2019年のテニス界は先例なきものーー大会毎に新しい優勝者
ロジャー・フェデラー(スイス)は2019年、ここまでに一つタイトルを獲得し、おかげでATPツアーの成績でタイとなりトップに立った――ほかの18人といっしょに。同じような前代未聞の勢力の拮抗は、WTAツアーでも起きている。WTAもここ13大会で13人の違った優勝者が誕生しているのだ。
プロ化以降のここ50年で、男子、女子、ましてやその双方で、このような形で年がスタートしたことは一度もない。今週と次週にかけ、男女共催のマイアミ・オープンが行われる中、例えばフェデラーは、層の厚さと独占的主権の欠如は、非常に興味深いものだと感じていた。
「そのことは間違いなく、双方のツアーで起きている勢力図の変化について何かを語っている。たぶん、覇権を握るのがより難しくなっているんだ。あるいは、同じ者が優勝し続けるというのが、より難しくなっているのだろう」とフェデラーは語った。
「若い選手たちが道を切り開きつつある。もうかなりの間、僕らはその現象を目にしてきた。大会で優勝するのは容易なことではないが、彼ら若手にとっては、より容易になりつつあるようだ。それはよいことだよ。ほかのプレーヤーたちがそれほど優秀ではないという意味ではない。ただ、勢力図の変化が起こりつつあるんだ」
先週のインディアンウェルズほど、その傾向が顕著になった大会はなかった。
男子シングルス決勝では、まだグランドスラム大会で優勝したことがない25歳のドミニク・ティーム(オーストリア)が元世界ランク1位で「20」のグランドスラム・タイトルを持つフェデラーに勝った。
そして、それよりいっそう際立ったのは女子シングルス決勝で、1月まで一度もトップ100に入ったことがなく、ワイルドカード(主催者推薦枠)で出場した18歳のビアンカ・アンドレスク(カナダ)が、元世界1位で3度グランドスラム大会を制した31歳のアンジェリック・ケルバー(ドイツ)に対して勝利をおさめたことだった。
「私たちは皆(多くの者)がほぼ同じレベルにあるところを目にしている」と現世界1位の大坂なおみ(日清食品)はコメントした。「そして基本的に、もっともそれを欲し、実現するための努力をつぎ込むことを厭わない者が勝つの」と言い添えた。
彼女はここ2つのグランドスラム大会で優勝しているが、皆にチャンスの道が開けている今年に、彼女が勝ち獲った唯一の優勝杯がオーストラリアン・オープンのトロフィーだった。
ノバク・ジョコビッチ(セルビア)はここ3大会連続でグランドスラム大会優勝を遂げているが、彼もまた、今年に入ってからはたった一度、メルボルンで優勝杯を掲げたに過ぎない。
2019年にまだ優勝スピーチをしていないのは誰か? 最後のタイトルを、すでに妊娠中だった2017年オーストラリアン・オープンで獲ったセレナ・ウイリアムズ(アメリカ)だ。
過去にセレナ、フェデラー、ジョコビッチ、あるいはラファエル・ナダル(スペイン)が長く維持していた覇権のようなものは、もはや誰によっても誇示されていない。
「今は皆が、皆にチャンスがあると、より信じることができるのよ」と現フレンチ・オープン・チャンピオンのシモナ・ハレプ(ルーマニア)は言った。
「そして大会優勝の可能性が皆に向け開けている事実が、戦いをファンたちにとってより面白いものにしているの」
そう言ってから、彼女は冗談交じりにこうも言い添えた。
「そしてまた、私たちにとってもね。もうセレナがすべてで優勝していた、かつてのようではないのだから」
すべてのスポーツでそうであるように、テニス界でも、毎年、新しい名前がそこここで飛び出している。ただ、現在、通常より多くの新顔が浮上しつつあるということなのだ。
「テニスを定期的に見ていない人々にしてみれば、男女数人の顔を知っているだけでしょう。これほど多くの優勝者、これほど厚い層を持つことは、毎週毎週、向上することを目指し努力を積むよう、選手たちを促すことにつながると思う。なぜって誰と対戦することになろうと、勝ちたいなら存分に走らされる覚悟でいかなければならないということがわかっているからよ」と25歳のダニエル・コリンズ(アメリカ)は考えを述べた。
コリンズは、今年のオーストラリアン・オープン準決勝に進出する前には、グランドスラム大会での5度の挑戦で1勝を挙げることさえできていなかった。
「観客に関して言えば、私たち選手のより多くについて、そして、私たちの何人かがいかに優秀かについて、より知ってもらえるチャンスになると思う。それはテニスをプロモートする助けにもなるはずよ」
フェデラーは、それが何であれ、不平を言う理由を見つけ出す者たちがいることを指摘した。
例えば、『ひとりの選手がすべての大会で勝つ? 退屈だ』あるいは『数多くの選手が、すべての大会のタイトルを分け合っている? 誰が誰だかわからない』といった具合に。
彼の見解は?
「正直、僕は実際、何が起ころうと常にいいことだと思うよ。すべてがポジティブだと見ている。僕は数人の選手が頂点を支配している時代を通り抜け、それからそうではなくなり、そのあとに非常に多くの優勝者が出現するようになった。そして人々はいつも、そういったことをかなりネガティブに受け止めていた」とフェデラーは言った。
「決して、いつでも適切ではない、といった具合にね。でも僕はいつも、常によいという見方をしている。なぜってそこには、常に魅力的なストーリーがあるのだから」
彼はATPツアーの『19大会に19人のチャンピオン』のトレンドが今後も続くか、には確信を持っていない。
「もうすぐクレーコート・シーズンがやってくる。それはラファの縄張りだ。それにノバクが、ここで倒すのが非常に難しい相手になるのは間違いない」とフェデラーは言った。
「たぶん、数ヵ月のうちにもう一度話すときには、すべては通常の状態に戻っているかもしれない。でも、たった今起きていることは、間違いなくいいことだよ」
(APライター◎ハワード・フェンドリック、翻訳◎テニスマガジン)
※写真は記者の質問に答えるロジャー・フェデラー(スイス)
MIAMI GARDENS, FLORIDA - MARCH 20: Roger Federer of Switzerland fields questions from the media at a player availability session on Day 3 of the Miami Open Presented by Itau on March 20, 2019 in Miami Gardens, Florida. (Photo by Michael Reaves/Getty Images)
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