一年前の自分を克服、大坂なおみが昨年優勝者のケルバーを粉砕 [USオープンDAY2]

「USオープン」(アメリカ・ニューヨーク/本戦8月28日~9月10日/ハードコート)は大会2日目、日本勢7人が登場する予定だったが、雨のためほとんどが消化しきれず、試合を終えたのは2人のみ。
屋根を閉めたセンターコート『アーサー・アッシュ・スタジアム』で戦った大坂なおみ(日清食品)は、ディフェンディング・チャンピオンで世界6位のアンジェリック・ケルバー(ドイツ)を6-3 6-1で破り、トップ10からの初勝利を手に入れた。

しかし土居美咲(ミキハウス)は第23シードのバーボラ・ストリコバ(チェコ)に1-6 3-6で完敗。杉田祐一(三菱電機)と19歳の新鋭ジェフリー・ブランカノウ(フランス)の試合は杉田の2セットアップで第3セット1ゲーム目に降雨中断となり、そのまま明日に順延となった。


◇ ◇ ◇
テニスプレーヤーと呼ばれる人たちは、ほとんどが出場した大会の数だけ敗戦を経験する。その数は平均して一年に20回というところだろうか。その中に、例えば大坂が昨年のこの大会の3回戦で経験したような、悔やんでも悔やみきれない、忘れたくても忘れられない敗戦があるものだ。それを引きずり、トラウマに苦しむ。
昨年初出場で3回戦に進出した大坂は、そこで当時世界9位だったマディソン・キーズ(アメリカ)に最終セット5-1から敗れた。追い上げられている間に頭が真っ白になり、決定的なミスをおかして、試合中にもかかわらず泣いた。もともと「ネガティブになりがち」と自己評価するシャイな18歳が負った〈傷〉は深かった。
あれから一年。大坂はアーサー・アッシュ・スタジアムに戻って来た。コートで涙した昨年の全米オープンを最終的に制したケルバーの、注目の1回戦の相手として。
ケルバーは昨年グランドスラム4大会のうち全仏オープン以外の3つで決勝に進出。そして全豪と全米の2大会で優勝し、全米後に世界ランキング1位を獲得している。それが今では6位になっていることからもわかるように今季は低空飛行。アップダウンの大きい選手ではあったが、今季は全仏オープンを含めて初戦負けが6回ある。そのうち3回が〈U21〉の若い選手ということは、遅咲きの29歳がブレーク2年目に直面している重圧と無関係ではないだろう。
大坂も大会前、「向こうのほうがプレッシャーを感じているはず」と話し、確かにチャンスを感じていた。実際、立ち上がりから大坂のパワーが炸裂。大舞台に強い心臓を持っている上、昨年経験を済ませたおかげか、収容人数約2万4000のセンターコートにも、のまれることはなかった。
リスクを恐れず、ハードヒットでライン際を狙っていく。第1セットの第8ゲーム、ケルバーのサービスゲームはデュースのあとダブルフォールトでこの試合初めてのブレークポイントが大坂に訪れた。強烈なフォアハンドのリターンをポイントにつなげ、6-3でセットをものにした。
第2セットはいきなりのブレーク成功から第5ゲームで2度目のブレーク。続くゲームをキープして5-1。どうしても、「あの記憶」が蘇るシチュエーションだ。
「実は4-1のときに、もうあのときと同じ緊張を感じてた。それまでと同じようにプレーすることを自分に言い聞かせました。緊張に飲まれないようにと思って」
壁と呼ばれるケルバーのしぶとさは、その葛藤をいっそう困難にしたはずだが、大坂は克服した。ケルバーのサービスゲームを40-15からデュースにもち込むと、2度目のデュースのあとにマッチポイントを握り、これを生かした。ウィナーの数はケルバーの9本に対して22本。最後まで攻めの姿勢を貫き、大坂の破壊力が完全にまさった。

「今日は私の日じゃなかった」とケルバー。あれこれ分析の余地もなく、もうどうしようもなかった試合を振り返ってよく使われるフレーズだ。
昨年覇者の元女王を打ちのめし、過去の自分を打ち破った19歳の大坂。この先、壁はいくつもそびえる。そしていくつも越えていく可能性を、確かに証明した。

(テニスマガジン/ライター◎山口奈緒美)
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