小浦武志_取れば天国、落とせば地獄!『勝てないあなたに贈るタイブレーク必勝法』

取れば勢いがつくし、落とせばダメージは深い。プレッシャーが大きくのし掛かる状況の中で、タイブレークを制するには、どうすればいいのだろうか? 強気や気持ちで勝てるほど甘くはない。取れば天国、落とせば地獄!『勝てないあなたに贈るタイブレーク必勝法』解説◎小浦武志【テニスマガジン2014年9月号掲載記事 】

はじめに
タイブレークには3つの種類がある

 私はタイブレークには3つの種類があると思っています。「不覚」「予測」「夢中」の3つです。

「不覚」のタイブレークは、格上の選手が格下の選手と対戦し、タイブレークに入った状況をイメージしてください。「こんな選手を相手にタイブレークになってしまった」「調子が悪くてもたもたし、タイブレークにもつれてしまった」という感じでしょうか。

「夢中」のタイブレークは、この逆です。格下の選手が、あるいは簡単に負けるだろうと思われていた選手が、がむしゃらにプレーし、その結果、競り合ってタイブレークに引きずり込むパターン。

「予測」のタイブレークは、自分と相手の力を判断した上で、これはタイブレークになるだろうと、あらかじめ予測がついているタイブレークです。

 この3種類のどんなパターンでタイブレークに入ったのか。自分でしっかりと認識した上で大切なことは、タイブレークが始まるまでの20秒間で気持ちをリセットし、タイブレークに向かうことです。

 一番いけないのは、何も考えず、ふらっと流れに任せてタイブレークに入ってしまうこと。ここまでの戦いと、これからの戦いは似て非なるものです。

「もう一度、新しい戦いが始まる」と仕切り直し、目の前の1ポイントに全力投球するべく、気持ちを高め、強い決意でタイブレークに臨むのです。

小浦先生からのアドバイス①
メンタルとは「戦術」である!

 例えは悪いですが、路上で理不尽に怖いお兄さんたちに囲まれたとしましょう。皆さんはどうしますか?

 まずは、どうやったら、この場を無事に乗り切れるかを考えると思います。どうやって周囲に助けを求めるか、どうやってここから逃げ出すか、どうやって話し合いに持っていくか……とにかく何とか方法を考え、この窮地を乗り越えようとするでしょう。

 大切なのは「強気」「気持ち」ではなく「どうやって」です。窮地に追い込まれたとき、何通りの「どうやって」を持っているか。考えられるか。それが窮地を凌げるかどうかの分かれ目になります。メンタルというのは頭であり、戦術をどれだけ持っているかという意味だと私は考えています。タイブレークはメンタルが大事ですが、気持ちだけでピンチを脱出できたら、これほど簡単なことはありません。


ポイントを落としてもゲームをとればいいと思っていないか?
「連続してポイントを奪う」意識を強く持つ

 タイブレークはポイントの積み重ねです。1ポイントの重みが大きく、気を抜いていると、あっという間にリードを広げられ、取り返しのつかないことになりかねません。

 ただ、私はテニスというスポーツの根源は、このタイブレークにこそあると考えています。バレーボール、バドミントン、卓球など、1ポイントが1セットにつながる競技は少なくありません。これに対し、テニスはタイブレーク以外のゲームでは、いくらポイントを落としても、ゲームを取っていけばいいのです。ここが落とし穴です。

 日々の練習から、そういう考えでいると、タイブレークでは戦えません。連続してポイントを取りにいく意識が弱いため、畳み掛けたり、突き放したりすることができず、やられます。

 30-0になった、2ポイントのリードだ、次はミスしてもいいからエースを狙おう…こんな気持ちではダメなのです。30-0になったら、40-0、ゲームと、連続してポイントを奪い、相手に隙を与えないプレーがタイブレークで生きるのです。それはすなわち、目の前の1ポイントを全力で奪いにいく、ということです。

 私は選手に教えるとき、「ゲームをとろうと考えるな。目の前の1ポイント、ボールと戦え」とよく言います。40-0から2ポイントを落としても40-30、次のポイントを取ればゲームは取れた、はいOK――これでよしとしていたら間違いです。結果的に落とすことはあっても、最初から落としてもいいポイントなど1ポイントもありません。

 試合を見ているとわかると思いますが、タイブレークに限らず、やはり連続してポイントを奪えている回数の多いほうが勝ち、少ないほうが負けるもの。キーワードは「連続」。ここを日々の練習から意識していけば、タイブレークに強くなれるはずです。

Advice①|より実戦に近づけて練習を

 タイブレークの練習はどこでもやっているでしょう。ただ、私に言わせればタイブレークで試合をしているだけで、普通のポイント練習と同じように見えます。

 アドバンテージコートでどんなプレーをするのか、逆にデュースコートではどう展開していくのか。それが見えません。「どうやって」ポイントを奪うのか、そこが抜け落ちているように思います。シングルスなら自分の、ダブルスなら自分たちの得意なパターン(武器)を把握し、しっかり練習することです。飛んできたボールに対応するのではなく、こちらがボールを動かしてやるのです。

 タイブレーク0-0からスタートするのではなく、4-1とリードした場面から、あるいは2-5などリードされた場面から始めてもいいと思います。ファーストポイントの入り方は重要です。どれだけ本番のタイブレークをイメージできるか。練習のための練習では意味がありません。

小浦先生からのアドバイス②
連続してポイントを取る癖を身につけよう!

 ポイントチャートをつけよう!

 練習マッチ、試合のとき、ポイントチャートをつけると、連続してポイントを奪えているかどうか、ポイントの推移が一目瞭然です。

 用紙の真ん中に線を引き、上が自分(のゾーン)、下が相手(のゾーン)です。サービスゲームかリターンゲームがわかるようにし、五目並べのように、ポイントを奪ったら上がり、奪われたら下がります。ファーストサービスでのポイントなら○、セカンドサービスなら●として、チャートをつけてみましょう。

【写真説明】Sはサービスゲーム、Rはリターンゲーム。第1ゲームは自分のサービスゲームでファーストサービスから2ポイント連取。その後、セカンドサービスから2ポイント連続で失うも、ふたたび2ポイント連取でゲーム先取(1-0)。第2ゲームは相手のファーストサービスから3ポイント連続で奪われ、1ポイント返したものの、次のポイントを落として1-1のイーブンに。第1ゲームの自分のファーストサービスの確率は6分の4(約67%)、第2ゲームの相手のファーストサービスの確率は5分の4(80%)。試合後、連続ポイント、トータルポイントの比較など行う


タイブレークに強い選手と弱い選手の違いは?
「外の目」と「内の目」を使って戦い方を決定する

イラスト◎サキ大地

 メンタルは戦術である、どうやって戦うかが重要と言いましたが、戦い方は大別するとふたつに分かれます。「自分の武器で戦うか」か「相手の弱点を突くか」です。その選択は試合状況にもよると思いますが、どちらを選ぶにしろ、「外の目」と「内の目」を持つことが大切です。

「外の目」とは、まさに相手を見る目です。どこのポジションに立っているのか、グリップをどう握っているのか、相手が少し弱気になっているなど、目にできる相手の状態です。そうした情報は少ないよりも多いほうがよいでしょう。

「内の目」とは、自分の中にある整理タンスと考えてください。「外の目」でつかんだ情報から、どんな戦い方をすればいいのか、この整理タンスから引っ張り出してくるのです。問題はここです。整理タンスが文字通り、整理されていればいいのですが、意外と整理されていない人が少なくありません。

 春もの、夏もの、と四季に合わせてタンスが整理されていれば戦い方は明確になります。これは秋もの、これは冬ものと、引き出しが多ければ多い人ほど戦術が多く、強い選手です。クルム伊達公子選手がまさにそうで、しっかりと整理されているからこそ戦い方にぶれが少なく、接戦に強いのです。テクニックが高い選手は引き出しが多く、「外の目」で見極めた情報を「内の目」へ素早く伝え、正しいプレーを選択します。

 感覚や気分でプレーしている人は整理タンスの引き出しがひとつしかありません。夏もの、冬ものがいっしょに入っていて、パニックを起こしやすいのです。「外の目」と「内の目」がリンクせず、行き当たりばったりのプレーになります。「どうやって」戦うかが見えず、ギャンブル的なプレーに頼るしかなくなってくるのです。これではなかなかタイブレークをものにできません。

Advice②|指導者に告ぐ!理由も聞かずに怒らない

「なぜ、あそこに打たないんだ!」

「なぜ、そこでそうなるの?」

 そう言わんばかりに、ベンチで頭を抱えている選手やコーチなどの姿を見かけることがあります。ひどいときは理由も聞かず、選手を怒鳴りつける指導者がいます。ただ、その選手も選手なりに考えてプレーした結果。必死に考え、自分なりに戦っているのです。頭ごなしに叱ってはいけません。

 なぜ、そうしたか、まずは理由を聞いてみる。それがセオリーとして間違っているなら、なぜよくないのか、どうすればよかったのか、正しいセオリーを教える。考えてのミスなら、何も考えないでプレーしているよりも、次につながります。

CHECK
タイブレークに入るとワイドとネットのミスが多くなりやすい!?

 試合の序盤、中盤のミスと、終盤、土壇場で起きる自分のミスを比べてみたことはありますか? 序盤、中盤ではロングミス(ベースラインをオーバー)が多いのに対し、終盤、土壇場ではサイドラインやネットミスが多くなるというのが、私の経験からの意見です。特にサービスやダウン・ザ・ラインに顕著です。

 終盤、土壇場になると、ポイントがほしいばかりに、より厳しいところを狙ってしまうからでしょう。タイブレークもそうです。横のベースラインよりも、ネットや縦のサイドラインが見え、意識がそちらにいくのです。見えている景色が、プレッシャーの少ない序盤、中盤よりも違ってくるのだと思います。


先のことを考え始めてしまうと痛い目にあう
スコアばかりを気にしないで、自分のやるべきことを考える

 ジュニアの試合などでタイブレークを見ていて思うのは、スコアばかりを気にしてプレーしている選手が多いことです。スコアはもちろん頭の中に入っていないといけませんが、必要以上に意識すると逆効果。プレーが硬くなってしまいます。

 例えば、タイブレークでポイント4-2とリードしたとします。ここから「勝てるかもしれない」「あと2ポイントでマッチポイントだ」「早く5-2にしておきたい」などと先のことを考えてしまうのは危険です。

 ポイントを取った、取られた、取りたい、取られたくない、そのことばかりに意識がいってしまい、目の前の1ポイントを「どうやって」取るのかということがおろそかになっているのです。そこを「気持ちで」「強気で」の言葉でごまかしてはいけません。

 タイブレークでリードしているとき、されているとき、イーブンのとき、いろいろな状況がありますが、どんな局面、スコアであれ、同じ1ポイント、同じ気持ちで戦うことのできる選手、あるいはその差が少ない選手が本当に力のある選手です。

 すぐに先のことを考えたり、スコアばかりを気にしてプレーしている選手は、タイブレークでなかなか力を発揮できません。運がよく、たまたま取れることもありますが、レベルが上がれば勝てなくなるでしょう。

Advice③|「パターン練習」の落とし穴

 同じリズムで気持ちよく打ち合う。パターン化された練習で見られるシーンです。例えばクロスラリー。スピードのあるボールをパンパンと打ち合う。相手のボールが短くなるとスライスでアプローチ、ネットへ出ていく……私はそこで怒鳴ります。

 どうしてチャンスボールとして叩けないのか。簡単です。何も考えないで気持ちよく打っているだけだからです。相手がスイートスポットを外してボールが短くなった。チャンスです。でも、その一瞬の隙を見逃しているから出だしが遅れ、スライスでアプローチという選択肢になる。何の練習ですか?

 チャンスボールは自分で(展開の中から)つくるものですが、それを簡単にさせてくれる相手にはおそらく勝てるでしょう。チャンスボールがいつ飛んでくるかなんて普通はわかりません。予期せぬときに来る、それが試合です。それを決めきれるかどうか。ボールに動かされ、一定のリズムで気持ちよく練習していては、こうしたチャンスに疎くなりますので気をつけましょう。

小浦先生からのアドバイス③
どんな場面でも同じ1ポイント、同じ気持ちで戦えるように!

小浦武志|プロフィール

こうら・たけし◎1942年11月13日、兵庫県出身。元デ杯代表、ユニバーシアード代表選手。フェド杯代表監督、ナショナルチームGMなどを務め、現在は日本テニス協会常務理事、兵庫県テニス協会副会長。沢松和子・順子姉妹からクルム伊達公子、浅越しのぶなど多くのトップ選手のコーチを務めた

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