Dr.マーク・コバクス「リズムが良くなればテニスはうまくなる!」(3)リズムを良くする方法

写真◎Getty Images

スポーツにおけるリズムとは何か? そして、もしリズムがスポーツのパフォーマンスを向上させられるのなら、テニス選手はいかにすればよりリズミカルになれるのだろうか? スポーツテクノロジーの専門家でフィジオでもあるドクター・マーク・コバクス(Dr.MARK KOVACS)に、その知識をあますところなく聞いた貴重なロングインタビュー。3回目は「リズムを良くする方法」(テニスマガジン2020年10月号掲載の後半記事)。 

インタビュー◎ポール・ファイン 翻訳◎池田晋 写真◎毛受亮介、Getty Images


MARK KOVACS(マーク・コバクス)◎オーストラリア・メルボルン出身、40歳。コバクス研究所CEO。ハイパフォーマンスの専門家で、スポーツテクノロジー・コンサルタント、パフォーマンスフィジオ、分析家、教授、作家、講演者、コーチ(USTA認定)といくつもの顔を持つ。科学的トレーニング、エリートアスリートの研究と、広範囲なバックグラウンドを有する。テニスはこれまでに25人以上のトッププレーヤーを指導し、代表的な選手はスローン・スティーブンス、マディソン・キーズら。また、テニス以外にもNBA、NFL、MLB選手や、野球、ゴルフのジュニアなども指導している。主な著書は12ヵ国以上の言語に翻訳された『Tennis Anatomy』など。
コバクス研究所 


呼吸とエネルギーを
生み出すことには
大いに関係がある

――選手のリズムを良くするためには、オンコート、オフコートでどんなトレーニングメニューがありますか?

 トレーニング方法ならいくらでもあります。まず大事なのは下半身の強化と安定です。正しいストレングスのトレーニングは欠かせません。そして体幹トレーニングを正しい体勢で、正しい方法で行うことが、テニスでプレーする上で欠かせません。

 その次に、そこで得たパワーをどう変換させるかを学ぶ必要があります。オフコートでのトレーニングなら、メディシンボールをフォアハンド、バックハンド方向へ投げたり、サービスの動作で投げたりする方法です。そのとき重要なのは、下半身を利用して運動連鎖をシンクロ(同調)させることです。

 オンコートのメニューはすべて技術の練習です。リズムトレーニングは技術トレーニングであり、それらを別々に考えることはできません。

 “効率的な技術”を向上させるために、パワーを溜めて放出し、さらにエネルギー出力を最適化しなければなりません。そのためには正しい方法で、ストロークを向上させ、それと同時にリズムを良くする方法を学ぶことがとても重要なのです。

――呼吸とリズムの間に関係はありますか?

 エネルギーを生み出すことと呼吸には大いに関係があります。リズムはその形のひとつです。エネルギーを溜めるということと、ここでは例えばバックハンドを打つと想定しましょう。まず呼吸をして、テークバックのところまで息を吸います。そこからはエネルギーを放出してボールに伝えるため、息を吐くのです。

 私たちは、呼吸がパワーとエネルギーを生み出すのにどれほど影響があるのかについて研究を重ねました。そして大きく関係することが判明しています。エネルギーを溜めるには息を吸い、通常はストロークの中のテークバックのときになります。そこから動きを加速させて放出していきます。つまり、エネルギーを溜めるときは息を吸って、それをボールに伝えるためにパワーを爆発させるときは息を吐くのです。

 自分のリズムを良くして、その連続動作を正しく行うには、呼吸には絶対に取り組まなければなりません。

――いくつかのテスト(ITN、リズミック・コンペテンス・アナリシステスト、ラリーテスト)でリズムを測り、分析していますが、その結果についての意見を聞かせてください。

 それらのテストについてはよく把握しています。よいドリルですが、実質的にはリズムのテストとは言えません。ある者がある方法を試してみて、良い結果を得られるかどうかの実験です。しかし、ある方法による結果では、その動きをどのように行っているのかを説明できるわけではないのです。求めている結果は得られるかもしれませんが、動きを正しく行っているかどうか、正しい動きではない可能性もあります。

 ここで正しい結果とは、ボールが正しい位置に行くかどうか。そのとき、その過程がいつも正しいとは限りません。大事なのは、エネルギー変換がもっとも効果的な方法で行われているかどうかで、それをきちんと分析することです。

リズムを考えるなら、
ボールの結果ではなく、
正しい動きが行われているか、
効率的な運動が
行われているかを見てほしい

――2017年のフレンチ・オープンを制したエレナ・オスタペンコは、彼女のテニスでの成功は、社交ダンスの経験も生きていると言っています。テニスのリズムを学ぶのにダンスは良い方法だと思いますか?

 異なるスキルの変換能力をテーマにするとき、ダンスはその筆頭に挙げられます。また多くの人は若い頃のサッカー経験が、テニスを上達させるためのスキルを助けてくれたと言います。

 実際にそれが彼らのリズムを向上させたのでしょうか? 私の答えは100%、イエスです。どちらも彼らのエネルギー変換とエネルギーを溜めて放出するのを、より効率的かつ効果的に、複数の異なる方法で行っているからです。

 オスタペンコもダンスによってエネルギーの変換能力を身につけたのかもしれません。それらが彼女のリズムを向上させたのか? ここで話したように“リズム”を定義づけるのなら、答えはイエスです。

――ほかのスポーツをプレーすることで、テニスのリズムを向上させられますか? もしそうなら、どのスポーツがどんな理由で良いのでしょうか?

 ほかのスポーツをプレーすることは間違いなく、その選手の動きを効率的にし、可動範囲もより大きくしてくれます。それが必ずテニスにも当てはまるか? と聞かれれば答えはノーです。テニスの動きの助けにならないスポーツもあります。

 しかし、小さい頃は特に基本的な動きのスキルを身につけやすく、それらは多くのスポーツで生かせます。ジャンプする、着地する、投げる、捕る、蹴る。これらの動きは非常に重要で、テニスの動きに大いに役立ちます。

 特に、テニスと動きが似ているスポーツが理想的でしょう。具体的には野球、サッカー、バスケットボール、バレーボールのような動きです。ゴルフ、卓球、スカッシュなどのスポーツは、ハンド・アイ・コーディネーションの向上に役立つでしょう。ほかのスポーツをプレーすることは、本当に価値のあることです。


メジャーリーガーの大谷翔平選手


テニスと動きが似ているスポーツを行うことは、動きを効率的にし、可動範囲を大きくしてくれる


ロジャー・フェデラーのサービス。すでに野球の投球動作と似ていることがわかる


大谷選手の投球フォームと非常に似ているフェデラーのサービスフォーム。投球は動作方向が前方(にボールを投げていて)、テニスのサービスは動作方向が斜め上で(上方に向かってラケットを振って、ボールを打ち)、それ以外はほとんど同じ動きといっていい


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