「大会が行えない競技も多い中、テニスができて感謝している」ラコステ×ジョコビッチスペシャルインタビュー
――あなたが現在のレベルに到達し、その人間性を作り上げた価値観は何ですか?
ジョコビッチ 今の私が人として、そしてプレーヤーとしても大切にしている価値観は、両親の影響、家庭での教育が基礎になっています。それと、私が成長していく過程で得た、自由でオープンなマインドとハートは私にとっては掛け替えのない最高の価値があるものです。それ以外で一番大事にしているのは感謝の気持ちです。人生では起こるすべてのことを当然のこととは思わず、感謝を忘れないことです。長年に渡って、私はなぜ望まない状況が起きるのかを理解して、それに対応できる精神力を身につけてきました。そして、簡単ではありませんが、物事をポジティブにとらえるように努力してきました。特にプロのテニスプレーヤーの私にとっては、大事な試合に負けたときや、怪我をしてしまったり、ことがうまく運ばないない場合はなおさらです。しかし、そんなときこそ自分自身を深く掘り下げ、自分の人間性や強み、特徴を伸ばす機会なのです。基本的な価値というものは、つまりスキル、能力、また意識はオープンマインドとオープンハートを持つことだと思います。常に決まりきった方法で考えるように習慣づけられていて、自分が自分であるという大事なことに気づけていないこともあります。立ち往生していては、プレーヤーとしても人として成長し続けることはできません。
ジョコビッチの両親、ディヤナ(左)とスルダン
――若い世代に伝えたい重要な価値は何ですか?
ジョコビッチ そうですね、私のアプローチはとても総論的です。私を敬ってくれる若い世代や、自分たちのキャリアや生活のモティベーションやインスピレーションを得ようとする世界のトップアスリートやテニス選手に対し、自分の発言が大きな影響を及ぼすことは凄く意識しています。ですから、彼らに与えるエネルギーは非常に重要です。私が重要だと思うのは、あなたが何者であるかを強く意識することです。他の誰かを真似たりコピーしたりすることは推奨しません。私にはあなた自身のキャリア、人生、成長において活用できるヒントがあるのかも知れません。しかし、本来は自分自身を成長させるべきなのです。あなたは真の意味で本当の自分自身でなければなりません。これは私からのメッセージとして、世界中の若いテニスプレーヤーへの“バイブレーション(振動)”として伝えたいものです。
――あなたは子供たちにどの世界を残したいですか?
ジョコビッチ ありのままの自分でいられる世界です。今日、私たちがこの社会で生きていく上で、他者が描いたイメージに縛られている状況がよくあります。社会には非常に強い同調圧力があります。その流れに従うためには、特定のものを好きだったり、好きであってはならないこともあります。つまり、強制的に1つのボックスに入れられるようなものです。すべてのものがカテゴライズされてしまっています。私の子供たちやその次の世代のために、そういった状況が少なくなることを願っています。私の子供たちを観察することは、私にとって革命的な変革を起こす経験であり、彼らが私たちやそれより古い世代とはまったく異なる人種であることも見て取れました。彼らはこの惑星に新しくフレッシュなエネルギーをもたらし、自分たちのためにより良い世界を作ってくれるだろうと確信しています。
ATPファイナルズでは準決勝で激闘の末、ドミニク・ティーム(オーストリア)に敗退
――まだ終わってませんが、2020年はどんな年でしたか?
ジョコビッチ 私自身だけでなく、地球のすべての人にとって変化の年だったと表現したいですね。ロックダウンが7~8カ月前に始まったのを覚えていますか? そのころ私はスペインにいましたが、これまで見ることができなかった山々を見ることができました。それは大気汚染がずいぶんと収まったからなのですが、それに関しては生態学的な観点から、非常に良かったと思いました。しかし、それと同時に多くの人々が苦しんでいることを私は悲しく、残念に思います。仕事ができず、家族の食卓に食事を届けることができない人々も大勢いるのです。セルビアという戦争で分断された国の出身ですから、現在苦しんでいる人々の気持ちを私はよく理解できます。それらが改善していく変革が私たち含め全世界をいい方向へ導くことを願っています。多くの人と強調するし、これが困難なことはわかりますが、この大きな変化がよりよい世界に私たちを導き、自分たち自身をよりよく理解することにつながることを願っています。自分がこの数カ月で経験したのは、特にこの3,4カ月は検疫、ロックダウン、厳しい制限です。家族と貴重な時間を過ごせたことは素晴らしいことでしたが、普段は時間がなくてできないようなことに向き合う機会になりました。自分のための時間ではなく、外面のことのための時間。わかるかい? これはとても重要なことで、この地球、生活は、私たちが自分たち自身を顧みて、よりよくするための時間を与えてくれたのではないかと思います。
コロナ禍でのロックダウン中にスタン・ワウリンカ(スイス)とインスタグラムの生配信で世界中のファンを喜ばせた(@djokernole)
――あなた自身のテニスと私生活はどうでしたか?
ジョコビッチ 2020年は今までのところ、テニスに関しては素晴らしい1年でした。負けたのはフレンチ・オープン決勝の1試合だけで、他の多くのトーナメントで優勝しました。オーストラリアでのATPカップ優勝から始まり、オーストラリアン・オープン、ドバイ……。その後にツアー再開後はシンシナティで優勝。USオープンは不運な結果に終わりましたが、ローマで優勝し、フレンチ・オープンでも準優勝。これ以上を望むことはできないと思います。ツアーが全く開催されない6カ月という長い中断期間がありましたが、それでも素晴らしいシーズンでした。大会が行えない競技も多い中、テニスはこうやって実施することができたことに感謝しなければなりません。よくやったと思いますし、そこに不満などありません。よいポジションでシーズンを終えられたと思っています。
2011、12、14、15、18に続き6度目の年間1位はピート・サンプラス(アメリカ)に並ぶ最多記録。その記念に左胸には6匹のクロコダイルが並ぶ
――あなたの財団について、またそこで達成したことの中で、もっとも誇りに思えるのは何ですか?
ジョコビッチ 何年もの間、財団のために精力的かつ献身的に働いてくれている素晴らしいグループにまずは感謝したいです。妻が10年間組織のリーダーを務め、就学前教育や幼児期の発達の支援など、たくさんのプロジェクトを進めてきました。いずれも素晴らしい成果を挙げており、今では約25,000人の子供たちがプログラムに参加しています。もちろんそこには子供たちの両親の協力もあります。『完璧ではなく、サポート』がその親たちと進めているプログラムの名称で、家族との関係におけるカウンセリングやサポートを提供しています。子供の笑顔というのは世界で一番美しいもののひとつだと思います。これほど愛情、興奮、幸せをもたらしてくれるものはありません。多くの子供たちに幼稚園で学び、新しい友だちを作り、新しいコミュニティをつくる機会が与えられることは、大きな幸せですし、楽しみなはずです。しかし、ここはゴールではありません。私たちの国にはまだ就学前教育の機会が得られないたくさんの子供たちがいます。すべてのセルビアの子供が教育を受けられるようになることが長期的な目標です。それには多くの時間がかかるでしょうが、それに取り組んでいます。我々のプロジェクトに共感してくれた国や政府、多くの企業から素晴らしいサポートと協力も得られています。財団がここまで成功していること、また我々が同じ目標に向かっていることも嬉しい限りです。いつかその目標を達成できたらと願っています。
ラコステの創始者ルネ・ラコステ(1994年)
――最後の質問です。ルネ・ラコステについてあなたの考えをお聞かせください。「スタイルがない勝利では不十分」というモットーについてどう思いますか?
ジョコビッチ 「スタイルがない勝利では不十分」? はい、同意でします!(笑)。ルネ・ラコステは完全にそれを体現したと思います。彼は間違いなく勝者の象徴であり、いつもスタイリッシュに勝利を手にしました。彼はコート内外において自身のレガシーによって、テニス界に大きなインパクトを残しました。だから私はそのワニのマークがついたウェアを着て、この素晴らしいブランドとファミリーを代表できることが誇らしいです。そして自分のスタイルを表現することなく、自分の足跡を残さずに勝つことは十分ではありません。自分自身を表現して勝ったときにこそ、私はその勝者を応援し、称賛します。ただテニスの試合や大会で勝つだけよりも、足跡を残すことのほうがより奥深いことだと思うのです。
写真◎Getty Images、ラコステ
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