「脚がつっていたから最後はサービスエースしかなかった」優勝記者会見で語るメドベージェフ [USオープン]
今年最後のグランドスラム大会「USオープン」(アメリカ・ニューヨーク/本戦8月30日~9月13日/ハードコート)の男子シングルス決勝で第2シードのダニール・メドベージェフ(ロシア)が6-4 6-4 6-4で第1シードのノバク・ジョコビッチ(セルビア)を倒し、試合後の記者会見で試合のことや優勝した瞬間のパフォーマンスなどについて語った。
「やあ、みんな。面白い記者会見にしよう。面白い会見が好きなんだ」
今日の試合ではセカンドサービスをファーストと同じように強く打つなど最初からかなりリスクを犯しているように見えた。
「何よりもまず、試合の前日はいつもコーチとどんな戦術でプレーするか話し合っている。普段は5分、10分で終わる。サービスで狙うコース、ラリーのときにどんな仕掛け方をするかなどを考える。でも、ジョコビッチが相手だと30分はかかってしまう。何故か? 過去に何度も対戦しているから。7回くらいかそれ以上(実際は8回)は対戦しているんじゃないかな。彼は戦い方を柔軟に変えられるから、すべてが違った試合展開だった。戦術、考え方を変えてくる。今年2月のオーストラリアン・オープンでの対戦と違ったのは、今回はどの瞬間に何をすべきか、はっきりとしたプランが頭の中にあったこと。もちろん、彼の出方次第でこちらのプレーも大きく変わる。アグレッシブにならなければならないときも、ディフェンシブにならなければならないときもある。僕にははっきりしたプランがあり、それがうまく機能したようだ。彼が今日、最高のプレーを見せたのか? 恐らく最高ではなかった。プレッシャーも大きかったはず。僕にもプレッシャーはあった。セカンドサーブでリスクを犯したのは、自信があったからなんだ。彼は簡単にリターンできるサービスが大好きだから、それを打つことはできなかった。それがプランだった。厳しい場面でも自信があったおかげで、いいプレーができたと思う」
ダブルファーストサービスでリスクを犯しても攻めるという戦術を実行したメドベージェフ
相手にミスをしている余裕を与えなかった。プレッシャーも増している影響で、いつもと違うジョコビッチだと感じたのか。
「一度だけロンドンでのATPファイナルズで彼にストレート勝ちしたことがある。トップ選手を相手にミスをする余地がないとき、テニスは本当に厳しいスポーツになる。僕も彼もトップ選手だ。ロンドンの試合がいい例だった。その試合に勝ったとき、凄く不思議な感覚だった。簡単な試合だったと感じたんだ。もちろん、いろんな要素が関係している。もしかしたら、彼は凄く調子が悪かったのかもしれない。オーストラリアでの対戦については、自分の調子がよくなかった。でも、あの試合を観た人たちは、“結局ジョコビッチがメドベージェフを圧倒した”と言うだろう。いつも試合を分けるのは細かいディテールだ。繰り返すけど、彼は今日ベストの状態じゃなかった。もっといいプレーをする彼を見てきた。もし彼がベストの状態だったら、僕が対等に戦えたかどうか。でも、その答えは永遠にわからない。僕はとにかく勝ってうれしい」
第3セットで君がサービスをしようとしてもファンはなかなか静かにしなかった。
「もちろん、難しかったよ。かなり難しかった。それ以外に言いようがない。でも、自分にできることは集中することだけ。もし5-5になっていたら、もし自分がそこで乱れてしまったら、どうなっていたかわからない。でも、そうはならなかった。だから、仮定の話は出来ない。自分が試合に勝つために何をすべきかにフォーカスしなければならないことは理解していた。ファンの声は自分に対してではなく、ノバクを鼓舞しようとしたもの。彼らは自分たちが応援している男が年間グランドスラムを達成する姿を見たかったのだろう。でも実際、ダブルファーストのせいでダブルフォールトは増えた。3度目のマッチポイントではファーストサービスを入れることができて、よかった」
彼の歴史的偉業を阻止したことについて話してください。
「初めて起こるすべてのことは特別なもの。僕がジュニアの大会で初めて優勝したとき、それは自分にとって物凄く大きな意味があった。初めてフューチャーズ大会で優勝したときもうれしかった。何かを繰り返すとき、歴史的なことを達成しない限り、少しずつその感じ方が変わってくるものだ。何故こんなことを言うのかというと、僕が今グランドスラムを獲得できて、スーパーハッピーだからだ。大きなことを成し遂げた。キャリアの中でマスターズ1000の大会で優勝した選手は限られている。でも優勝したとき感じたのは、もっと勝ち続けたいという気持ちだった。でも、それが達成できるのかどうかなんてわからない。もし達成できなくても、達成するためにベストを尽くしたと言えるようにしたかった。今、この言葉がぴったりなのかわからないけど、喜びで溢れている。初めてのグランドスラム優勝だ。2度目、3度目を達成したときにどんな気持ちになるのかは想像がつかない。とにかく今一つ目が獲れて物凄くうれしい。自分にとって大きな意味を持つ。マスターズの話に戻ると、8月にカナダで優勝したあとはすぐシンシナティが始まるのがわかっていた。USオープンの直前で大事な準備にもなるなら、あまり優勝を祝う暇もなかった。移動の飛行機に乗って1回戦に向けて準備をしなければならなかったんだ。今はここで、次にやらなければいけないこと、すぐに始まる大会がないから、思い切り優勝を祝うことができる。ロシア人は祝う方法をよく知っているんだ。はしゃぎ過ぎてニュースにならないように注意しないといけないけどね。ニュースになるなら、いいニュースで取り上げられないと。今後数日間は盛大に祝うつもりだ」
過去の大会に比べ、直近の数試合のプレッシャーはどんなものだった?
「間違いなくプレッシャーを感じていた。ツアー初優勝のときを思い出した。(2018年1月の)シドニー国際で自身2度目のツアー決勝で、相手は地元オーストラリアのアレックス・デミノーで完全アウェーだった。第3セットで4-0とリードして、5-3になったけど最終的には7-5で勝った。物凄い試合だった。雰囲気も凄いし、感情の起伏が大きかった。その試合に比べたら、今日の決勝は落ち着いていられた。経験をたくさん積んできたからね。自分の感情とどう向き合えばいいか、どうコントロールすればいいか学んだ。プレッシャーをある程度抑えられたのはよかった。それでも大きかったけどね。それから、今日の最後のゲームを振り返りたい。5-3で脚がつり始めたんだ。5-2でマッチポイントを取れなかった影響によるプレッシャーだと思う。5-3になってもう脚がダメだった。5-4で左脚がきつくてほとんど歩けなかった。映像を見返してもらえばわかるけど、タオルを取りに行くとき脚を少し引きずっていた。バレないように意識していたけどね。ノバクに見られたらよくないから。40-15で2つマッチポイントがあった。とにかくサービスエースを狙うしかなかった。一本目は酷いダブルフォールトになった。ネットの真ん中に当たったほどね。でも、もう一度だけチャンスがあった。まずはファーストサービスを入れようと意識して、2本目では成功して本当にうれしかった」
笑顔でトロフィーを掲げたメドベージェフ
ランキングも1位に近づいている。あと1400ポイント差だ。次の目標はそこ?
「1400ポイント差? 僕はパリ・マスターズとATPファイナルズでタイトル防衛に挑む(ポイントが下がる可能性がある)。1位のノバクはそういう状況じゃないから、追い抜くのはほとんど不可能じゃないかな? ノバクとどのくらいの差があるのかよくわかっていない。スケジュールについてはどうすることもできない。これからインディアンウェルズ、パリ(ベルシー)、トリノ、ウィーンがある。ウィーンはサンクトペテルブルクと同じ週に行われる。どちらも出場しない予定だ。ロシアの大会だとしても出ない。インディアンウェルズ、パリ、トリノで優勝できることを祈ろう。かなり難しいチャレンジだけど。グランドスラムで優勝できてうれしい。僕はすべての大会でベストを尽くす。今後のスケジュールはよく考えて決めたい。ランキング1位は今年目指している大きな目標ではない。いつか達成できればうれしいね」
世界ナンバーワンを倒し、年間グランドスラムを阻止した喜びは大きいのか? 優勝スピーチで謝っていたが、本当に悪いと思ったのか?
「彼がどんな気持ちなのかわからないから、ノバクには悪いという気持ちがある。でも喜びは大きい。それでもグランドスラム優勝には変わらない。もし決勝の相手がボティック・ファン デ ザンツフープ(オランダ)だったとしても同じようにうれしいだろう。今後のキャリアと自分の自信という意味では、グランドスラムでマッチ27連勝中の相手に勝ったことは大きい。オーストラリアの決勝で負けていたし、彼は歴史的な偉業を狙っていたから、それを考慮すると喜びも自信も大きくなる。でもすべてがハードコートだから、他のサーフェスについてはこれからどうなるか見てみよう」
ノバクに対してどんな感情を抱いている? スピーチでは史上最高の選手だと伝えていた。
「いや、もう一度言うことはないよ。あのとき言った通りだ。言ったことは心から思っている。他の選手に対して少しリスペクトがないと思われるかもしれないけどね。でもそれが僕の気持ちだ。でも、彼以外の選手を決勝で倒していたなら、絶対に出てこなかったセリフだ。そう思っている。僕から言えるのはそれだけだ」
優勝の瞬間、メドベージェフは突然ラケットを放り出してコートに倒れ込んだ
メドベージェフは倒れたまま舌を出してサッカーゲームFIFAの“死んだ魚”のパフォーマンスを見せた
最後の質問になります。
「いい質問にしてね」
少しくだらない質問かもしれない。
「くだらない質問は大好きだ」
勝った瞬間のパフォーマンスは事前に考えていたのか? なぜあのようなパフォーマンス?
「説明するよ。ウインブルドンのときだった。グラスコートも好きではあるが、ハードコートほど得意じゃない。でも自分のプレーには自信があった。ある夜寝られなかったんだ。5分、10分くらい、くだらないことを考えていた。“よし、ウインブルドンで優勝する! 相手がノバクか誰なのかわからないけど。僕はいつも優勝のとき何もしないから、ウインブルドンで何もしないのはつまらない”と思ったんだ。何かをしなければならない、しかも特別なものをね。僕はサッカーゲームのFIFAが大好きだ。プレーステーションが好きなんだ。あれは、死んだ魚のパフォーマンス。FIFAで遊ぶとき、対戦相手をよく知っているとこれができるものだ。5-0くらいで勝っているときにやるんだ。実はロッカールームで皆と話したんだ。彼らはみんなFIFAで遊んでいる。僕と一緒にゲームで遊んでいる人は皆、優勝したときにこのパフォーマンスをやったら歴史に残ると言ったんだ。歴史に残るものにしたかったんだ。FIFAパフォーマンスで新聞に取り上げられたいと思った訳じゃないんだ。それは関係ない。僕が一緒にFIFAで遊ぶ仲間たちが喜んでくれるようなパフォーマンスがしたかった。うまくできると思っていた。でも、ハードコートだから、痛かった。倒れ込むときに少し痛めてしまったけど、自分自身のためにパフォーマンスができてよかった。最後の質問、最高によかったよ!」(テニスマガジン)
写真◎Getty Images
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