恐る恐るニック・キリオスに聞いてみました。_インタビュー

ニックは怖そうだ。しかし、ボールパーソンには優しい。ニックは睨むが、試合中に誰かを怒鳴ったりはしない。ぶつぶつ言っている。楽天ジャパン・オープンで優勝を飾った2016年大会にそんなニックを突撃取材した。【2016年12月号掲載】

取材◎武田 薫

ーーどうなんだろう、大人たちににやかく言われるの、嫌じゃない?

「いや、そんなふうにはまったく思わないよ。逆に、自分とまったく違うイメージが先行してくれたほうがいい。そのほうが気分がいいんだ」

 大人たちにいくら説明したってわからない、そんな不良少年のようなあきらめさえ感じさせるが、まじめに練習もしている。真剣にテニスに取り組み、デ杯にも貢献している。

ーーあまり遊び回らないの?

「街を探検するのが好きなんだ。本当は知らない街に行ったら歩き回りたいんだけど、試合もあるし練習もしなくちゃいけないから、あんまり時間はないよ。僕のスケジュールは同じくらいのランキングの選手に比べれば、それほどヘビーじゃないと思う。毎日、毎日、試合をするような選手にはなりたくない。それでも、あんまりフリーな時間はないんだ」

ーーエンドチェンジ、急ぐよね。

「なるべく早く帰りたい。長くコートにいたくない、それだけのこと」

 今シーズンは2月にマルセイユでツアー初優勝を飾り、8月のアトランタで2勝目を挙げ、そして楽天オープンではATP500で初タイトルの3勝目と絶好調と言っていい。

――サービスが好調だ。セカンドでも構わずがんがん打っている!

「サービスは僕の最大の武器だからね。サービスで一番大事なのは自信だよ。セカンドでも必ず入ると思って打つんだ。グランドスラムやマスターズ大会ということに関わらず、いつでも、今の試合に集中するよう心掛けている。それで結果も出ているから、自信もついたと思う」

ーー今年、何か変わったのかな?

「何も変わっていないよ。プレーが安定してきたのは、年齢も重ねて成長したんだろう」

 ガエル・モンフィスとともに、魅せるテニス、いまやツアーのショーマンとしての評判も高い。今大会でも、相手の股抜きショットを股抜きショットで返す離れ業を披露。意表を突くプレーで客席を沸かせた。

――ファーストサービスでもセーバーをやるよね?

「あのセーバーって言うのは僕が6、7年前のジュニア時代からずうっとやってたんだよ。それなのに、ロジャーがやった途端、みんなアメージングだとか言って……まあ、いいけど。でも、別にお客さんを喜ばせようと思っていろいろなことをやってるわけじゃないからね。必要だからやるんだ。それでみんなが喜んでくれるならいい。ジュニアの頃から、ロジャー、ツォンガ、モンフィスが好きだった。彼らのテニスは見ていてもワクワクする」

 ニックの初来日は15歳だった2010年。そこから大阪のスーパージュニアに3年連続で出場し、2012年には準決勝でボルナ・チョリッチ、決勝で内田海智を破って優勝している。2013年のオーストラリアン・オープン・ジュニアでは決勝で後輩のタナシ・コキナキスを破って優勝を飾った。

 ――オーストラリアン・オープンは地元優勝からだいぶ遠ざかっている。

「そうね。だけど、それって国は関係ないんじゃないの? どこの国の選手にも難しいんだよ。これまでロジャー、ナダル、ノバク、マレーがいて、その他のトップ10にもメジャーで勝てる選手が揃っていた。ロジャーやノバクに少し隙が出ていると言ったって、ワウリンカもいるしニシコリもいる。オーストラリア選手だけが難しいんじゃない。すぐ、そういうこと言うけど。結構ランキングがよくなっているから、そのうち勝てるんじゃないの」

――ぜひとも、勝ちたい目標かな?

「それは素晴らしい大会なんだから勝ちたいんじゃないの。だけど、実現しなくとも別に眠れなくなるわけじゃないよ」

 お姉さんが大阪のユニバーサルスタジオで働いていることもあって、大の日本好き。今回も、オンコートインタビューでは、しきりに観客の声援に応えていた。

ーー日本でのプレーはどう?

「ジュニア時代から感じていたことだけど、日本のお客さんはレベルが高い。いい観戦をしてくれるから、気持ちよくプレーできる。クリエイティブなテニスに拍手をしてくれるしね。いつ来ても楽しいし、今度も東京で優勝できて特別にうれしい。お母さんもいっしょだったしね。ただ、すぐ上海に行かなくちゃいけないから、お祝いはできないんだ」

父親はギリシャ系、母親はマレーシア人で、姉の名はハリマオだ。

――東京探検はお預けだね。

「いや、少しだけど、ゆりかもめに乗って出かけたよ。大阪のほうが詳しいけど。去年は、お母さんと蕎麦を食べに行ったんだ。日本食は寿司も刺身も蕎麦も大好きだ。僕は半分アジア人だから、食事はまったく同じというわけじゃないけど、抵抗がないし、おいしい。以前ほど自由には出歩けなくなったな。日本でもたまに、あっ、キリオスだとか言う人もいるよ。でも、日本人は優しくて親切だから何の問題もない」

――ミュラー戦のあとに、カメラのレンズに『AT』って書いていたね。

「あれ、ガールフレンド」

 ニックの目下のガールフレンドはアイラ・トムヤノビッチだ。クロアチアからオーストラリアに移住したプレーヤーで、現在は故障中のようで大会に出ていないが、大会前に目撃情報もあった。モンフィス戦の後には「See U soon」(すぐ会えるね)と書いた。決勝の後は「……」。汚い字で読めなかったが、「空港で待っててね」とでも書いたのでは?

 いずれにしろ、グッド・ラック!「サンクス」と、スマホを見ながら立ち去っていった。

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