【『ペア競技の復元力』発売前特別企画】中身チラ見せ6連載|連載2|前衛は「点を取る人」ではなく、「展開を歪める人」



ペア競技の復元力 技術・戦術・メンタルを一本につなぐ、ダブルスの本質
朴 相俊  パク サンジュン 著(国際ソフトテニス指導者・プレーヤー・スポーツメンタル教育者)
※詳細プロフィールは最下部

ソフトテニスの緻密なペアリングから学ぶ、すべてのテニスプレーヤー必読の書

8月18日発売(全国の書店、ネット書店で予約受付中)
A5判並製 312頁
本体価格2000円+税
ベースボール・マガジン社刊


|連載2|
(書籍『ペア競技の復元力』第2章より抜粋_48_51ページ掲載原稿)

第2章 前衛・後衛の役割は「配置」ではなく「判断」

前衛は「立っている人」ではなく「状況を揺らす人」である

〈前衛編〉前衛の目的--何を生む人か

Section❶前衛は「点を取る人」ではなく、「展開を歪める人」

 前衛は、「点を取る人」という理解は、半分当たっていて半分ズレている。前衛の本当の価値は、得点そのものよりも相手のラリーと判断を歪ませることにある。歪ませるとは、整った形を崩すこと。得点は「結果」であって、前衛の仕事はその「原因」をつくることにある。この順番が逆になると、前衛は一気に苦しくなる。

■ ボレーを決めようとすると、前衛は待つだけになる

「決めなきゃ!」と思った瞬間、前衛は「いいボールが来るのを待つ」「ボールが来ないと存在感が消える」「触れない時間が増えるほど焦る」「無理に出て、抜かれて自信を失う」のような傾向が増える。つまり、点を取る役として自分を定義すると相手の配球に支配されるが、逆に前衛が主導権を握るには、相手の配球を変形させる側にならないといけない。

 歪めるとは、派手に決めることではない。相手の頭の中で、「打ちたいコースに打てない」「迷いが増える」「安全策に寄る」「余計な高さ、長さ、回転を選ぶ」などの選択の偏りを起こすこと。前衛がそこに立っているだけで相手は自由を失い、この自由の剥奪こそが前衛の価値である。

■ 歪みは「ボール」ではなく、「人」に起きる

 展開が歪むのは、ボールの軌道が変わるからではなく、人が変わるからである。「相手後衛がいつもより外に逃げる」「相手前衛が先に動けなくなる」「後衛がロブに逃げる」「打点が低くなってボールが浅くなる」「前衛を抜く意識が強くなってミスが増える」など、前衛がやっているのは、ボールを処理することではなく、相手の判断の質を落とすことなのだ。


イラスト◎サキ大地

■ 具体的に前衛が歪ませる5つのポイント

❶ コースを歪ませる(相手が打ちたい方向を消す動き※)
  前衛がそこにいるだけで、相手は打ちたいコースへ打ちにくくなる。そうなると、相手は別の選択肢に偏り、こちらは読みやすくなる。
※消す(相手が打ちたいコースを消す動き)

❷ 高さを歪ませる(相手のロブが増える)
  「抜けない」と感じた相手は、ロブで逃げる。ロブが増えると展開が単調になり、こちらは守備設計がしやすい。

❸ スピードを歪ませる(無理に速く、遅くなる)
  「抜かなきゃ!」と思うと、急に強打が増えたり、逆に置きにいったりする(速度や変化を抑える)。どちらも再現性が落ち、ミスの入口に近づく。

❹ 打点を歪ませる(低い打点、遠い打点になる)
  前衛が圧をかけると、相手後衛は速く・早く打とうとして打点がズレるか、前衛を意識しすぎて打点がつまる。ズレたり、つまったりすると打点が不安定になり、こちら(前衛)は触りやすくなる。

❺ 意識を歪ませる(相手の視野が狭くなる)
 前衛が怖い存在であると、相手は前衛を避けることに集中してしまう。その瞬間、全体の最適イメージ(配球、陣形、ペア連動)が崩れる。

■ 得点は「歪みが十分に溜まったあと」、自然発生する

 前衛が展開を歪ませることによって「歪みが十分に溜まったあと」、得点する場面が生まれる。だいたい以下の順番で事は起こる。

・相手が打ちたいコースを前衛が消したとき※
・相手に迷いが起きて、ほかのコースに避け始める
・コースが偏る
・味方後衛が読みやすくなって、先回りができる
・相手後衛が苦しくなって、ボールが浅く、浮く
・前衛に触れるチャンスが増えて、得点につながる

 つまり得点は、前衛の「最後の仕事」ではなく、歪みの「決算」として起きている。

※消す(相手が打ちたいコースを消す動き)

■ 前衛の評価指標は「得点数」ではなく、「相手の不自由さ」で

 前衛を育てるとき、指導者はここを間違えると伸びないので覚えておこう。「今日は何本決めた?」ではなく、「相手は何を打ちにくそうにしていた?」「相手の配球はどこに偏った?」「相手後衛の打点は下がった(低くなった)?」「相手前衛は動きづらそうだった?」というように、どれくらい得点したかを問うのではなく、相手を不自由にさせたかどうかを指導者は意識させるべきだ。前衛の成功は、相手の自然な攻めが消えたかどうかを見て判断しよう。

 前衛が歪みをつくると、後衛の仕事が変わる。後衛は「ミスをしないように」ではなく、「偏ったコースを徹底的に攻める」というようになり、プレーの判断が早くなる。そうすると、相手のミスが増え、長期的に流れの主導権を握り、結果的に前衛は触らなくても貢献できるようになる。あらためて言うが、前衛が点取り屋である必要はない。強いペアの構造(型)はここから始まる。




朴 相俊 
パク・サンジュン◎1975年、韓国生まれ。小学校から高校までエリートコース(スポーツ強化)でソフトテニス競技に参加し、韓国ジュニア代表としてプレー。1995年、20歳で競技を離れた。大学3年時に休学して兵役に就き、任務を終えたのち1998年に来日。2010年に東京大学大学院教育学研究科身体教育学コースで修士・博士課程を経て、現在は長野県にある佐久大学で基盤教育を行い、並行して国内外のソフトテニス振興・普及活動を行っている。教育学修士、環境共生学博士、日本自殺予防学会編集委員、信州公衆衛生学会理事、日本認知・行動療法学会認定行動療法士。2010年からプレーを再開しており、全日本クラブ選手権や関東オープン(35歳の部)、全日本社会人ソフトテニス選手権(45歳の部)、東日本ソフトテニス選手権(45歳の部)などで優勝。指導者としては、韓国代表も含め、国内の大学・高校チームのメンタルサポート、自ら立ち上げたソフトテニスの地域クラブ「PSJクラブアカデミー(小中学生対象)」代表兼コーチ、実業団「ウェル・トレード・プロワカ」チーム監督。さらに、ソフトテニス普及活動を目的とした「一般社団法人World Challenge Project」を立ち上げ、普及活動家兼指導者として、指導者を対象にソフトテニス技術指導、スポーツメンタル教育、チームビルディング指導のほか、JSPO資格のコーチ講師を務める。国際ソフトテニス連盟ランキング委員会副委員長、日本ソフトテニス連盟特別委員会委員などの活動もある。
Instagram @seagullpark_2028



試合で崩れても残る技術がある。
判断を誤っても立て直せる思考がある。
不安になってもやり直せるメンタルがある。
それらは才能でもなければ、偶然でもない。
試合は設計できるものであり、指導できるものだ。


ペア競技の復元力(朴相俊 著)
818日発売
A5判並製 312頁
本体価格2000円+税

目次
はじめに
第1章 技術は「正しさ」より「再現性」で考える
第3章 前衛・後衛の役割は「配置」ではなく「判断」
第3章 戦術とは「配球」ではなく「心理操作」
第4章 試合を分けるのは「技術差」ではなく「認知の差」
第5章 メンタルは「才能」ではなく「設計」
第6章 ペア競技における信頼とズレのマネジメント
第7章 競技が止まった日、人生が再起動した
第8章 怪我を経験した指導者だから伝えられること 
―技術・戦術・メンタルを超えた「人を育てる視点」―
私の履歴書
おわりに


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Cover写真◎篠原秀典(日本体育大学ソフトテニス部監督/ソフトテニス全日本ナショナルチーム男子監督)

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