平田歩(慶大)が4度目の夏に初優勝、「神様がくれたご褒美」 [インカレ]
全日本学生テニス連盟が主催する学生テニス日本一を決める“インカレ”ーー「2021年度全日本学生テニス選手権大会(男子89回/女子65回)」(三重県四日市市・四日市テニスセンター/予選8月12日〜、本戦16~24日/ハードコート)は、本戦9日目の24日、男女シングルス決勝(各2試合)、男女ダブルス決勝(各2試合)が行われた。
女子シングルスは第1シードの平田歩(慶應義塾大4年)が、第2シードでディフェンディング・チャンピオンの阿部宏美(筑波大3年)を前日に倒して勝ち上がってきた一つ後輩で第5〜8シードの今田穂を6-1 6-7(4) 6-3(試合時間、3時間02分)で退け、4度目のインカレ挑戦で念願だった初優勝を手にした。
試合が終わった瞬間、チームに向かって小さくガッツポーズをし、笑顔を見せた平田だったが、そのあとは感情が溢れてきて涙をこぼしていた。
「インカレのタイトルをずっと目標にしてきて、いつも一歩が届かなかった。今回はテニスの神様がくれたご褒美だと思う」(平田)
平田のインカレは、1年生で予選を勝ち上がってベスト4、その後、4回戦敗退、ベスト4。インカレ・インドアは1回戦敗退、ベスト4、準優勝の成績。1年生のときからすべての全国大会に出場し、ほぼ上位進出を果たしてきた。今年2月のインカレ・インドアで初めて決勝に進出して、現プロ1年目の松田美咲(当時亜大)に敗れたが、あと少しのところまできていたのだ。
第1セットは平田の速いテンポのラリーに今田がつられて、平田のペースで試合が進んだ。全身を使って体重を乗せてフルスイングしていく平田のフラット系のボールに押されて、今田が対抗しようとした。今田もまた、全体重をボールに乗せて重いボールを打つが、フラット系のフォアハンドと低く滑るバックハンドスライスのコンビネーションプレーには、ただパワーとスピードで対抗するだけでなく確実なプロセスを経て打っていく必要がある。
平田歩(慶應義塾大4年)
第2セットになると、今田が自分のプレーに気づき「ペースを落とすようにした」。すると今度は平田がタイミングが合わず、ミスが出始めて、今田が5-2とリードした。5-5まで追いつかれたあと、最後はタイブレークで今田がセットを奪い返した。
今田穂(慶應義塾大3年)
平田は、その第2セットの追い上げを第3セットの3-0リードに繋げた。3-2まで今田が詰め寄ってきたが、ショットの威力を増してすぐに突き放し、5-2とリードを広げた。5-2のスコアは、前日に今田が大逆転劇をスタートさせたスコアだったが、平田は落ち着いていた。一方の今田は、「相手がよくて焦ってミスをしてしまった。もっとしぶとくラリーを続ければチャンスはあったのに。もう少し我慢強くやるべきだった」と、その場面を悔いた。平田はもはや動じるものがなく勝利へ突き進んだ。
前日の準決勝で阿部を5時間かけて破った試合の影響は、今田には感じられなかった。「疲れていましたけど、問題なかったです」。本当かどうかはわからない。ただ、最後までボールは追い続けていたが、前日の粘り強さは発揮できなかった。
5時間の準決勝を戦った翌日の朝から、3時間の決勝をプレーした今田
「以前の自分なら、リードしていて追いつかれて競ってきたら、焦って打ってミスをしていた。でも、今の自分は心の持ちようを学んだ」と平田。準決勝、決勝でチームメイトと戦う前、「相手を人間と思わず、(永田は)じゃがいもだと思う」と言って笑わせ、今田については「カレーのルー(締めの調味料)」とも言った。平田なりに、感じるプレッシャーをはね除ける、心の持ちようの一つなのだろう。
自分の心の持ちようを変えた、より大きな出来事、要因はほかにもある。卒業後はラケットを置いて、一般職に就くことが決まっている。「3歳からテニスを始めて約20年。これでテニスはひと区切り。インカレはお世話になった方々のため、恩返しの気持ちで戦う」と、初戦からずっと言ってきた。
4年生で、キャプテン、少し前までは就活もあって、さらに自分の練習やトレーニングもあって、自分の時間が少ないことに心が折れそうになったこともある。ただ、そのとき「自分のためより、チームのためと考えると力が湧いて、心の持ちようが変わった」という。苦しいとき、競ったときに、自分のためではなくチームのため、人のため、お世話になっている方々に恩返しするために戦っていると思うと、落ち着いてできるようになった。そのための練習やトレーニングをしてきたことに、自信もあった。
決勝にふたりを送り出すとき、慶大の坂井利彰監督は、それぞれにこう言葉をかけたという。平田には、今大会でずっと言い続けてきた、「1ポイント1ポイント、石を置いて戦おう」。そして今田には「(大一番に)勝った次の日は難しい試合になるから、我慢強くプレーし続けよう。その中で自分のテニスができる時間が必ずくるから」。
勝つのはどちらかひとり。決勝を戦うふたりを見て、「お互いの気持ちが痛いほどわかる試合で、見ていて辛かった。でも、ふたりとも随所にいいところが出ていた」と坂井監督。それぞれを次のように思っている。
4年生で最後のインカレをキャプテンとして戦った平田には、「就活があったときも、キャプテンとして頑張っていた。自分の練習もあって大変だったと思うが、その中でキャパを広げようと取り組んできた。それが発揮できた試合だったと思う」とコメント。また今田には、「日本一練習をしている選手だと思っている。その努力が実った大会(自己最高成績)。特に本気の阿部選手に勝った試合は素晴らしかった」。
石川琴実/吉岡希紗(早稲田大学3年/3年)
早慶対決となった女子ダブルス決勝は、第2シードの石川琴実/吉岡希紗(早稲田大学3年/3年)が第1シードの永田杏里/平田(慶應義塾大3年/4年)を破り、ふたりでペアを組んで初の全国制覇を果たした。石川は1年生だった2019年インカレ・インドアのダブルス優勝(パートナーは現プロの清水映里)以来、吉岡はジュニア時代のインターハイ団体、高校センバツ個人戦優勝以来の全国タイトル。吉岡は四日市商業高校出身で、高校3年間を過ごした四日市の地での優勝に喜びを倍増させた。
決勝は、第3セットの10ポイントマッチタイブレークにもつれた。石川/吉岡は、3回戦で中山麗未/吉川ひかる(亜細亜大3年/2年)に6-1 3-6 [10-8]、準々決勝で安井愛乃/山崎郁美(亜細亜大3年/2年)に2-6 7-5 [11-9]で勝った試合に触れ、「ギリギリで勝ちきれたことで自信がついた」(吉岡)と、決勝の6-2 0-6 [10-8]のフルセット勝利に繋げた。
石川はその決勝について、「第2セットを簡単に落とさなかったことで、気持ちよく10ポイント(マッチタイブレーク)に入っていけた。競ることができた」と勝因を語った。ちなみに永田/平田は、戦った全5試合すべてが10ポイントマッチタイブレークだった。
永田杏里/平田歩(慶應義塾大学3年/4年)
早大ペアは、男子シングルス、男子ダブルス、女子シングルスの3種目を制した慶大の4冠を阻止した。そして、平田は今大会の2冠は叶わず。また、永田/平田のペアは前年度インカレ・インドアに続き、2度目の準優勝となった。
優勝を決めた瞬間の石川と吉岡は、手を取り合って喜んだ
石川/吉岡にインカレへの思いを聞いた。
石川「ほっとしています。2年間、単複で結果が出せていなかった。インカレはテニスをしている中で目標としているもの。インカレ・インドアは限られた選手しか出られず、切られてしまう。でもインカレは予選があって自分の力で出られる大会。自分の力で勝ち獲りたかった」
吉岡「インカレは学生最高峰の大会。去年も一昨年も狙っていて、ケガがあったり、大事なところで勝ちきれなかったり。今回は絶対に勝つという強い気持ちで臨んだ。シングルスでは力が発揮できず悔いはあるが、ダブルスで優勝できてうれしい」
編集部◎青木和子 写真◎川口洋邦、BBM
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