1992年女子シングルス決勝、魅惑のフレンチ・オープン決勝でセレスがグラフに競り勝つ【AP Was Thereシリーズ⑥】
スポーツの大会はさまざまな理由で、人々にとって忘れがたいものになる。番狂わせ、歴史的重要性、劇的な瞬間、大逆転劇など…ときにいくつかの理由が重なることもある。
新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックによりフレンチ・オープンが9月に延期された今、AP通信はパリで伝説的な試合がプレーされたときに報道されたいくつかのストーリーをふたたび紹介していく。
この「AP Was There」シリーズは、過去40年からのロラン・ギャロスの試合で際立ったものをピックアップしている。
ふたりの偉人の間で戦われ、その劇的さ、競り合いゆえに思い出深きその試合は、モニカ・セレス(当時ユーゴスラビア)とシュテフィ・グラフ(ドイツ)が対戦した1992年の女子シングルス決勝だ。それから1年も経たないうちに、セレスはドイツの大会で自称“グラフ・ファン”に背中を刺されることになる。
魅惑の2時間43分、セレスがグラフとの死闘を制して3連覇達成|1992年6月6日配信
これは、誰も負けるに値しない試合だった。
モニカ・セレス(当時ユーゴスラビア)とシュテフィ・グラフ(ドイツ)はその土曜日、激しいショットの応酬で一進一退の攻防を繰り広げながら2時間43分に渡って戦い続けた。最終的に18ゲームと91分を要した伝説的第3セットのあとにセレスが6-2 3-6 10-8で勝者として浮上し、フレンチ・オープン3連覇を決めたのだった。
「これまでプレーした中でもっとも感動的な試合だったわ」と今やグランドスラム達成への半分までたどり着いたセレスは語った。「この試合はずっと、私の心の中にとどまり続けるでしょう」。
セレスはまた、「これ以上の決勝は望めなかった」と続けた。「これは女子テニスが日に日にエキサイティングになりつつあるということを示していると思う。負けたのがどちらであれ、残念なことだわ。双方が勝利に値した」。
負けたにも関わらず、グラフはそれが記憶に残る試合であるということに同意した。
「最終セット10-8というプレーをしたなら、間違いなくそれは特別よ。例え負けたとしても、それは特別な試合だわ」
この勝利でセレスは、1935~37年に優勝したヒルデ・スパーリング(ドイツ)以来となるフレンチ・オープンで3連覇した女子選手となった。
世界ランク1位の座を確固たるものにしたセレスは、グランドスラムで通算6度目のタイトルを獲得した。実際彼女は、このところ出場した5つのグランドスラム大会で優勝している。故障のために昨年のウインブルドンに出場できなかった彼女だが、2週間後にはそこで“真のグランドスラム”に向けて1992年の3冠目を目指すことになる。
土曜日の決勝での第3セットは、近年における男女のテニス史上でもっとも素晴らしいドラマのひとつを提供した。
「ここまでの人生を通し、一度もこんなセットをプレーしたことはなかったわ」とセレスは振り返った。
その試合には激しいラリー、素晴らしい返球、突き刺さるようなウィナーが随所で見られ、試合の流れは頻繁に変化した。疲労にも関わらず、双方のプレーヤーが非常に気持ちを高揚させ、ほぼ各ポイント後に感情を露わにした。
グラフはウィナーのあとに「イエス!」と叫んで拳を握りしめ、自分の腰の辺りを叩いた。セレスはあるポイントを落としたとき、「ノー!」と悲鳴を上げ、目を閉じて顔をしかめた。
第3セットでふたりは交互にリードを奪い合い、戦況は一進一退だった。セレスは5-3とリードしたが、グラフは次のゲームで4つのマッチポイントをセーブして6-5、7-6と先行した。しかしセレスはそこからブレークを果たし、8-7と王手をかけた。ここはグラフがブレークバックして8-8としたがセレスはまたもブレークに成功し、それからついにサービスゲームをキープして試合を終わらせた。
「これほど長い試合になるなんて、考えてもいなかった」とセレスは試合後に明かした。「私は少し疲れ始めていた。でも私は、必要ならまだ続けることができたと思うわ」。
18ゲームをプレーした第3セットは、アリシア・ギブソン(アメリカ)がアンジェラ・モーティマー(イギリス)を6-0 12-10で破った1956年以降でもっとも多いゲーム数を要した女子決勝でのセットだった。
総計35ゲームは、1968年のオープン化以降の時代のフレンチ・オープン決勝最多ゲーム数の記録に1つ足りなかった。36ゲームの最多記録は、1973年にマーガレット・コート(オーストラリア)がクリス・エバート(アメリカ)を6-7(5) 7-6(6) 6-4で倒した試合で樹立されていた。
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