試合立ち上がりで主導権を握っていたのは、「自分のテニス」に迷いを抱かぬ、井上雅(テニスラウンジ)の方だった。

 相手のボールが少しでも浅くなれば、コートに踏み込みフォアで攻める。対するルー・ジアジン(中国)は、今大会既に単複計7試合を戦った疲れもあってか、ボールを追う足が重い。第2ゲームで手にしたブレークの機は逃すものの、流れは井上にあった。
 
 その劣勢のなかでルーは、何かを変えなくてはと思う。

「相手の方がよく走るし、時間を与えると左右に散らしてくる。もっと自分から攻めて、ポイントを短く終わらせよう」

 数ゲームを終えた頃から遂行したそのプランを支えたのは、「今日はとても調子がよかった」というサーブ。サーブで相手を崩し、間髪入れずに攻めるテニスで、ルーはリズムを作る。一方の井上は、重要な局面でファーストサーブが入らず、相手のブレークポイントでのダブルフォールトもあった。第1セットは速攻型プレーで波に乗ったルーが、34分で奪い取った。

画像: シングルスでタイトルを獲得したルー・ジアジン(中国)(写真提供◎大会実行委員会、撮影◎てらおよしのぶ)

シングルスでタイトルを獲得したルー・ジアジン(中国)(写真提供◎大会実行委員会、撮影◎てらおよしのぶ)

 第2セットも、スコアだけ見れば第1セットと同じ。ただ、内容的にはより競ったものであることは、47分の時間が物語っている。第3ゲームは3度のデュースを繰り返した末に、ルーがキープ。第6ゲームでは「リターンからプレッシャーを掛けていこう」と心に決めたルーが、ファーストの確率に苦しむ井上のセカンドサーブを叩いてブレークし、優勝へと大きく近づいた。

 しかしその直後のゲームでは、勝利を意識し安全にプレーしだした相手の心理とボールの浅さを見逃さず、井上が得意のフォアで攻めてブレークバック。お互いの勝利への強い思いが生む心のあやが、試合の流れを幾度となく反転させた。

 その混戦模様から最後に抜け出したのは、サーブ力にまさる長身の中国人だ。第8ゲームをブレークすると、最後は苦労しながらも自らのサービスゲームをキープ。井上のショットがネットに掛かり試合に終止符が打たれると、勝者は叫び声をあげ、歓喜の情を解き放った。

 この大会に263位で入ってきたルーの当面の目標は、少しでもランキングを200位に近づけ、来年1月開催のオーストラリアン・オープン予選に出場すること。今大会の優勝によりその数字は220位前後まで上がると見られ、目指す地点へと大きく前身した。

 一方の井上にとっては、ランキングポイント以上に大きいのが、「自分のテニスの方向性は間違っていない」という確信と手応えだ。

 同時に「サーブ力の向上」という、明確な課題を見出せたのも収穫だろう。

画像: シングルス準優勝の井上雅(テニスラウンジ)(写真提供◎大会実行委員会、撮影◎てらおよしのぶ)

シングルス準優勝の井上雅(テニスラウンジ)(写真提供◎大会実行委員会、撮影◎てらおよしのぶ)

「今年の目標は2.5万ドル大会で優勝することだったので、悔しい」と言うも、「次につながるテニスが毎日できていた」と、実り多き浜松での1週間を振り返った。

レポート◎内田暁(大会オフィシャルライター)

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