今年ふたつ目となるグランドスラム「USオープン」(アメリカ・ニューヨーク/本戦8月31日~9月13日/ハードコート)の大会最終日は、男子シングルス決勝などが行われた。

 大会のフィナーレは、これまでにない壮絶な戦いとなった。ドミニク・ティーム(オーストリア)は前例のない第5セットのタイブレークの末に優勝したが、同大会決勝で2セットダウンからの逆転勝利は71年ぶりのことだった。

 新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックによりファンが観戦できなかったためほぼ空っぽのアーサー・アッシュ・スタジアムで、第2シードのティームはまさに敗戦寸前だった。ティームはゆっくりと、しかし確実に精神的に揺らぎ始めていた第5シードのアレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)に対して形勢を逆転し始めた。そしてティームは2-6 4-6 6-4 6-3 7-6(6)で勝利をおさめ、フラッシングメドウでグランドスラム初タイトルを手にした。

 どちらも脚がケイレンし、神経をすり減らしきっていたのは明らかだった。

「どういう訳か、今日は信じる力が体力を上回った。そのことにスーパーハッピーだよ」と27歳のティームは語った。

 3度目のチャンピオンシップポイントでズベレフのバックハンドがワイドに外れると、疲れ果てたティームはベースライン後方で背中からコートに倒れ、両手で顔を覆った。立ち上がったとき、目の前にはネットの反対側から回り込んで健闘を称えにきたズベレフが目の前に立っていた。ズベレフは友人でありライバルでもある相手を称え、抱擁した。ソーシャルディスタンスが叫ばれるこのご時世で、それは珍しい光景だった。

 ティームは身長の高いズベレフの肩に、自分の頭をもたれかけた。ズベレフは初のグランドスラム制覇まであと2ポイントに迫りながら、あと一歩届かなかった。

「今日は2人の勝者がいればいいのに。どちらも勝利にふさわしかったと思う」とティームはズベレフを称えた。

 アメリカ開催のグランドスラム決勝で2セットダウンから逆転したのは、1949年にテッド・シュローダー(アメリカ)を破ったパンチョ・ゴンサレス(アメリカ)以来のことだった。しかも、当時は全米選手権としてフォレストヒルズで開催されていた頃である。

 グランドスラム決勝が第5セットのタイブレークで決着したのは、2019年ウインブルドンでノバク・ジョコビッチ(セルビア)がロジャー・フェデラー(スイス)を倒したときが初めてのことだった。

「あと数ゲーム、あと数ポイントだったのに…。でも僕はまだ23歳だ。これがラストチャンスだなんて思わないよ」と1990年代のボリス・ベッカー(ドイツ)以来となるドイツ人グランドスラム王者になることを目指していたズベレフは悔しさを露わにした。

 スピーチで両親について語ったとき、ズベレフは言葉に詰まってしまった。彼らはウイルス検査で陽性となり、ニューヨークに来られなかったという。だが、ふたりともすでに回復しているようだ。

 撮影のためにティームが一歩前に出て美しいトロフィーを手にポーズをとると、ズベレフは数歩後ろに下がった。彼は少しだけ見劣りする銀色のトレーを片手に、もう一方の手を腰に当てていた。


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