初日DAY WATCH「新世代の息吹、注目の若手対決がスタート」
7人の21歳以下トップ7+開催国の選ぶワイルドカード1による「Next Gen ATPファイナルズ」(イタリア・ミラノ/11月7〜11日)が、7日、ついにスタートした。
誰が始めたかは知らないが、『NEXT GENERATION』----新世代の息吹、とでもいうこの言葉は、今やアニメやテクノロジー、スポーツとあらゆる分野で使われる、流行り言葉のようになっている。
その名をいただくこの大会は、文字通り、テニスの未来を背負う次世代スターによる、21歳以下ATPファイナルズとでもいうものだが、それだけではない。この大会はまた、最新テクノロジーや、より合理的な新ルールを試すテストの場でもあるのだ。
なお、これは以前から思っていたことなのだが、この新世代の若きスターの中には、やたら『ロシア関係者』が多い。アンドレイ・ルブレフ、カレン・カチャノフ、ダニール・メドベデフの3人がロシア人であることに加え、デニス・シャポバロフ(カナダ)、全年齢版の「ATPファイナルズ」(11月12〜19日/イギリス・ロンドン)に集中するため、この大会出場を辞退しはしたが、若手部門のトップだったアレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)のふたりも、現所属国で帰化したロシア系の親を持つ。
つまり、ズベレフを入れると、事実上8人中5人がロシア人。旧ソ連は歴史的に早い段階で若い才能を見定め、徹底的に鍛える伝統を持っていた国だ。親がコーチだった選手が多いだけに、親がその伝統を引き継いでいるからなのか? とかってに想像していたのだが、記者会見でこれを選手に尋ねたイタリアの記者がいた。なぜロシアやロシア系の若手はこうもすごいのか? 当事者の答えは予想通り、「理由はわからない」というものだったが、記者はすかさず、
「何か特別な、強くなる食べ物でもあるのか?」
「キャビアだよ。それもすごく値段の高いやつ」とカチャノフは笑顔で返した。
肝心な試合はと言えば、この日はラウンドロビン(2グループに分かれての総当たり戦)の1試合目が行われ、ダニール・メドベデフ(ロシア)対カレン・カチャノフ(ロシア)の身長198cmのロシア人対決では、ディフェンシブ・プレーのうまさでじりじりと劣勢を巻き返したメドベデフに軍配。唯一のアジア人、チョン・ヒョン(韓国)は、2月のデビスカップ、対イギリス戦で審判の目にボールを当てて処罰されて以来、破竹の勢いで伸びたデニス・シャポバロフ(カナダ)に、1セットダウンから挽回勝ちした。
夜の部では、ボルナ・チョリッチ(クロアチア)がジャレッド・ドナルドソン(アメリカ)を、アンドレイ・ルブレフ(ロシア)がジェンルイジ・クインツィ(イタリア)を退けた。ちなみに20歳ながら今や世界3位(最新)のズベレフは、出場は辞退したものの、この日、昼の部と夜の部の間にステファノス・チチパス(ギリシャ)とのエキシビションマッチを行った。
今大会は、4ゲーム先取の5セットマッチ、ノーアドバンテージ、ノーレットという方式がとられる。この慣れない方式に選手がまだ戸惑っているせいか、新テク・新ルールのテストで“お祭りモード”になっている大会の雰囲気のせいか、この初日、試合内容的に、特にハイレベルのものは見られなかった。
個人で言えば、ミスが少なく、プレー内容で質が高かったのはチョリッチ、終始集中して戦い、いい挽回劇を見せたのはチョン、ということを言い添えておこう。
しかし盛り上がった試合がなかったわけではない。この日のラストマッチだった、ワイルドカードのクインツィと、第1シードのルブレフの試合は、世界306位の地元選手クインツィが、35位のルブレフに対して、勝負をフルセットの、それもタイブレークに持ち込む健闘を見せたため、観客席は大いに沸き返った。
クインツィと言えば、2013年のウインブルドン・ジュニアで優勝したかつての期待の星。それは決勝でチョンを破っての優勝だったが、その後、明暗は分かれた。クインツィは、まだ21歳とはいえ、『将来を嘱望されながら、花開かずに落ちた若手』という評価なのだ。なぜそうなったのか、イタリア人にありがちなこと----ひょっとして練習よりディスコが好きだったせいか? と訝りつつ地元記者に聞いてみたところ、「彼は不真面目でも練習嫌いでもない」との前置きのあと、こう説明してくれた。
「まず故障があり、そのあと伸び悩みから焦って何度もコーチを変え、それで余計に混迷した。父親は扱いが楽な男じゃなくてね。べストのコーチを求め、数ヵ月試しては変える、を繰り返したんだ。両親、またイタリア一般での期待のプレッシャーも大きく、それもおそらく悪い影響を生んだのだろう」
実際、彼は2014年から8度もコーチを変えている。
「彼は、7-8歳のときから、イタリアでは神童扱いされていた。もしかすると、実際よりも自分が優秀だと思い込んでいたのかもしれない。父親がお金持ちで、ジュニア時代にたくさんの大会に遠征できたから多くのポイントを稼いだが、本当はジュニア・ナンバーワンというほどの実力ではなかったのだよ。プロになったとき、彼は以前のように勝てなくなり、壁にぶつかった。彼はパワフルなタイプではないし、サービスも、今良くなりつつあるが、そう強くないからね」と記者たちは口をそろえて言った。「(アンドレアス・)セッピくらいにはなれる選手かもしれないが、トップ10、20とかは狙えないよ」。
愛情を見せつつも、かなりシビアに評価してくれた記者たちだが、そんな彼らも太鼓判を押したのが、「彼は怠け者じゃない。コート上ではファイターで、決してあきらめない」ということだ。そして、この日のクインツィは、ややミスも多かったルブレフ相手に、その強みをフルに発揮して見せる。記者たちにダメと言われたフォアハンドで何度もウィナーを叩き込み、やられては立ち上がるファイト溢れるプレーで、クインツィは4-1 0-4 4-3(3) 4-0 3-4(3)の死闘を演じたのだった。
8選手の中でもっともハングリーだったクインツィの奮闘は、この初日のハイライトだった。光あるところには影もある。将来を嘱望されながら消えていった若手は無数にいるが、この大会を足掛かりに、クインツィがふたたび階段を上り始めることができるよう願いたい。
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