2009年男子シングルス4回戦、ナダルのフレンチ・オープン31連勝に終止符【AP Was Thereシリーズ⑤】

スポーツの大会はさまざまな理由で、人々にとって忘れがたいものになる。番狂わせ、歴史的重要性、劇的な瞬間、大逆転劇など…ときにいくつかの理由が重なることもある。
 
 新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックによりフレンチ・オープンが9月に延期された今、AP通信はパリで伝説的な試合がプレーされたときに報道されたいくつかのストーリーをふたたび紹介していく。

 この「AP Was There」シリーズは、過去40年からのロラン・ギャロスの試合で際立ったものをピックアップしている。

 ある非常に重大な番狂わせは、ラファエル・ナダル(スペイン)がフレンチ・オープンで初めての敗戦を喫したときに起きた。彼はその2009年の男子シングルス4回戦でロビン・ソダーリング(スウェーデン)に敗れるまで、ロラン・ギャロスで31戦全勝を誇っていたのである。

ナダルがロラン・ギャロスで初の敗戦|2009年5月31日配信

 ラファエル・ナダル(スペイン)は31試合に渡って無敗記録と揺るぎない意志の強さを誇り、ロラン・ギャロスのレッドクレーを支配していた。31試合の間、これは彼のサーフェスであり、彼の大会であり、彼の時間だった。

 2005年5月23日のデビューの日から31試合に渡り、ナダルは一度もフレンチ・オープンで本当の意味で挑戦されることはなかった。ここでの彼は脅かされたこともなかったし、敗れることとは縁遠かった。それゆえ彼は4年連続でタイトルを獲り、テニス史上初めて5連覇を成し遂げる男となる偉業に迫っていたのである。そう、その日(2009年フレンチ・オープン4回戦)までは…。

 少し喧嘩腰で190cm超えの身長に見合ったパワーを持つ24歳のロビン・ソダーリング(スウェーデン)は自信に満ちた態度で時に壮観な3時間半のプレーを披露し、ロラン・ギャロスにおけるナダルのキャリアを通しての戦績を「31勝0敗」から「31勝1敗」に変えたのだった。

「これが道の終わりだ。僕はその事実を受け入れなければならない」とナダルは試合後に語った。「僕は自分の勝利を受け入れるのと同じように、自分の敗戦を落ち着きをもって受け入れなければならない」。

 第1シードのナダルに対するソダーリングの6-2 6-7(2) 6-4 7-6(2)の勝利は、テニス史上もっとも大きな番狂わせのひとつと評されてしかるべきものだ。確信が持てない? クレーコートでの覇権、グランドスラムにおけるウインブルドンとオーストラリアン・オープンを含む6つのタイトルなどナダルの素晴らしさをひとまず横において、次の点に目を向けてほしい。第23シードのソダーリングはこれまでどのグランドスラム大会でも、今回まで3回戦の試合に勝ったことが一度もなかったのである。

「僕は自分に、『これはただのもうひとつの試合に過ぎない』と言い聞かせ続けていた」とソダーリンクは振り返った。

 過去の両者の対戦でナダルは3戦全勝しており、その中には2007年ウインブルドンでのフルセットの大激戦(6-4 6-4 6-7(7) 4-6 7-5)と4月のローマでの6-1 6-0の圧勝もあった。しかし今回のナダルは、通常より半歩遅かった。彼は第3セットの最中に地面に倒れてピンクのシャツとチャコールグレーの短パンを土まみれにし、一方のソダーリングは素晴らしいパフォーマンスを見せた。彼は61本とナダルより28本多くウィナーを決め、ネットに出た35回の機会のうち27本をものにした。

「こういう日もあるものだ」とナダルは敗戦の弁を述べた。「僕の目の前には、非常にいいプレーをしている誰かがいたんだよ」。

 この驚くべき結果は、フレンチ・オープン前年女王のアナ・イバノビッチ(クロアチア)が2-6 3-6で第9シードのビクトリア・アザレンカ(ベラルーシ)に敗れた試合やマリア・シャラポワ(ロシア)のフルセット勝利、ウイリアムズ姉妹のダブルスでの敗戦を含めた日曜日の残りすべての出来事を単なる余談程度のものにしてしまった。

 この日に重要だった唯一のことは、ナダルの敗戦だった。1回戦で勝った彼は、フレンチ・オープンで28連勝をマークしたビヨン・ボルグ(スウェーデン)を抜いて男子の新記録を樹立した。2回戦をクリアした彼はクリス・エバート(アメリカ)の持つ「29」という同大会で男女を合わせた最多連勝記録を上回った。

「皆がショックを受けていると思うよ」と3度フレンチ・オープンで優勝した実績を持つマッツ・ビランデル(スウェーデン)はコメントした。彼はスウェーデンのデビスカップ代表チーム監督としてソダーリングとともに働いていた。

「ある時点で、ナダルは負ける。しかし、それが今日起こるとは誰も予想していなかった。今年起こると考えていたものさえいなかったはずだ。いま肝心なのは、そこに勝つべき大会があるということだ」

 この事態から最大の恩恵を受けたのは、恐らくロジャー・フェデラー(スイス)かもしれない。グランドスラムで13勝を挙げていた当時のフェデラーの受賞リストに欠けていたのは、フレンチ・オープンのタイトルだけだったのだ。別の見方をすれば、ついにロラン・ギャロスで優勝できるかというプレッシャーはフェデラーの上に通常よりはるかに重くのしかかる。フェデラーはロラン・ギャロスでの過去3度の決勝のすべて、そして2005年の準決勝でもナダルに敗れていたのだ。

「もしこのタイトルに値する男がひとりいるとすれば、それは彼(フェデラー)だ」とナダルは明言した。

 (当時の)フェデラーはこの日まで、フレンチ・オープンでナダルからセットを取った最後の選手だった。それは2007年決勝にまで遡る。ナダルはロラン・ギャロスで32セットを連取しており、これは1978~81年にボルグが打ち立てた41セット連続奪取の記録に次ぐ数字だった。しかしその連取記録も、その日曜日には途切れてしまった。

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