ヒョン・チョンはサムスンによる育成プログラムの賜物 [オーストラリアン・オープン]

 オーストラリア・メルボルンで開催されている「オーストラリアン・オープン」(1月15~28日/ハードコート)。

 ヒョン・チョン(韓国)はオーストラリアン・オープンで韓国人として初めてグランドスラムの準決勝に進出するという、歴史的快挙を成し遂げてから、ツイッターのアカウントを開設したようだ。

 子供の頃からの憧れで同大会6度の優勝を誇るノバク・ジョコビッチ(セルビア)からの勝利を含め、メルボルンパークでの快進撃で韓国では、Kポップのスターのような扱われ方をしている。

 チョンは1月24日にアカウントを開設後、数回しかツイートしていないが、たった24時間で1万1000人以上のフォロワーがつき、さらに増えている。

「聞いたところによると、韓国では人気が爆発しているようだ。ジョコビッチ戦のあと、すべての韓国紙の一面をチョンが飾った。それに値するだけの勝利だったと思う」とコーチのネビル・ゴッドウィン(南アフリカ)は話した。

 次の準決勝で、19度のグランドスラム優勝を誇るロジャー・フェデラー(スイス)を倒そうものなら、どれほどの盛り上がりを見せるか、想像できるだろうか。何百万もの韓国人がテレビに噛り付いて応援するはずだ。

 チョンも「韓国の歴史を塗り替えているから、国民全体がテレビでオーストラリアン・オープンを見ていると思う」と母国での盛り上がりに言及した。

 韓国では、テニスがゴルフ、テコンドー、野球、サッカーほどの人気を得たことはいまだかつてなかった。日本や中国のように、人気のあるスター選手、よく組織されたコーチングシステムやトップレベルの洗練されたツアー大会がほとんど存在せず、韓国テニスはまだまだ発展途上にある。

 21歳のチョンの登場は、現状を打破しようという人々の努力の賜物だ。生まれつき視力の悪かったチョンは、医者のすすめで緑色のものに焦点を当てることは、目によい影響を与えると言われ、子供の頃にテニスを始めた。韓国最大の家電・電子メーカーであるサムスンが優秀な選手を育てようとジュニア育成プログラムを発足させ、チョンもその中で育った。

 チョンが所属するIMGの代理人スチュアート・ダギッドは「サムスンは彼のコーチ代も払い、実際はコーチの人選も行った。彼がレベルアップするにつれて、彼をサポートする体制も変わっていった。そうやって始まったプロジェクトだ」と彼を取り巻く環境について語った。

 チョンは2013年のウインブルドン・ジュニアで準優勝という実績を残しているが、彼のポテンシャルが花開いたのは昨年のことだ。アレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)、ダビド・ゴファン(ベルギー)、ガエル・モンフィス(フランス)といったトップ選手から勝利を奪い、11月の「Next Gen ATPファイナルズ」(イタリア・ミラノ/室内ハードコート)で優勝した。

 その頃、ダギッドはチョンに新しいコーチを薦めた。ちょうどUSオープンで準優勝したケビン・アンダーソン(南アフリカ)が長くコーチングを受けていたゴッドウィンとの契約を解消したタイミングで、ゴッドウィンはチョンにとって最適なコーチになると思ったのだ。

 チョン本人は少し躊躇していた。彼はこの数年間英語の習得にかなり力を入れていたが、英語圏出身のコーチに指導を受けるほど、自分の語学力に自信がなかった。「そこでゴッドウィンのお試し期間を設けたんだ。それがうまくいった」とダギッドは言う。

 ゴッドウィンは契約の前からチョンの試合を何度か観戦しており、彼とともに働けることにかなり前向きで興奮していた。

「彼は素晴らしいアスリートで、ボールを強くヒットする能力も高い。ジョコビッチがハードコートで大ブレークした以来の大きな才能を持った選手だ」とゴッドウィンはチョンを絶賛している。

「ジョコビッチはベースラインで素晴らしいプレーを見せ、メンタルも本当に強い。だから、自分も彼のようにプレーしたいと思う。今日、大きな夢がかなった」とチョンはジョコビッチを倒した直後に語った。

 次は準決勝で大きな、大きなテストになる。43度もグランドスラムの準決勝を戦った経験のあるフェデラーが相手だからだ。チョンにとっては初めてグランドスラム準決勝になる。

 フェデラーもチョンのプレーに感心している。

「ノバクとの試合で素晴らしいプレーを見せたと思う。彼を倒すのは、並大抵のことではないだろう」

 ゴッドウィンは、ネットの向こう側にフェデラーがいることをあまり気にせず、自分のプレーに集中することが大事だと言う。

「すごく大きな試合、楽しみな瞬間になるだろう。もちろん相手のほうがレベルは高いが、今はそれを受け入れるしかない」

 勝っても負けても、チョンの経歴はこれからどんどん大きくなっていくはずだ。オーストラリアン・オープンは、大会自体を“アジア・パシフィックのグランドスラム”としてプロモーションしてきた。チョンにとっては、ここでの活躍が韓国の企業の関心を惹きつける、大きなチャンスだという。

「今は僕らがスポンサーを集めるよりも、彼らが我々にコンタクトしてくることのほうが断然多くなった。一夜でこれほど劇的に状況が変わったことは、記憶にない」とダギッドは興奮気味に語った。(C)AP(テニスマガジン)

※写真は準々決勝でテニス・サングレン(アメリカ)を倒したチョン・ヒョン(韓国)。後方は韓国第2位の自動車メーカー起亜モーターズのロゴ
MELBOURNE, AUSTRALIA - JANUARY 24: Hyeon Chung of South Korea plays a forehand in his quarter-final match against Tennys Sandgren of the United States on day 10 of the 2018 Australian Open at Melbourne Park on January 24, 2018 in Melbourne, Australia. (Photo by XIN LI/Getty Images)

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