものだった。

「僕はあのビデオを何度も何度も見て、非常に悲しく、落胆した気持ちでベッドに向かった。夜中に目が覚め、そこで起こった出来事や2015年に僕の身に起こったことに思いを馳せ、考えることを止めることができなかった」とブレイクは火曜日にサンディエゴの自宅から話した。

「このような警察の行為、このような暴行が未だに続いているのを目にするのは悲しいことだ。特に、それが頻繁に黒人や有色人種の社会に向けられることが…」

 ハーバード大学でプレーしたあとプロ入りして世界ランク4位にまで至ったブレイクは、2018年からマイアミ・オープンの大会ディレクターを務めている。彼は2015年の出来事によって、自分は偶然ながら『活動家』になったことを自覚していた。彼は人種差別と警察の蛮行についてよりオープンに話すため、自分の知名度の高さを利用し始めた。

 地方の選挙を含め、投票することは前進の一歩だ。平和的な抗議を支持する彼は、最近のミネアポリスや他の場所でのデモがなければフロイド氏のケースでも逮捕されなかった可能性もあったと述べた。

 彼はまた、警官の待遇改善、よりよい訓練の導入、警官による悪行を調査する独立機関の設置などを含めた警察改革に賛成している。ブレイクの事件の処罰として、彼にタックルした警官は休暇を5日削減されただけだった。

「あのような人間が、警察のバッジをつけるべきだとは思わない」とブレイクはコメントした。彼はその経験から消すことのできない傷を負い、そのことについて頻繁に考えると告白した。

「僕はこの状態を変えたいが、恐らく人生の残りを通して僕は警官と遭遇するときによりナーバスになることだろう」

 フロイド氏の死は、経験した苦しい体験から生きて抜け出ることができた自分がいかに幸運だったかを気付かされる出来事だったとブレイクは説明した。彼はあの事件のときに、今や6歳や7歳になった娘など他の者が自分と一緒にいなくて本当によかったと感じていた。

「僕は子供たちに、自分が警官に押さえつけられたそのビデオを見せていない。何故なら、子供たちがその意味を理解できるかまだわからないからだ」とブレイクは明かした。

「先週のニュースを見て、僕と妻は考えるようになったよ。警官の蛮行や人種差別、この国で起きている多くの問題について、子供たちにいつ話し始めようかってね」(APライター◎スティーブン・ワイン/構成◎テニスマガジン)

※写真は昨年のマイアミ・オープンでのジェームズ・ブレイク(アメリカ)(Getty Images)


This article is a sponsored article by
''.