2日目DAY WATCH「準決勝一番乗りのチョン・ヒョンは、ミラノの人気者」
大会が始まったとき、多くの者がロシア関係者----ロシア人か、ロシア系移民の誰かが優勝するだろうと想像していていた。ところが今、チョン・ヒョン(韓国)が優勝するのではないかという声が、ちらほらと漏れ始めている。
21歳以下のトップ7名+開催国の選ぶワイルドカード1名による「Next Gen ATPファイナルズ」(イタリア・ミラノ/11月7〜11日)の2日目。ラウンドロビン(2グループに分かれての総当たり戦)の2試合目となる4対戦が行われ、この日も4人の勝者が生まれたが、その中に、2勝目を刻んだ者がふたりいた。それが、グループAのチョン・ヒョン(韓国)とグループBのボルナ・チョリッチ(クロアチア)だ。
チョンはこの日、第1シードのアンドレイ・ルブレフ(ロシア)を4-0 4-1 4-3(1)で退け、チョリッチは4-3(5) 2-4 4-1 4-2でダニール・メドベデフ(ロシア)を下した。チョンは準決勝進出を確定させたが、グループの上位2者を決める計算にはセット数も関係するため、チョリッチのほうは、もうひと仕事が必要だ。ちなみにこのふたりは大会開始時から、プレーにほかの選手を上回る真剣さと集中力を滲ませていた選手でもあった。
中でも欧州メディアにあまり知られていなかった様子のチョンは、今、ある種の『時の人』になりつつある。ルブレフの強打にことごとく追いつき、カウンターで切り替えしたかと思えば、するすると前に出てソフトなボレーを決める。その見事なオールラウンドプレー、そして常に頑張り続ける姿勢が、ここにきて急激にメディアやファンの関心を惹きつけ始めた。
「僕はすべてのボールに追いつき返そうと努めている。すべてのボールに集中しようとしている」とチョンは言う。うまくいったときも、いかなかったときにも、「試合を通しずっと、全力を尽く続けていた」と言う。
チョンと言えば、ジュニア時代からかけている眼鏡で有名であり、その眼鏡ゆえ、「よくプロフェッサー(教授)と呼ばれる」のだと言う。視力について聞かれた彼は、「あなたのことは見えますよ」と言って周囲を笑わせてから、「今はかなり良くなったのですが、眼鏡なしでテニスをプレーしたら、100%の力は出せないので」と答えた。
実際、彼は、ビジョンのいい選手でもあるようだ。身長188cm、体重87kgとかなり大きく、がっちりした体格の彼は、例えば錦織圭や、かつてのマイケル・チャンのように、すばしっこく駆けずり回っているようには見えないのだが、読みとフットワークがいいので、振られても頻繁にボールに追いつき、しっかり構えて打ち返すことができている。体幹がしっかりしているので、かなり走らされても体がぶれない。ショットには非常に安定性があり、相手はまるで壁打ちでもしているように感じることだろう。
彼に敗れたルブレフは、「すごく堅実だったよ。彼はあまりミスをおかさなかった。足も速いし、素晴らしいカウンターアタックをしてきて、だから彼は勝っているんだよ」という言葉で、そのプレーを要約した。
加えてドロップショットなどの小技にも長け、要所でネットにも出、ボレーもかなりうまい。
「技術的には、特にサービスやボレーなど、またメンタル的にも、すべてを学び、向上させる必要があるし、肉体的にもより強くならなければいけない」と向上心を燃やすチョンは、憧れの選手を尋ねられると、「テニスを始めた頃の憧れは、ロジャー・フェデラーやラファ・ナダルだったけれど、今のお手本はノバク・ジョコビッチ」と答えた。「彼は精神的に強く、ベースラインからすごく優秀な、オールラウンドプレーヤーだから。僕も彼のようでありたいと思う」。
もうひとつ、彼がよく言う言葉に、「常に落ち着きを保つことが重要だ」というものがある。「どんな選手も、常にコートで落ち着いていなければ勝つことはできないと思う」とさえ言うのだが、彼が指導を受けたという心理学者の教えを説明したとき、その理由がちらりと見えた。心理学者が彼に、常に落ち着きを保つよう努めること、負けそうになっていても、勝ちかかっていても、常に落ち着きを保ち、怒ったりするな、と言ったのだという。
チョンは第一に、そのテニスでミラノの観客たちを魅了した。加えて――自信満々で、ときにふてぶてしくさえある若手選手が多い中――チョンの礼儀正しく、真摯な姿勢もまた、好感を読んでいる理由のひとつのようなのだ。
アジアの若手がこの大会出場権を得ただけでも、かなりすごいことだが、さらに今回の活躍で、「アジアの未来をその背に背負うプレッシャーを感じているか」という、不可避の質問も出た。
「たぶんまだ、そうは感じていません。ケイ(錦織圭)がいるから。彼がアジア・ナンバーワン。だから僕は、彼のあとに続こうと努めているんです」
こう思わず敬語で訳したくなるような礼儀正しさで地元記者に答えたチョンは、「ケイとはロッカールームで、ハローって挨拶し合ったりしています」と、言い添えた。
たぶんまだ――しかし、アジアの期待の大きな一片を背負う日は、まもなくやってくるはずだ。それでもチョンは、あくまで謙虚に、「明日も落ち着きを保つよう努め、ベストを尽します」と言うのである。
※トップ写真はチョン・ヒョン
MILAN, ITALY - NOVEMBER 08: Hyeon Chung of South Korea returns a forehand in his match against Andrey Rublev of Russia during Day 2 of the Next Gen ATP Finals on November 8, 2017 in Milan, Italy. (Photo by Emilio Andreoli/Getty Images)
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