3日目DAY WATCH「驚異のシャポバロフは華やかに散り、チョンとルブレフは準決勝へ」
三すくみという言葉がある。元来、蛇は蛙をひと飲みにするが、蛙はナメクジを食い、しかしナメクジはその粘液で蛇を溶かす、といった具合に、三つのものが互いに得意な相手と苦手な相手を一つずつ持ち、牽制し合って三者とも身動きが取れなくなることを言うのだが、ここで言いたいのは、単純にグーはチョキに勝つが、チョキはパーに勝ち、パーはグーに勝つという風に、勝負ごとには多少なりとも相性があるということだ。
ラウンドロビン(8人が2グループに分かれて、それぞれ総当たり戦)は、うまくするとこの三すくみが見られる方式だということを、この日の試合を見て思い出した。前日にデニス・シャプバロフ(カナダ)の多彩で読みにくいテニスを前に、力の差を見せつけられていたジャンルイジ・クインツィ(イタリア)が、一夜明けた今日、鉄壁に見えたチョン・ヒョン(韓国)をぎりぎりまで追い詰めたのである。
闘志はあるがショットにパワーがない、フォアハンドに体重が乗っていない、と地元記者に批判されているクインツィは、見たところ、チョンのように比較的単調に、がっちり打ちこみ続けてくる選手に対した方が、相手のショットの勢いを利用してリズムを作れる様子。乗ると怖い男はこの日、別人のように波に乗り、5セットの終わりまで、チョンにプレッシャーをかけ続けた。
一方チョンは、やや硬くなっているように見えた。チョンが、たびたび「落ち着きを保つことが重要」と言うのを聞いて、内心、落ち着く代わりに燃え上がったほうが強くなる選手もいるのでは、と思っていたのだが、チョンにとって「落ち着く」の反対語は「燃え上がる」ではなく、「ナーバスになる」だったのだと悟る。彼はともすると、ナーバスになってしまう傾向があるようなのだ。
伸びないはずのストロークを果敢に打ち込み、高い頻度でネットもとり、まさにノリノリのクインツィを前に、チョンは精神的に押されて固くなり、ショットの伸びがなくなり、そのため攻め込まれ、いつもよりミスが多くなっていた。チョンは、1-4 4-1 4-2 3-2から迎えた自分のサービスゲームでマッチポイントを握ったにも関わらず、最後はボレーを叩き込まれてブレークを許してしまう。
「4セットでマッチポイントがあったのに、そこで決められなかったときはきつかった」と後にチョンは振り返っている。
続くタイブレークでは、自分のバックハンドのミスとダブルフォールトでセットを献上し、勝負は第5セットへ。なんとか持ち直そうと頑張るチョンだが、いい波に乗るクインツィもまったく引こうとしない。緊張で見るからに腕に力が入り、ショットが伸びず、受け身になるチョン、いまだアンフォーストエラーはするが、明らかに乗っているクインツィ、という図式のまま最終セットもタイブレークにもつれ込み、チョンは流れ的に完全に押され気味だった。
しかしタイブレーク3-2から意を決したように2本の強気のストロークを叩き込み、クインツィの返球がアウトとなったとき、チョンが「ウォー!」と雄たけびを上げたのである。この突然の気合いで流れを引き寄せ、チョンはタイブレークを7-3で取って試合を終わらせたのだった。
結局、チョンはグループ全勝なので、文字通りの三すくみではない。とはいえ、対クインツィ戦でケタ違いに見えたシャポバロフは、チョンにクインツィよりずっとあっさりと敗れていたのだ。
ちなみにこのシャポバロフは、おそらくATPの新世代のイメージに、一番ぴったりきている選手と言える。年が18歳と一番若いこともあるが、そのテニスが非常にスタイリッシュなのだ。つばを後ろにして帽子をかぶったその外見は、少しレイトン・ヒューイット(オーストラリア)に似ているが、バックハンドは片手打ちであり、その全身を使った打ち方の華麗さにも、決まったときのショットの冴えにも、実に目覚ましいものがある。
シャポバロフがネットに出るとき、その動きのすべてが躍動的かつ流動的で、スケートボードでもやっているようだ。ストロークでも、フルスイングでアグレッシブなショットを繰り出し、決まれば叫びながら派出なガッツポーズをつくる。そのプレーの華やかさゆえ、ここミランでも子供から非常に人気があり、頻繁にデニス、デニスと観客席から子供の声が上がる。今回の面子の中で体は小さいほうだが(183cm)、このまま順調に開花したら、一番破天荒な規模の選手となりそうなのが、このシャポバロフなのだ
ちなみにシャポバロフは、新世代対決の真骨頂だった対アンドレイ・ルブレフ戦で、文字通りのボールの殴り合いによって会場をさんざんどよめかせつつ、1-4 4-3(8) 3-4(2) 4-0 3-4(3)のスリリングな5セットマッチの末に頭を垂れた。そして、この日の試合の結果、グループAからはチョンとルブレフ、こじれにこじれたグループBからは、ボルナ・チョリッチ(クロアチア)とダニール・メドベデフ(ロシア)が準決勝に勝ち上がった。
死闘のあと、ルブレフは「皆が真剣に挑むとは思っていたが、また、皆がよりエキシビション的な、楽しい大会を予想していた。でも大会につぎ込まれた多くの努力を見て、結局のところ、選手皆にとって、このタイトルを獲るというのが、すごく大きなこととなった」と言っている。
新ルールに関するお祭り騒ぎが落ち着いた頃、大会はいよいよ肝心なテニスで、真剣みを帯び始めた。
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