ジョコビッチが14度目のグランドスラム優勝、アイドルのサンプラスとタイ記録に [USオープン]
「USオープン」(アメリカ・ニューヨーク/8月27日~9月9日/ハードコート)のタイトルは、突如ノバク・ジョコビッチ(セルビア)の手から滑り落ちつつあるように見え始めていた。彼は3ゲームを連続で落とし、人気のある対戦相手のために大声を上げる観客に腹を立てていた。ひとことで言えば、彼は気分がすぐれない様子だった。
それから20分、20ポイントを必要としたターニングポイントとなるゲームがきた。
対戦相手のフアン マルティン・デル ポトロ(アルゼンチン)は3度、ブレークまであと1ポイントというところまで迫った。ブレークしていれば、彼はセットオールとするために、自分のサービスゲームに入る権利を手に入れるはずだったのだ。
そして、ジョコビッチは3度にわたり、強い決意でそれを押し返した。
最終的に、ジョコビッチはそのゲームを取り、そこから試合を切り開こうとしていたデル ポトロのチャンスを奪い去った。
手術を必要とした右肘の故障のために、USオープンを欠場した1年後、ジョコビッチは疑いなく、彼のベストとテニス界の頂点に戻ってきた。彼のリターンと、ディフェンスからオフェンスに転じるスキルは、これまで同様に非の打ちどころがなく、ジョコビッチは2009年USオープン優勝者のデル ポトロに対して、すべての重要な瞬間を切り抜けることにより、6-3 7-6(4) 6-3で勝利をおさめた。
それはジョコビッチにとって14度目の、ウインブルドンに続き2大会連続となるグランドスラム・タイトル獲得だった。
ジョコビッチにとってこれは2011年、2015年に続く、ニューヨークでの3度目の優勝だった。彼はそのほかに、オーストラリアン・オープンで6度、フレンチ・オープンで1度、そして今年のタイトルも含め、ウインブルドンで4度優勝している。31歳の彼は、男子のグランドスラム・タイトル数で、ロジャー・フェデラー(スイス)の「20」、ラファエル・ナダル(スペイン)の「17」に次ぐ、3番目となる「14」のタイトルを持ち、ピート・サンプラス(アメリカ)の記録に追いついた。
「彼がここにいることを期待していたんだが、来ていないようだ」とジョコビッチはサンプラスについて言った。
「彼は僕のアイドルなんだよ。ピート、愛してる!」
フェデラーは今回4回戦で負け、ナダルは右膝の故障のため、デル ポトロに対する準決勝の途中でリタイアした。そしてそのことが、29歳のアルゼンチン人、デル ポトロを9年前のブレイクの年以来となる、グランドスラム大会決勝へと帰還させた。4度の手首の故障を乗り越えた男のカムバックだった。
「彼は、チャンピオンのトロフィーを手にして、ふたたびここに立つことになるだろうと僕は信じている。本当にそう思っている」とジョコビッチは言った。
ジョコビッチはネット際でデル ポトロを抱擁したあと、コート脇のベンチで涙を拭いている彼を慰めに行った。
デル ポトロは今週、テニスをやめることを考えた2015年の“どん底時代”の話をしていた。しかし彼は、スタジアムで「Ole Ole!(オレ、オレ!)」とコーラスしていた10人余りの母国の友人たちに支えられ、時速160kmのフォアハンドと、時速215kmのサービスを炸裂させつつ、キャリア最高の世界3位にまでランキングを上っていったのだった。
これらの武器は、多くの相手に対する試合でフリーポイント(サービスを主としてポイントを獲得すること)を生み出した。しかし、常にすべての答えを持っている様子のジョコビッチに対しては、そうではなかったのである。
ジョコビッチは、多くの非常に長いラリーでデル ポトロよりも上だった。彼は、トレードマークの、体をひねり、手足を広げたコートカバーを駆使して、ほぼすべてのボールに追いつき、雨のために屋根を閉じたアーサー・アッシュ・スタジアムの青いコートの上を、靴底のキュー、キューいう音を立てながら駆けずり回った。
「僕は、フォアでもバックでもウィナーを求め、終始、ほとんど限界まで自分を押してプレーしていたが決められなかった」とデル ポトロは言った。「なぜって(ウィナーを狙って打つたびに)毎回、ノバクがそこにいたからだ」。
その現象がもっとも顕著だったのが、ジョコビッチが第2セット3-4からサービスを打っていたときだった。最終的にデル ポトロが1本のフォアハンドをネットにかけ、もう1本をサイドに外すまで、彼らは8度のデュースを通して競り合い、その間に、デル ポトロのためのブレークチャンスも幾度となくあった。
それらはリスクの高いショットだったが、デル ポトロの意見では「あのような選手を倒すための唯一の方法」なのだ。
そのゲームがあまりに長くなったので、ジョコビッチがついにサービスをキープして4-4としたとき、観客たちはエンドチェンジだと勘違いして席を立ち始め、主審のアリソン・ヒューズは、彼らをたしなめなければならなかった。
しかしながらそれは、彼女が静かにするように頼んだほかの多くとは違い、ごく短いリクエストだった。彼女は主に、デル ポトロを応援して叫んだり、歌ったり、拍手したりするファンたちに、静粛を求めなければならなかったのだ。
彼らの騒ぎはジョコビッチをわずらわせ、彼はその座席に向かって叫んだり、ジェスチャーをしたりし始めた。あるとき彼は、「シーッ」とでも言うように、右の人差し指で唇を抑えた。そのポイントを勝ち取ったあと、ジョコビッチは、あたかも「今は誰のために応援しているんだい?」とでも言うように、その指を耳に当てた。
タイブレークは主に、時間が経つにつれ、どんどん疲れていくように見えるデル ポトロのフォア側のミスのおかげで解決した。彼はブレークし、またキープして3-3とすることで最後の抵抗を試みたが、それもそこで終わりだった。
ジョコビッチが最後の3ゲームを取って試合が終わったとき、彼はラケットを放り出し、腕と脚を広げてコートに仰向けに倒れた。
「もちろん、負けて悲しいよ」とデル ポトロは言った。「でも僕は、ノバクとそのチームのためにうれしく思う。彼らは勝つに値した」。
ジョコビッチは6ヵ月以上付きまとっていた肘の痛みで、シーズン後半に戦列を離れた2017年以来、長い不在は一度も経験していなかった。
彼は今季のスタート時に復帰しようとしたが、そうすることができず、2月に手術を受けることを決めた。世界ランク72位の選手に対するフレンチ・オープン準々決勝敗退が見せる通り、ジョコビッチが適切な調子を取り戻すのには、ある程度の時間がかかった。ジョコビッチは故障が癒えるやすぐに仕事に戻り、ウインブルドンで優勝することによって、ふたたび自分自身に戻ったことを知らせる狼煙を上げたのだった。
今、彼はUSオープンで、その調子が本物であることを裏付けた。彼がワンシーズンに複数のグランドスラムで優勝したのは、キャリアで4度目のこととなる。
「今年の初めに肘に手術を受けたとき、フアン マルティンが通り抜けななければいけなかったことを、真に理解することができた。厳しい時期だったが、人は苦労を通して学ぶ」とジョコビッチは言った。
「僕はそういった厳しい瞬間から、自分のベストを引き出そうと努めているんだ」(C)AP(テニスマガジン)
※写真はUSオープン男子シングルス決勝で、優勝を決めた瞬間のノバク・ジョコビッチ(セルビア)(撮影◎毛受亮介)
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