4日目DAY WATCH「決勝はズベレフ対チョン、対照的なふたり」
「Next Gen ATPファイナルズ」(11月7〜11日/イタリア・ミラノ)の11日に行われる決勝で、天才アンドレイ・ズベレフ(ロシア)と、安定の〝プロフェッサー″チョン・ヒョン(韓国)という、対照的なふたりが対決することになった。
ルべレフと言えば、細い体から強烈なフォアハンドを繰り出し、ビシバシとエースを奪っていたかと思ったら、ビシバシと大アウトを連発し、ヒステリーを起こしてラケットを叩き折るというイメージがあったのだが、さすがに彼も、もう20歳。特にこの日の準決勝でのプレーなど見ていると、その無精ひげはさておいても、ルブレフも大人になったのだなあ、と感じずにはいられない。
この日のルべレフは、彼にしてはミスを極力おさえつつ、強打でラリーの主導権を握り、通常は手堅いボルナ・チョリッチ(クロアチア)に、つけ入る隙をまったく与えなかった。
しかし、もうひとつの準決勝、チョン対ダニール・メドベデフ(ロシア)の熱風が、ルべレフの完封勝ちの余韻を吹き飛ばした。
大会初日から、正確で力強いストロークと、オールラウンドな能力の高さ、何より若手には珍しい安定性で、ミラノをうならせていたチョンが、第1、2セットを連取したときには、この試合もこのままあっさり終わるか、と皆が思ったことだろう。
「彼は驚くべきショットを打っていた。本当に堅固で、アンフォーストエラーがほとんどない。そして僕のほうには、ミスが多かった。このまま、こんなふうに、ふがいなく負けてしまうのかと思った。そしてそんなのは嫌だ、とも」と試合後、メドベデフは明かしている。
そしてメドベデフは、その思いを実行に移す。実際、彼は、特別に驚異的なショットを持っているわけではないのだが、なかなか頭脳的であり、試合の流れをじりじりと変え、形勢を逆転させることに長けた男だ。ミスを減らし、ストロークのリズムに変化を与え、ネットをとり、チャンスでは迷わず叩く姿勢で、メドベデフが抵抗し始めたのが、第3セットの第3ゲームのこと。彼がワンチャンスをつかんでそのセットを取ると、チョンはメドベデフのアリ地獄に、ずるずるとはまり始めた。
もはやミスしなくなったメドベデフを前に、より厳しいところを突こうとするため、チョンにもミスが増える。こうしてメドベデフが第4セットも取るのだが、チョンが苦労の末に第5セットの第1ゲームのサービスをキープしたとき、ふたたび流れにわずかな変動が起きた。
メドベデフはまだ2セット連取の勢いに乗り、プレッシャーをかけ続けていた。チョンは、ロブのウィナーを交えて次のゲームをブレークしたが、続く自分のサービスゲームでは0-40とされ、即座にブレークの危機にさらされる。ここから食い下がり合い、ネットをとることで40-40に追いついたあと、メドベデフのショットがネットコードに当たり、ネットを超えずに手前に落ちた。ノーアドバンテージ・ルールのため、これでゲームはチョンの3-0リードに。まさにディサイディング・ポイント(決着のポイント、一本勝負)である。
実は、チョンが落とした第4セットの出だしでも、同じようなポイントがあったが、そのときにはチョンのショットがコードに嫌われ手前に落ちている。これは運気交代のお告げか、と縁起を担いでいる間に、チョンはフォアハンドの逆クロスを決めて「ブラボー!」と騒がれ、最後はメドベデフのドロップショットを鋭角に切り返し、その顔についに笑みが浮かんだ。
「落としたセットでは、試合を終わらせたいと思うあまり、僕はすごくナーバスになっていた。だから第5セットが始まったとき、僕は自分がどんなプレーをすべきかだけを考えた」とチョンは振り返る。
元来ずぶといタイプではないと思うが、あれだけまずい流れに引き込まれながら、踏みとどまって形勢を変えたチョンの精神力は、かなりのものだ。一方、ボロ負け路線を突き進んでいたにも関わらず、流れを変えたメドベデフの手腕のほうもあっぱれだった。第3、4セットで、つまらないミスをまったくしなくなっていたメドベデフに、ミスが消えた理由を問う。
「それがテニスだ。どうしてかはわからない。それがわかってたら、僕は今頃トップ10になっているよ」と彼は微笑んだ。「確かに、僕はショットにそこそこパワーもあり、走れるし、すべてをやることができるんだが、3、4セットで見せた一貫性、安定性はまだ持っていない。トップになるには、それが必要なんだ」。
敗れてもなお笑みを絶やさず、かなりのナイスガイだったメドベデフ。しかしチョンの決勝の相手は、より殺し屋の目を持ち、ショットもメドベデフより鋭い。
「ラリーの主導権を握るよう努めるよ。フォアハンドで攻め、彼に時間を与えないようにする。彼は素晴らしいショットを打ち、速くて、カウンターパンチの名手だ。きっと素晴らしい試合になるだろう」と、けだるい口調でルブレフは言った。
チョンは、ツアーを知っている心理学の専門家と、頻繁に話をしていると言う。反対に、メンタル強化のトレーニングをしているかと聞かれたルべレフは、「特にやっていない」と答えた。
「自分がコート上でどんな風でなければいけないか、どんな風にプレーしなければならないか、を理解することだと思う。もしいいプレーヤーでいたかったら、すべてのボールのために戦わなければならない。いい調子ではないときにも、自分を駆り立てなければならない」とルブレフは言う。
「最初に学んだとき、毎回自分を駆り立てるのは少し厳しいように感じる。でも2回目には、よりやりやすくなる。こうやって繰り返していくことで、メンタルを向上させていくんだよ」
発言的にも大人になった感のあるルべレフと、ここで本格的にブレークするやもしれぬチョンの対戦は、11日の現地時間21時に始まる。
大会も残りあと一日。会場の売り場にある『寿司ゴールド』の、“カリフォルニア・ロールに見えるもの”にトライするか否か迷って早4日が過ぎた。トライするなら、明日しかない。
※トップ写真はアンドレイ・ルブレフ
MILAN, ITALY - NOVEMBER 10: Andrey Rublev of Russia looks on in his match against Borna Coric of Croatia during the semi finals on day 4 of the Next Gen ATP Finals on November 10, 2017 in Milan, Italy. (Photo by Emilio Andreoli/Getty Images)
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