将来、採用される新ルールはあるか?[Next Gen ATPファイナルズ]
今回の「Next Gen ATPファイナルズ」(イタリア・ミラノ/11月7〜11日)で、勝負以上にメディアの注目を集めていたのが、ノーアドバンテージやノーレットなど、新ルールについての選手の反応だ。今大会は、そのほかにもベンチ横のテーブルに置かれたタブレットで、プレー中の選手が試合中の統計(スタッツ)をチェックできるような設備を据えたり、試合中にショット配分の分析を見せたりと、テニスのハイテク化を強調。記者会見のたびに、質問がその点に集中した。ATPによれば、改革の目的は、何も起きないダラダラした時間を減らし、緊迫したエキサイティングな時間を増やすことだという。実際に試合の中で新方式を試した、選手の感触はどんなものだったのだろうか?
(1)4ゲーム先取の5セット
従来の6ゲーム先取の代わりに4ゲーム先取を採用。3-3となった場合はタイブレークが行われる。
結果:反対派がほとんど
これに関しては、どの選手も実現しないのではと思っているフシが伺われる。シャポバロフは、「このやり方だとタイブレークで勝負か決まることが多くなると思う。ゲーム数が少ない分、ブレークチャンスが少ないから多くの緊迫した瞬間がある。ブレークバックするチャンスも低くなる」と言った。
ハチャノフは、「セットが短すぎる。少なくとも4-4までやってからタイブレークにすべきだ。そうすれば、よりブレークするチャンスが出てくるだろう」との意見。メドベデフは、「最初から最後までいい調子でないといけないから、リラックスの暇がない。第1ゲームを落としたら、あっという間にセットが終わりかねないから、かなりの挑戦だ。でも僕にとってはよい気がする。わりと好きだよ」とした。
一方ルブレフは、よりはっきり否定した。
「テニスというゲームを変えるような変更は、すべきではない。ゲーム数の変更、ノーアドなどは、プレーの本質を変える。ホークアイのラインジャッジとか、ショットクロックとか、そういうのはテニス外だから、そういうのは好きにすればいい!」
(2)ノーアドバンテージ
40-40のデュース後のアドバンテージを廃止。40-40の次のポイントを取った選手がゲームを取る。40-40後にどちらのサイドからサーブするかを、サーバーが選ぶことができる。
結果:賛否両論
「ノーアドバンテージはタフ」というのが皆の意見。しかしチョンは、初日に「難しい」と言い、2日目には「実際、悪くない」と言っており、自分に有利に働く場合も、その逆もある両刃の剣であるため、賛否両論だ。
ハチャノフは「自分のサーブでの重要な瞬間にくるから、間違いなくタフだ。ノーアドのほうがブレークしやすくなる。通常、ブレークを果たすには続けて2ポイントとらなければならないからね」と言う。シャポバロフは、「僕は緊迫した瞬間が好きだ。ノーアドだとよりプレッシャーがかかるから、興味深いよ」と賛成派。メドベデフも「誰が精神的により強いかを試すテストだ。慣れるのがたいへんだけど、でもサーバーがサイドを選べるのはいいね」と好意的だ。反対にルブレフは前述の通り、反対派だった。
「このルールでは、誰もが誰も倒し得る。僕の意見では、よりハードワークをした者が勝つべきだから、運に左右されるようなイージーなチャンスを与えるのはフェアじゃない」
(3)ノーレット(レットの廃止)
サービスがネットコードに当たっても、サービスエリアに入ればそのまま試合続行となる。
結果:賛成派が多数
「最初、レットがないことを忘れてしまい、戸惑った」(シャポバロフ)と皆が言ったが、「慣れれば結構いいかも」というのが大方の意見。初日には、マッチポイントでチョリッチのサービスがコードに当たり、ドナルドソンが一瞬ノーレットを忘れて出遅れ、ポイントを失うという場面があった。そのためチョリッチは、「今日はそのおかげで助かったから、よかったよ。実際、ネットに当たったか当たらないかわからないようなレットがよくあり、それでいちいち言い争いが起きたりするのは不必要だ。だから、ほかの大会でも採用すべきだと思う」と意見する。ルブレルでさえ、これについては反対しなかった。
(4)線審の排除
線審はおらず、ホークアイ・ビューのカメラが、リアルタイムで全ラインジャッジを行う(コールは録音の音声)。つまりジャッジに文句をつける時間も省かれる
結果:ほぼ全員が賛成
ハチャノフは「ライブのホークアイはいいね。注文をつけられるなら、別の声も聞きたい」と、にやり。「すべての主審たちがコールを録音して、自分が担当する試合で使えばいい。同じ声を聞くことになるわけだ」と細かい意見も。
メドベデフも、「僕にとってはいいことだ。声も問題ない。このシステムは公正なことだと思う、間違いをおかさないわけだからね。気にいったよ」と手放しで賛成した。チョリッチも「僕にとってはいいことだ。サーブがよく見えなかったときなどに、チャレンジしなくて済むからね。反対する理由はどこにもない」と右に倣った。
(5)ショットクロックの採用
エンドチェンジで余分な時間を過ごさせないよう測るタイマーはすでに存在するが、ここではポイント間の時間、25秒を厳守させるため、ショットクロックを採用。スコアボード下に掲示され、10秒を切ると数字が黄色に、5秒を切ると赤くなる。
結果:ほぼ全員が賛成
「時間を守らなきゃと思い、息苦しくなった」と言ったチョリッチも、「好きだよ。厳しいけど、慣れるものだし、試合によりスピードを与える。ときどき、ずいぶん長いこと待っていると感じることがあるから」と、基本的に賛成している。メドベデフも、「タイムバイオレーションを食らったこともあるけど、自分でタイマーを持ってるわけじゃない。ああやって見えていれば時間の経過がわかるから、すごく公正なことだ。実際、審判はスコアを送ったあとにスイッチを入れているから、結構時間はあると感じる」と大賛成。ハチャノフは「クロックはいいね。常にリズムを追わなきゃいけないから、よりきついとも言えるけど、どっちにしろ25秒はルールだから、正しいことだと思う」と締めくくった。
(6)コーチングOK
コーチは各セット終了後に、ヘッドフォンとマイクを通して選手とコミュニケーションを取ることが許される。
結果:ほぼ賛成だが無関心派も
はっきり賛成したのはメドベデフ。「これは採用できると思うことのひとつだ。テニスは、コーチングが許されない数少ないスポーツのひとつだ。僕の意見では、(許さないのは)フェアなことじゃないと思う。一年中、いっしょに働いているコーチと、なんで試合中に話しちゃいけないのかわからない」と言う。
一方、ハチャノフは、「(ヘッドセットをつけたところを映像で見せるので)ショーみたいだね。試合を見ている観客にはいいだろうけど、僕はよりプライベートが守られているほうがいい。会話の内容を世界中とシェアしたくない場合だってあるだろ。コーチの意見はもちろん有益だけど、別のやり方がいい」。試合中、頻繁にヘッドセットを使っていたチョリッチも「できればベンチに降りてきてもらって話すほうがいい」と右に倣った。
(7)観客の自由な出入り
コートのエンドラインの後ろの席を例外に、観客は好きなときにスタンド(観客席)に出入りできる。
結果:反対派と無関心派
「唯一嫌だったのは、客の出入り。すごく視界に入って、集中力が乱れた」と言ったのは、メドベデフ。チョリッチは、「横は気にならないけど、コートの後ろは気になった。でもコートの後ろで動くのは禁じられてるわけだから、ルールを守らない人がいたせいで、人次第だと思う」とした。ハチャノフは、「問題なかったよ。センターコートの雰囲気は好きだった」と、まったく気にしていない模様。これも、図太いか繊細かで、意見が分かれるだろう。ちなみに観ている側としては、観客がプレー中に歩いて視界を遮るので、非常に煩わしかった。反対票を投じたい。
(8)メディカル・タイムアウト3分
各選手は、各試合で3分のメディカルタイムアウトを許される。
(9)5分のウォームアップ
ウォームアップは、しめて5分。選手入場の5分後には試合が開始する。
(10)完全シングルスコート
シングルスラインのみのコートを使用。
結果:(8)(9)(10)については、特に気になることではないため、意見さえなかった。
最後に、自らのプレーに失望し、ルールどころではなかったジャレッド・ドナルドソン(アメリカ)に至っては、「僕の意見など重要じゃない、ファンの要求次第だ。もしファンがこのルールを望むなら、このルールでいくべきだし、彼らが望まないなら、ルールを変えるべきではない」と、取り付く島なし。好きな新ルールは、と問われ「すべてのルールには目的がある。何を成し遂げようと考えるかによる。よい点は変える自由があるということだ」と哲学的に締めくくった。
(ライター◎木村かや子)
※トップ写真は大会会場のフィエラ・ミラノ・スタジアムにつくられた、シングルス専用コート
MILAN, ITALY - NOVEMBER 09: A general view inside the arena during the match between Hyeon Chung and Gianluigi Quinzi during Day 3 of the Next Gen ATP Finals on November 9, 2017 in Milan, Italy. (Photo by Emilio Andreoli/Getty Images)
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