家族の証言〜母が語る「森田あゆみ」
シリーズ「家族の証言」は、そのタイトル通り、選手の家族に選手の小さい頃の話や思い出を存分に語ってもらって構成したもの。家族だからこそ知る、話せる、貴重なエピソードの数々は非常に興味深い。今回は森田あゆみ選手について、母・ひろみさんが語ってくれた。【2012年10月号掲載】
森田あゆみ ※プロフィールは当時のまま
1990年3月11日生まれ。群馬県太田市出身。6歳でテニスを始め、日本のトップシュニ アに成長。2005年に15歳でプロ転向、以後は丸山淳ーコーチとともに世界を転戦。2012年前期ナショナルAチーム。世界ランク94位(2012年8月6日付)。キヤノン所属
「勝った、負けたという勝負よりも、
ボールを打つことが楽しかったようです」
一輪車と野球
あゆみが4歳の頃だったと思いますが「(鉄棒の)逆上がりができたので見に来てほしい」と言われたことがありました。それを見に行ったとき、他のお母さんから「毎日すごく練習していたよ」と聞かされて。凝り性といいうか、ひとつのことをやり出すと止まらない子でした。
一輪車が大好きでした。すごく上手で、いつも一輪車に乗っていたように思います。同じところをグルグル回ってばかり。たまにお買い物にも一輪車で行ってました。あと、野球ですね。女の子なのになぜか野球が好きで。近所の男の子たちとよく野球をして遊んでいました。それでも走り方とか少しおかしくて、運動神経がいいとは思いませんでした。
テニスとの出合いは小学2年生くらい。夫婦で週末にテニスを楽しんでいたんです。冬はスキーみたいなグループでテニスの腕前はありませんでしたが、そこにあゆみも連れていくようになって、私もやりたい、やりたいと言うようになったのが始まりです。
すごく楽しそうで、のめり込んでいきました。せっかくだから基本からちゃんと習わせたいなと思って、自宅の近くのテニスクラブに通うことになりました。1年後に高崎テニスクラブに移ると、もうテニスに夢中でしたね。
ただ、高崎テニスクラブは自宅から遠く、車で90分ほどかかりました。私が運転して送り迎えをしていましたが、しんどかったですね。週2〜3回が、ほぼ毎日のようになりましたから。あゆみの態度が悪いときに「今日は行かないよ」と言うんです。すると、電車の時間を調べて一人で行こうとする。電車では遠くて行けないんですけど。「謝れば連れて行ってあげるよ」と言うと、「……すいません、連れて行ってください」と、そんなことも何度かありました。
水泳もピアノも3歳から習っていました。テニスがたいへんになってきてたいへんそうでしたが、やめる、やめないは本人が決めるべきだと思っていましたから口出しはしませんでした。そうしたら小学4年生の後半頃に、テニスひとつに集中したいと。それからはもうテニス一本になりました。
勝った、負けたという勝負よりも、ボールを打つことが好きで楽しかったようです。今もそうですが、とにかく昔から打ってばかりいました。打てば決まっていましたから、それは楽しいですよね。
15歳でプロの世界へ
中学1年生の秋、丸山淳一コーチのいるPITA(パームインターナショナルテニスアカデミー)で練習するために、私の実家がある横浜市にあゆみだけ転居しました。昔からとにかくしっかりと打つことを意識してやっていたのですが、周囲からはそれでは試合には勝てないと指摘されることも多かったです。でも丸山コーチは「それを武器にすればいい」という考えでした。PITAには杉山愛さんもいて、あゆみには本当にいい環境で勉強になったと思います。
15歳でプロに転向するときも、本人ではなく、丸山コーチからお聞きしました。私たちの知らない世界ですから、今がそういうタイミングなのだろうと思うだけで、不安とか期待とか、そういう気持ちはありませんでした。
あゆみが帰国してしばらくすると、必ず言い合いです。親子ですからね。今年のフレンチ・オープンでシャラポワに負けたときに「(ファースト)サービスの確率が20%(実際は38%)程度てはね〜」と言ったら、「シャラポワはすごい。やった人でないとわからない。じゃあ、やってみなよ!」と言われたので、「シャラポワとやれるものならやってみたい!」と言いました(笑)。
今は帰国するとパンづくりにハマっているようです。料理とか、クッキーとか、一生懸命に作っています。だから今、一番ほしいのはたくさん焼けるオーブンレンジだと思います。
今までで一番印象に残っている試合ですか? 今年のウインブルドン1回戦です。久しぶりに見に行ったんです。ひとつひとつのショットも良かったですし、精神的にも充実しているのがわかりました。着実に成長しているなと感じ、ああ頑張っているんだなと。何だか、すごくうれしかったですね。
あゆみという名前は人生を一歩一歩、しっかりと歩んでいってほしいという想いを込めてつけました。あゆみ自身、今は強い意志を持って戦っていると思うので、その願いが叶うといいなと見守っています。時間がかかるでしょうけど、一歩一歩、前に進んでいってくれたらと思います。
※トップ写真は2014年1月オーストラリアン・オープンで撮影(Getty Images)
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