ボブ・ブレット_日本のコーチの質問に答えます

世界の名コーチ、ボブ・ブレットが来日したーー。ボブ・ブレットという人は、テニスを通じて「人」を育てている。彼が発する言葉には人と触れ合うことへの尊さがある。この特集はテニスコーチだけでなく、ジュニアやその両親、そして一般のテニスファンのみなさんにぜひ読んでほしい内容である。(テニスマガジン2002年4月号「修造チャレンジ 来日スペシャル『ボブ・ブレットのコーチングブック2』」掲載記事)

内容解説

ボブ・ブレットが講師となったこの「コーチ講習会」は2001年11月19日(月)、東京・朝日生命久我山スポーツセンターで行われた。「世界的なプレーヤーを育てたい気持ちがある指導者」ということで公募したところ、100名以上の応募があり、その中から抽選で約30名のコーチが参加した。午前の部〈会議室でレクチャー〉、午後の部〈オンコートで講習〉、夜の部〈会議室で質疑応答〉と行われた講習会の中から、この特集では夜の部の日本のコーチとボブ・ブレットのディスカッションをQ&A形式で紹介する。

写真◎井出秀人、川口洋邦、菅原 淳、小山真司、松本昭夫(マリオ・アンチッチ) 取材協力◎朝日生命久我山スポーツセンター


ボブ・ブレット◎1953年11月13日、オーストラリア生まれ(享年67歳/2021年1月5日逝去)。プロテニスプレーヤーとしてサーキットを転戦したのち、故ハリー・ホップマンに見出され、プロコーチとなる。ツアーコーチとしての活躍はトッププレーヤーの集団ロシニョールチーム・コーチに始まり、ボリス・ベッカー(ナンバーワンになるまで)、ゴラン・イバニセビッチ、アンドレイ・メドベデフ、ニコラス・キーファー、マリオ・アンチッチ、マリン・チリッチら多数におよぶ。また松岡修造の恩師でもあり、松岡がプロへ進むきっかけもつくった。松岡と築いた師弟を超えた友情から、日本テニスとのかかわりは深く、デ杯日本代表チーム・スーパーバイザーを務めたこともある。また、修造チャレンジ・トップジュニアキャンプの指導は20年以上継続し、日本男子の底上げに尽力。今の日本テニスへとつなげた。


すべてはコーチの
チャレンジから始まる。

Q1 ボブさんはこれまで女性の選手を教えようと思ったことはないのですか? [男性コーチ]

A かつて私はクリス・エバートといっしょに仕事をしたことがある。彼女はとてもすぐれた才能の持ち主で、私は彼女に学ぶことがとても多かった。だが、その後、私は女性といっしょに仕事をしていない。それは多くの場合、女性が自分のライフスタイルにおいて優先順位の一番に「愛情」を置いていることが挙げられると思う。女性の選手が「愛情」を一番に置くと、コーチと選手の関係は友達のようにやっていくことがよい関係を保つひとつの要素となってくるだろう。

 だが、それは私の優先順位の一番とは一致していないのだ。私の一番は「グッド・ワーク」であり、その選手がうまくなるために最善を尽くすことが私の一番である。そこが選手の優先順位と食い違ってしまうとお互いのプラスにはならないと考える。だから結果的に指導するのが男性の選手になってしまうのだと思う。これは好きとか嫌いとか、よいとか悪いとかそういうことではなく、私が勝つためにどれだけよい仕事をするかという点を優先させると、一致するのがたまたま男性の選手だったというだけのことである。

Q2 ボブさんは現在、マリオ・アンチッチ(クロアチア/17歳)のコーチをしていますが、選手といっしょにツアーを回るときは、ボブさんのキャンプに残っているほかの生徒たちにはどのように接しているのですか? [男性コーチ]

A マリオは14歳のときから見ていて、もう3年半の関係になるが、私はほかにも8~10歳くらいの小さな子供たちも教えている。私がキャンプにいる間は彼らを集中的に教えることができるが、ツアーに出なければならないときは、私の教え方を忠実にフォローアップできる、信頼できるコーチたちに任せている。そういうコーチがいるので教え方に一貫性があり、何の問題も起きない。

Q3 (Q2に続いて)一貫性のある指導をするスタッフをボブさんはどのように育てたのですか? また、そうした指導を続けるために行っていることはありますか? [女性コーチ]

A (パリのキャンプでの)私の指導は、1面のコートに対して子供とその担当コーチが1対1で練習しているところへ私が入る形なので、私が子供を教えるのを担当コーチも見て、聞いて、その場で私と担当コーチは情報をフィードバックするようにしている。そうするとコーチ自身がその場でよいフィーリングを残すことができるのて、私がいなくても何も迷うことなく教えることができる。そういう状況を作っている。

 もっとも大切なこととしては、コーチ自身が選手の能力を伸ばすたけでなく、自分自身の能力も伸ばすように努力するということだ。いろいろな情報を集め、情報を持ったらその情報が正しいかどうか必ずテストすること。テストしなければ人はシリアスにはならないものである。

 今回のクリニックでも、オンコートで皆さん(参加した日本のコーチの皆さん)をいろいろテストしたが、そのときの皆さんはとても必死だったと思う。それと同じ。テストをするから人は必死になる。そしてテストによって、よいものだけ残し、悪いものを捨てる。そうすると人はいつでも自分の中に、限られた整理されたよいものだけを残すことができる。これはひとつのアドバイスである。

 皆さんは私から学んだことを頭に入れたり、ノートに書いたりしたあとに、それを実際にテストしないといけない。テストしなければうまく使えない。テストしてみて初めて選手の反応が見え、それが正しい情報なのか、うまく自分が使えているかどうかを判断することができる。

Q4 初対面の選手を見るときに大事にしているポイントは何ですか? [男性コーチ]

A 人は必ず何か特別なものを持っていると思っている。その何かをどうやって見つけるかがポイントだ。

 例えばその選手がコートでボールを打つとき、その段階において何が強いのかを見る。あるいは目分の言ったことをどれだけ理解できるかとか、その能力を見たりもする。

 また、あるときは何人かの選手に同時に同じ情報を与え、その中での理解する能力を見たりもする。中には理解力がずば抜けて高い選手がいたりするものだ。

 あるいは、際立ったキャラクターを持っていないか、試合をさせて、その中でどんな行動をとるかを見てみたりする,そうすると、それまで見たことのない闘争心を持った選手だったりするかもしれない。

 あるいはフィジカル・トレーニングをやらせてみたら、誰にも負けないといった必死な姿を見せるかもしれない。

 そういうほかの選手とは違う何か=somethingを見つけるようにする。その何かがあるから、そういう選手は卓越して伸びていくのだ。私はそういう才能を見るようにしている。

Q5 例えばマルセロ・リオスのような精神的に粗いと言われる選手を教えるとしたら、あなたはどうしますか? [男性コーチ]

A 私は、ほかの人と違う何か特別なものを持っている選手が成功する選手だと思っている。リオスの場合、実は(2001年に)そんな話があったのだが、今の私には時間がないので断った経緯がある。

 私は選手といっしょに仕事をするならば、グッド・ワーク=選手がうまくなるための最善を尽くしたい。むずかしいと言われている選手と仕事をしたいと思っている。それは、どういうふうにしたらよいかすごく考えることになるし、トライするためにエネルギーも必要になるから、自分に対してのチャレンジにもなる。それをやることによって自分自身も楽しむことができると思うのだ。

 簡単な選手よりも、教えるのがむずかしいと思う選手ほどよい結果を残すものである。なぜなら、むずかしいからこそコーチは一生懸命その選手に接し、その能力を最大限引ぎ出そうと必死に考えるからである。

 選手の態度が悪かったり、よくないことをしたのなら、それはコーチか注意して教えればいいことだ。自分の言うことを聞かない選手がいたとしても、ほかの人と違う何かを認めれば、そこにはチャレンジ精神が必ず生まれてくるだろう。『THE ART OF COACHING』=コーチングは芸術である(ボブ・ブレットのコーチング理論)。すべてはコーチのチャレンジから始まる。

Q6 最近の日本の子供たちは、優等生は多いのですが、彼らは夢を持っていません。また、やる気のない人も多いように思います。そういう人たちを、私ではなくボブさんが教えたらきっと変わるだろうと思いますが、教える秘訣はありますか? [男性コーチ]

A 現代の子供たちのことはわかっているつもりだ。何でも物を得ることができ、何に対してもほどほどにやっていく。そういう子供たちに対してどのようにモティベーションを与えていけばいいか考えなければならないだろう。

 そのように考えるが、しかし私はひとつだけ言いたい。モティベーションを与えるのはコーチの役目である。どういうふうに与えればいいかは常にコーチが考える問題であって、そのひとつの方法として、何事も自分か率先してやってみせるということが言えるだろう。

 一般的に、コーチの年齢が上になればなるほど選手にモティベーションを与えるのはむずかしい。なぜなら経験とともに、今の時代が、社会が、教育が変わったなどと言って子供たちに関連する要因を非難することが増えるからである。だが時代を非難する前に自分自身を非難して、これからどうするかを考える「原点」に戻ることが大切だろう。

 若い世代のコーチは、経験は少ないかもしれないが、子供を何とかしようというエネルギーをたくさん持っている。ところが歳をとって、仕事以外にもやることか増えてくると、だんだん疲れを感じて、子供に対するエネルギーの量が減ってしまうのである。そうすると子供たちはそれを感じて反応しなくなるのだ。

 だが、25、50、70歳……いくつだろうと、コーチが'子供を何とかしようという気持ちさえ失わずにいたら、子供は必ずそのモティベーションを感じてついてくると思う。だからこそ原点に戻って、自分自身に間いかけてみてほしい。そして自分でよい方法を見つけて率先してやることだ。

 コーチの役目は「責任を持つ」ことである。プロのコーチとしてコートに入ったなら、相手にモティベーションを与えられないようならお金をもらってはいけない。私はそれくらいの気持ちでいつも臨んでいる。お金をもらわなかったら私は生活することができないから、だから必死になってモティベーションを与えるようにがんばるのだ。そこに関係が成り立っていると思う。

 皆さんは私に何かを聞くとすぐに答えが返ってくるので、まるでマジックでも見るように時間を過ごしているかもしれないが、繰り返しになるが、私が皆さんに情報を与え、私がどんな姿勢で取り組んでいるかを教えても、その情報を得た皆さんが、それが使えるものかどうかテストしてみて、自分で感じて、答えを出さなければ、それは皆さんの中には残らないと思う。

Q7 チームで行動しているときについてうかがいます。遠征に行くと、選手たちが同じ時間帯に試合に入ることがあります。テクニックを少しでも改善しなければならない段階にある選手たちに対して、コーチはどのように対応すればよいのでしょうか? [男性コーチ]

A 4人くらいの選手を連れてトーナメントに出た場合、当然、同じ時間帯に自分の選手がコートに人るということか出てくる。そうするとひとりの選手の試合だけを見ていることはできなくなるだろう。細かいところを見ることかできなくなる。確かにそういうシチュエーションは起こり得ることだ。コーチの中にそういうシチュエーションが思い浮かぶなら、今の練習の時点からそのようなことまで教育し、選手が自立するようにしていくことが大切だ。そうすれば、たとえコーチかいなくても選手は自分で何とかしていく能力を身につける。その準備をすることが大切だろう。

 それから、そういう状況下のコーチがとるべき行動は、試合の流れをスコアから読んでいくことだ。このゲームを落とすと……となりそうだ、というような、何ゲームかのちに大事なポイン卜がくると皆さんの想像が働けば、そのゲームまではほかの選手の試合を見て、そのゲームが近づいた頃に戻って大事なポイントをどんなふうにプレーするかを見るようにすれば、ポイントは押さえられるし、選手としても大事なポイントにコーチがいることで心強いと思うだろう。

 皆さんがとるべき行動は、同じ場所にずっといることではなく、各選手のゲームがどのようになるかというプランニングを頭の中で常に行うことだ。コーチが1ヵ所にいるのは楽な仕事。4人を見るために、それを成し遂げるためのコーチの頭脳がほしい。そして日頃から選手を自立させることが大切である。

Q8 ジュニアを育てる上で、コーチはその子供の将来的なビジョンを描くことが必要だというお話がありましたが、もしも子供がコーチの思つビジョンを描けなかったり、口ではわかっていると言っても実際にやらないときなどはどのように対処すればよいのでしょうか? そのときコーチは子供を突き放すべきなのか、それとも我慢すべきなのでしょうか?  [女性コーチ]

A コーチが子供に対して描いたビジョンを、その子供に言う必要はない。私はこれまで言ったことがない。なぜなら、そのように大きな期待を口にしても、そのようにならないこともあるからだ。

 コーチの仕事として理解しておかなければならないことは、子供が思う夢と、コーチが子供に対して描くビジョンが必ずしも一致するわけではないということ。年齢が離れ、違う年代を生きている者同士に、同じことを期待しないことだ。そこでは当然、忍耐が必要になる。何かものを言うときは、まずビジョンを持ち、それをやるためにはどんなプランが必要か、いくつかのアイディアを出して目標を逹成するための方法をプランニングしなければいけない。それを子供に理解させるのだ。

 子供がいくら言っても押解しないとわかっているのなら、わからせるようにするには何をすべきなのかを考えるのがコーチの仕事である。そのときコーチが子供よりも上に行き過ぎてしまっていたら、子供はコーチに追いつきたくても追いつけないだろう。手が届かないと思ってしまうだろう。だから、もしも子供が下にいるようならコーチはわざと下に落ちて、手の届く範囲のところにいるようにしなければならない。そうすれば子供は、これくらいだったら届くだろうと思えるだろうし、そうしたら今度はコーチは、子供が届きそうになったときにひとつ自分が上に上がり、届かないようにして、いつまでたっても届きそうで届かない状況を作っていく。そうすることで進歩が見られると思う。

 階段が最初から大き過ぎると子供は上れない。その階段が5段階なら10段階へと細かく作り直して、子供が上れる階段を作ってあげることだ。そうすれば子供もきっとついてくるだろう。まずはコーチがそのように考えることが大切だと思う。

Q9 日本は非常に過保護で、親が何から何までやってあげているような子供たちがたくさんいます。その子供たちを引き受けたとき、コーチはどこまで対応すればよいのでしょうか? [女性コーチ]

A では、なぜそのような問題になるのか。

 まず根本的に言えることは、親を変えることはできないということだ。その事実を認めた上で付き合うことが大切である。その上でコーチは子供にモティベーションを与え、テクニックで直すべき点を直し、全面的に進歩するように指導する。しかし、この過程でいくつかの問題が出てきたときは、親に勝とうなどと思わず、よくコミュニケーションして、間題を解決していくことが大切である。

 コーチに必要なことは、問題についてきちんと説明できることであり、そこに定義がきちんとあることだ。基本的に親は質問があるからコーチに訊いてくるのであり、その質問に答えられなけれはその関係は成り立たない。そのことを頭に置き、要点を説明すれば、問題にならないと私は思う。ところが問題になってしまうコーチというのは、その要点を言えずに、その場であれこれと答えを考えるから長い時間がかかってしまうし、話がごちゃごちゃになって、結局、要点を見失ったりするのだろう。長い時閻、コミュニケーションしたからといって結果がよくなるわけではない。私は親に対して大事な用件があるときは10分で終えるようにしている。

 コーチは親と話すとき、親が自分に何を望んでいるか、その答えをできるだけ頭の中で整理しておくこと。そして、決められた時間内に話し合いをフィニッシュできるように準備しておくことが大切だ。


ボブ・ブレットは日本の男子ジュニア強化プログラム「修造チャレンジで」松岡修造とともににジュニア指導にあたっている


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