伝説の試合の11年後、フェデラーがウインブルドン準決勝でナダルに勝利
今年3大会目のグランドスラム「ウインブルドン」(イギリス・ロンドン/本戦7月1~14日/グラスコート)の男子シングルス準決勝。
ラファエル・ナダル(スペイン)とウインブルドンのセンターコートでふたたび対戦するチャンスを、ロジャー・フェデラー(スイス)は11年も待たねばならなかった。この対決は決勝ではなく、準決勝だった。今回は5セットではなく、4セットで決着がついた。
それでもそれは同じくらい最高水準で、そこにいた誰もが忘れないであろう対決だと感じられたのだ。
その“誰も”にはもちろん、宿命のライバルであるナダルを振りきり、最終的に5本目のマッチポイントをものにして7-6(3) 1-6 6-3 6-4で勝つことに成功したフェデラー自身が含まれる。
第2シードのフェデラーはゴールラインの本当にすぐ近くまで迫っていた。第4セット5-3からナダルのサービスゲームで迎えたひとつ目のマッチポイントは、フェデラーがフォアハンドのリターンをミスしたときにその手から滑り落ちた。次に訪れたチャンスは、バックハンドリターンで消えた。
そのあと5-4からサービスゲームに入ったとき、フェデラーはジャンピングスマッシュをラケットのフレームに当ててふかし、ナダルにブレークポイントを与えてしまった。ナダルがそのチャンスをつかみ損ねたあと、フェデラーはさらにふたつのマッチポイントをつかんだ。しかし、観客席にいる妻のミルカが手で顔を覆いながら指の隙間から垣間見る中、またそれをものにし損ねた。
偉大なライバルであるナダルに対して、簡単にはいかないだろうということをフェデラーは知っていた。どこでプレーしようと、容易だったことなど滅多になかったからだ。
最終的に、第3シードのナダルは5度目のマッチポイントでバックハンドをアウトし、この期待を裏切らなかったバトルに終止符が打たれた。
「もうへとへとだ。最後はすごく厳しかった」とフェデラーは試合直後、開口一番にこう言った。
「終わって、すごくホッとしている。ラファは試合にとどまるため、何本かの信じられないようなショットを打ってきた。試合は非常に高いレベルだったと思う」
この結果でフェデラーは、ウインブルドンでの9度目の優勝、グランドスラムで21勝目となるタイトルにさらに一歩近づいた。
しかし、最後の障害物は非常に大きい。来たる日曜日の決勝で、フェデラーはディフェンディング・チャンピオンで第1シードのノバク・ジョコビッチ(セルビア)と対戦する。
この日最初の準決勝で、ジョコビッチは第23シードのロベルト・バウティスタ アグート(スペイン)を6-2 4-6 6-3 6-2で下して6度目のウインブルドン決勝に進出した。ジョコビッチはウインブルドンで5度目、グランドスラムでは16回目となるタイトル獲得を目指している。
この試合は最終的にジョコビッチが取った45本のストロークからなるポイントを含め、見ごたえのあるものではあった。しかしそれは、その先に待っていた並外れて美味しいメインコース前のそこそこ風味のいい前菜に過ぎなかった。
これはフェデラー対ナダルの40回目の対決だっただけでなく、2008年決勝以来となるウインブルドンでのふたりの対戦でもあった。多くの者がテニスの長い年代記の中で最高の闘いとみなしているその11年前の試合で、ナダルは日光の跡も完全に消えて21時過ぎに終わった第5セットを9-7で制してフェデラーを倒していた。
観客たちにとって、そのリマッチがどれほど興奮を誘うものだったか? フェデラーとナダルが午後4時30分、日光の降り注ぐコートに歩み入ってきたとき、ふたりはスタンディングオベーションで迎えられた。
試合が始まってすぐに、その歓迎が正しいことが明らかとなった。彼らは明らかにテニス史上もっとも偉大なふたりであり、長いことそのステイタスに見合うものを見せてきた。
この試合でのフェデラーにとってカギのひとつは、かつてよりも頻繁に強くフラットに打たれた彼の改造されたバックハンドだった。それはナダルの殴るように打つ左利きのフォアハンドに対しても、安定性を保っていたのである。
もうひとつは、フェデラーが年月を経て大きく向上していたナダルのサービスに対して持ちこたえ、抵抗できたことだろう。フェデラーは10本のブレークポイントをかき集め、実際にものにしたのは2つだった。とはいえ、第4セットで2-1とする極めて重要な最後のブレークをもたらした1本を含め、勝つにはそれで充分だった。
それから、次の事実もある。フェデラーはネットに出た33回の機会のうち、25ポイントを勝ち取っていたのだ。
「今日の僕のプレーでは、勝つために十分ではなかった」とナダルは悔しさをにじませた。ナダルは昨年のウインブルドン準決勝で、5セットの末にジョコビッチに敗れていた。
金曜日の成り行きには、『君にできることなら何でも、僕にもできる』という雰囲気があった。フェデラーがコーナーへのサービスでチョークを舞い立たせれば、ナダルも次のゲームで同じことをやった。ナダルが第1セットのタイブレークで勢いよく3-2リードを奪えば、フェデラーは卓越したリターンを使って5ポイントを連取して巻き返し、そのセットを奪った。
フェデラー以外の誰が、第2セットの序盤に起きたようにナダルの打ち損ねのリターンが彼の背後のロイヤルボックスにいた誰かにキャッチされるほどよいサービスを打つことができるだろうか? ナダル以外の誰が、一般的に言って鉄壁のフェデラーのフォアハンドをあれほど激しく攻められるだろう? あまりの激しさに、一度など観客席の3列目に飛ぶほど大きくスイートスポットを外したミスショットをフェデラーから引き出したほどだったのである。
「恐らくこの試合の非常に重要なポイントが、僕に有利なほうに転がったと思う。非常に競ったポイント、長いラリーがあった。確かに彼はいくつかのブレークポイントを凌いだが、それでも最重要ポイントでは僕のほうに流れが傾いたように感じる」とフェデラーは振り返った。
「彼はあれほどまでにすごい速さとスピンや何やらでプレーするので、正しく打ち返すことが本当に難しいんだよ」
これは今年のグランドスラム大会での彼らの2度目の対戦であり、強風が吹き荒れた先月のフレンチ・オープン準決勝ではナダルが勝って、そのまま12度目の同大会優勝へと突き進んでいた。
この試合に先立ちナダルは、フェデラーとの対戦成績で24勝15敗、グランドスラム大会では10勝3敗とリードしていた。
しかしウインブルドンは、いわばフェデラーの領地だ。彼は過去に8度優勝杯を掲げているだけでなく、この日の彼はウインブルドンでのマッチ101勝目を挙げた。これはロラン・ギャロスでのナダルを含め、ほかの誰もがどのグランドスラム大会でもやってのけることができていない勝利数だった。
一方のジョコビッチは、フェデラーとの対戦成績で25勝22敗とリードしており、グランドスラム大会では9勝6敗としている。
「彼をぎりぎりまで追い込み、願わくは勝ちたい。しかし知っての通り、非常に難しいだろう」とフェデラーはコメントした。
「彼は、偶然に世界1位にいる訳ではないんだよ」
その金曜日、ジョコビッチはこれまで以上に活発だった。バウティスタ アグートのショットがネットのテープを打ち、軽く上に跳ねてからネットを超えてセットカウントを1-1に持ち込むウイナーになったとき、ジョコビッチは歓声を上げるファンを皮肉な意味でもっと声を上げろと煽るために盛んに手を動かして“もっともっと”というジェスチャーをした。
このような統計を取り始めた2006年以降でウインブルドンでは最多となる45本のストロークによるラリーが自分のバックハンドウィナーで終わったとき、ジョコビッチはスタンドから歓声が上がる中、耳の後ろに手をあてた。
「僕は、力を絞り出さなければならなかった」
バウティスタ アグートは、ウインブルドンでここまで勝ち残ることを本当の意味で期待してはいなかったらしい。彼はその日、結婚前の最後の独身パーティのためにイビサ島で6人の友人たちと合流する予定にしていたのである。
かくして予定は変わり、そこに集まるはずだった友人たちはセンターコートのゲストボックスに座って声援を送ることになった。
しかし最終的に、ジョコビッチは優れたサービスリターン、ボールに追いついて守備を攻撃に転換させる能力で試合を自分のコントロール下に置いたのだった。
そして今、彼はフェデラーの難題となる。(C)AP(テニスマガジン)
※写真は準決勝で対戦したロジャー・フェデラー(スイス/右)とラファエル・ナダル(スペイン/左)
LONDON, ENGLAND - JULY 12: Roger Federer of Switzerland and Rafael Nadal of Spain embrace at the net after their Men's Singles semi-final match during Day eleven of The Championships - Wimbledon 2019 at All England Lawn Tennis and Croquet Club on July 12, 2019 in London, England. (Photo by Clive Brunskill/Getty Images)
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