ソフトテニスのテニス化にヒントあり!【本誌連動記事&動画】
指導◎古川禎己(写真左)
ふるかわ・さだみ◎1968年10月13日生まれ、千葉県出身。古川テニス研究所代表。テニスコーチとして、〈理に適ったカラダの操り方〉を導く「アスリート体操」(上達屋代表・手塚一志氏が考案)を取り入れた指導を行っている。同体操を取り入れているfellows SPORTS(フェローズ スポーツ)でテニス指導を行うほか、最近ではソフトテニスにおいて同様の硬式テニスの指導を求められる機会が増え、全国へ出張レッスンを行っている。古川テニス研究所
ソフトテニス代表◎中野目和也(写真右)
なかのめ・かずや◎ソフトテニスが大好きな通称「のめさん」。元全国選抜高校ソフトテニス大会(団体)優勝、国体ソフトテニス競技準優勝の実績を持ち、現在も競技者であり、指導者でもある。福島県小学生ソフトテニス連盟強化委員長、ソフトテニスコーチ。「のめさんソフトテニス」で検索すると、YouTubeやSNSを通じて、ソフトテニスの試合、講習会情報、技術指導、ルール解説などが見られる。
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テニスマガジン2021年1月号|掲載記事
何でもできるマルチフォア「多機能型フォアハンド」のススメ|PART3
そのテークバックはソフトテニス型? 硬式テニス型?
「ソフテ」のテニス化にヒントあり!
はじめに
私と“のめさん”は 硬式テニス2度目の挑戦
今回は硬式テニスのフォアハンド打法に、ソフトテニス指導者の中野目和也さん(以下、のめさん)に挑戦していただくことにしました。
実は私と“のめさん”は数ヵ月前に一度、硬式のフォアハンドを練習していて、今回が2度目の挑戦です。のめさんはそのときに効果を実感していて、継続して練習してくれています。
硬式テニスは年々、ボールのスピードやテンポが上がっています(ただしテニスコートにおさめるというルールがある以上、限界はあります)。それはプロだけの話ではなく、一般プレーヤーにおいても同様です。そもそも数秒内で打球するものがスピード化が進むことで、構え~テークバックが以前に比べてずっとコンパクトになりました。指導も変わってきています。
それが硬式テニスの話ですが、一方で最近はソフトテニスの指導現場に行く機会が増えました。直接ソフトテニスの指導者の方からお話をうかがうと、プロ選手の誕生に、男子プレーヤーのパワーアップなどからプレーのスピード化が進んでいて、指導法も進化が必要だということでした。そして硬式テニスの打法が転用できるのではないかと、指導を求められるようになり、今日までにいくつかの学校を回ったり、ジュニアの指導に当たらせていただきました。その中で出会ったのが小学生を指導する“のめさん”でした。
のめさんには今回、硬式テニスのフォアハンド強化に引き続き挑戦していただき、レベルアップを目指します。私は硬式テニスの中にもソフトテニスのそれと似たスイングをする方たちがいることを知っています。具体的に言えば、ラケットヘッドをバックフェンスに向けるテークバックに始まるスイングです。このPART3は読み終えると、「硬式テニスがソフトテニスからヒントをもらうことができるのではないか」と思える、そんな気がしています。
レッスン前
まずは、のめさんにソフトテニスのフォアハンドと、現時点までに身につけた硬式テニスのフォアハンドの打法を見せてもらいましょう。
ソフトテニスの打法
古川コーチ 「非常にパワフルです。テークバックが大きいのが特徴的で、打点はかなり身体に近いです。フットワークは一度後方に下がって前に踏み込むスクエアスタンスで、体重を後ろから前に移動しています。フォロースルーは首に巻き付けるようにしています」
硬式テニスの打法
古川コーチ 「数ヵ月前に硬式テニスの打法に挑戦していただきましたが、テークバックをコンパクトにしてもスイングの加速が得られるということを学んでいる最中です。ただ大会に出場して、すでに優勝するなど、進化していますね。打点はソフトテニスに比べると前になっていますが、やや身体に近くてつまっているように見えます。フットワークは、テークバックを変えたことで下がらず動き出し、セミオープンスタンスで打っています」
レッスン開始!
打法を比べると、ソフトテニスと硬式テニスのフォアハンドでは大きな違いがあることがわかります。ソフトテニスはテークバックでラケットヘッドを下から引いて後方の高い位置へ持っていきます。一方、硬式テニスはテークバックで両手を添えたまま身体をひねるので、ラケットの先端は上を向いたまま(もしくは先端がネットの方向にやや傾くこともある)、身体に近い位置にとどめています。
では、硬式テニスのフォアハンドを学んでいきましょう。
Lesson1
両手を添えてテークバック コンパクトに身体をひねる
「横向きセット!」と言ったらテークバック
構え|ネットに対してしっかり正面向きで、両手を添えて構える。そこから「横向きセット」と言ったらテークバック
テークバック|右にボールがきたらまず横を向く。その際、左手を離さずに身体をひねる
ラケット面の向き(1)|ボールをとらえる面は最初、外側(サイド方向)を向く。ラケットの先端は垂直よりも若干ネット方向を指す
ラケット面の向き(2)|ボールを打つタイミングに合わせて、テークバックの続きを行う。軽く腕を伸ばし始め、ラケットの先端を少し右側へ向ける
右手グリップの位置|右胸前、もしくは右肩前くらい
ボールの落下地点へ移動|「横向きセット」のままボールを打つ地点へ移動
○ 手のひらは下向き
手のひらにフォーカスしてみましょう。ラケットの先端を右側へ向けた状態は、(ラケットを取ると)手のひらが下を向きます。この状態からフォワードスイングへ切り返してボールを打ちにいきます。そうすると肩の回旋(内旋→外旋→内旋)、腕の回旋(回内→回外→回内)と自然な回転運動が続きます。
× 手のひらが横または上向き
↑手のひらの動きにフォーカスするとほとんど回転しない
テークバックでラケットの先端をバックフェンスに向けた状態は、手のひらが横または上を向きます。この状態からフォワードスイングへ入ると、肩、腕はほとんど回転運動しません。
Lesson2
コンパクトに構える理由
テークバックをコンパクトにして構える理由は主に2つあります。ひとつはフィギュアスケートをイメージするとわかりやすいでしょう。フィギュアスケートでジャンプして回転する前は、両手を身体の近くにしまい、身体を沈ませます。そのとき誰も両手を広げていません。回転半径を短くしたほうが腕だけでなく、腰も回転速度が上がるのです。
↑フィギュアスケートの羽生結弦選手
また、もうひとつの理由が「予備動作」にあります。ラケットヘッドを右側へ向ける(手のひらを下向きにする)ことで、テークバックからフォワードスイングへの切り返しにより、回転運動が続きます。肩の内旋→外旋→内旋、腕の回内→回外→回内と、スイング中の自然な回転運動でスイングは加速します。
CHECK! 打点(インパクト)
明らかに身体が回転して、右腰が前に出たところで打っている
○ 右肩、右腰が前に出たところにインパクト
古川コーチ 大きなテークバックのスイングのほうは打点が身体に近くなり、右肩、右腰が少し残っています(△写真)。一方、コンパクトなテークバックのスイングのほうは身体が回転して、右肩、右腰が前に出たところでボールを打っています(○写真)」
△ 右腰が少し残ったところがインパクト
見てみよう!
テークバックからフォワードスイングへの切り返し、打点
手のひらの動きにフォーカスすると下向き→上向き→下向きと回転する
左腰より右腰のほうが前、左肩よりも右肩のほうが少し前に出たところでボールを打つイメージ
おすすめ練習(1)
コマ回しにヒントあり!
腕のひねり戻し体操
アドバイス◎ 実際にコマを回すと腕のひねり戻しの感覚がつかめます。予備動作のところで触れたように、(テークバックで)手のひらは下向きに、切り返して(フォワードスイングで)上向きに、(フォロースルーで)下向きになります。コマ回しの腕のひねり戻しもまったく同じです。そこで“エア・コマ回し”でよいので体操として取り入れてみましょう。 肩関節から先の腕を内側にねじった形(予備動作もしくは反対動作)を入れることで加速する
Lesson3
大きなテークバックに 使う時間を削る
ソフトテニスのフォアハンドは、一度後ろに下がってから前に体重を移して打つ動きをします。このスイングの打点は身体に近くなります。一方、硬式テニスで身につけたい打点は右肩、右腰の前です。そこで次のような練習をしました。
球出しのボールとボールの間の時間を短くしてテンポを上げ、テークバックを大きくする時間を削るようにしました。また、後ろに下がって前に踏み込む時間もありません。そうするとフットワークが変わって、ワンステップのオープンスタンスが使えるようになりました。打点はまだ身体に近い状況でしたが、ミスがグッと減る変化がありました。
のめさん 「テークバックが大きくなると右腰が前にいかないことがわかります。元々の打点が身体に近いんだと思います」
Lesson4
フォロースルーでは ラケットを首に巻き付けない自然な形で
これはソフトテニスの方が意識して行っていることだと感じているのですが、フォロースルーが常に肩口です。のめさんを見ていると、身体に打点が近いことも関係していると思います。
またスイングした右腕と左腕がフォロースルーで交差する(重なるプレーヤーもいます)のも特徴です。打点の高さにもよるのですが、フォロースルーではラケットを首に巻き付けず、肩の後ろで左手でラケットをキャッチするように練習してもらいました。フォロースルーは低くていい、という言葉も使いました。ボールを投げるときをイメージするとわかりやすいですが、左手と右手を交差させる人はいませんね。
○ 左手は振った先にある
× 両腕が交差する
のめさん 「きつくなってくると腕で振ってしまいますね」
古川コーチ 「握力3分の1くらいで、腕の力を抜き、これ以上力を抜いたらすっぽ抜けてしまうんんじゃないかくらいでいいです。身体を回転すると勝手に出てくるものにしましょう」
おすすめ練習(2)
元に戻らないためのジャイロストローク
方 法 ◎ 打点を覚えることと、そこからのフォロースルーを知ってもらうため、ジャイロストロークをおすすめします。写真のようにセンターラインにまたがり、強制的に右足を斜め前45度に出します。これで右肩、右腰が前に出ます。狭めのスタンスをとり、ベタ足で立ち、やや内股にすることで骨盤に動きを集中させられます。この体勢で構えたプレーヤーは次に、自分の打点を示して見せてください。球出しはそこへ向かってノーバウンドで行います。打球はネット方向へ向かって真っすぐ飛ばすイメージで。20~30球連続で打ちます。
アドバイス◎ 最初から強制的に右肩、右腰を前に出しておきます。そこから身体をひねって戻すと、右肩、右腰が前に出て、打点も前になるという練習です。ネット方向へボールを飛ばそうとすれば、フォロースルーも前方へ大きく加速します。 スタンス|右足を斜め45度に出し、狭めのスタンスをとり、ベタ足で立ち、やや内股にして骨盤に動きを集中させる テークバック|ラケットに左手を添え、これ以上右側にひねれないというところまでひねる
スタンス|右足を斜め45度に出し、狭めのスタンスをとり、ベタ足で立ち、やや内股にして骨盤に動きを集中させる
テークバック|ラケットに左手を添え、これ以上右側にひねれないというところまでひねる
打点|投げるほうはプレーヤーに正しい打点を示してもらい、そこに正確に投げ入れる
プレーヤーは右腰の前あたりが打点。そこを通過すると自動的に気持ちよく打てる
ノーバウンドで連続打ちしたあとは、すぐにベースラインに移って通常のフォアハンドを打つ。右肩、右腰が自然に前に出て、打点も前になる
フォロースルー|ネット方向に打球するようにすれば、自然にフォロースルーも前方に長くなる
のめさん 「(ジャイロストロークは)右肩、右腰が前という打点がイメージできます。練習したあとすぐにベースラインに下がって打ちましたが、右足を決めてボールを打つタイミングがとりやすく、あ、これかなという感じがしました」
古川コーチ 「明らかに打点が前になっていました。打点が近かったものが、かなり遠くなりました。そこがコンパクトなテークバックからスイングを加速したときの打点です」
のめさん 「これはソフトテニスからすると、まったく別物。身体の動かし方、インパクト、インパクトのタイミングがまったく別物です。腕が伸びて、脇が開いて、くっついていない! 練習を繰り返さないと安定はしないと思いますが、そこでボールをとって離れていく感じは最高だと思いました。もうラケットを投げちゃうんじゃないの? という感覚です」
成果はいかに?
ジィロスとロークのすぐあとの打球
↑これまでの打点は肘を曲げて脇を締め、身体に近かったが、ジャイロストロークのすぐあとは、打点で腕が伸びてきて脇がやや空いている。打点が身体から遠くなってきた。「気持ちいい!」と、のめさん
のめさん 「(ジャイロストロークをやったあとは)足がめちゃくちゃ突っ立っている感じがしました。いいの?って。ソフトテニスは足をしっかり地面につけて沈み込み、腰を回して打つというイメージです。相手のボールが緩ければ、そこからスイング速度を上げて打っていかないといけません。でも(ジャイロストロークのあとのストロークでは)コンパクトなのに、いい打点に入ってタイミングを合わせれば、めちゃくちゃスピードが出るよねっていう話です。身体が上がっていくイメージでスピードも出る、タイミングも早くとれる、相手を牽制した打ち方だよなと思いました」
ばっちり!
トライするほどフォアがどんどん進化
古川コーチ 「前回、硬式テニスに挑戦していただいたときと同じ取り組みでしたが、コンパクトな構えと、打点を前に持っていくことが非常によくできたと思います。テークバックでラケットヘッドを下から上へ、または後ろへ後ろへと引かず、身体の回転運動を使っていましたのでパワフルでしたね。肩や腕の回旋運動も使えていましたし、最後はフォロースルーもかなり自然になってきました」
のめさん 「めちゃくちゃいいボールが飛びましたよ。白帯にボールが当たっても、今までの倍ぐらいの音がしているんじゃないの? というくらいパワーがあって。僕は、これは練習量をクリアしていけば自分のものになると、ソフトテニスに入ってくるべき技術じゃないかと思います」
古川コーチ 「打法だけでなく、フットワークも変わりましたね。つま先を後ろへ向けて、後ろに下がってから前に踏み込む動きだったものが、一歩目から横に動き始め、ボールを打つときはつま先を前に向けていましたね」
のめさん 「後ろ向きに入ったら、右腰を前に持ってくるのがたいへんだと思いました。斜め前に入れば(右腰を前に)できる。足が後ろ向きに入ったら、前方へ180度もってこないといけなくなります。スイングの大きさが全然違ってきます」
気をつけて!
以前の打法に戻ってしまうことがあるので
コンパクトテークバックをヒントに(古川コーチ)
古川コーチ 「今後、気をつけるポイントですが、打ち合いをしたり、試合になったりすると元に戻ってしまうと思います。そのときは両手を添えた構えで横を向く。グリップを右胸、右肩のあたりに置く。ラケットヘッドを右横に向けたところから振り出す。これらのことを少しでも思い出して練習してください。これだけでも、かなり変わってくると思います」
のめさん 「やっぱりコンパクトなテークバックですよ。意識しすぎて力んでしまうところがあるので練習はもっと必要ですが、ボールを打つタイミングが合えば気持ちいいし、楽に力が出せる。何より次の動作に早く入っていけるということを実感しました。ソフトテニスはダブルスがメーンですが、これからはシングルスをもっとやろうと全体がなってきているので、ひとりでシングルスコートを駆け回るときは無駄な動きを省くこと、コンパクトなテークバックから効率的に力を出すということは最重要だと思います」
古川コーチ 「テークバックに気持ちが集中してしまうと、骨盤、腰を忘れてしまいがちです。大事なのは打点であって、身体が回転して右腰が前に出たところでボールを打ちたいので、そうするには結局、骨盤から動き出すことが大事です。腕だけに頼らないことです。そこは注意するようにしてください」
実はスケールの大きい打ち方
硬式テニスのいいところを生かしたい(のめさん)
のめさん 「このような技術はすでにソフトテニスのトップ選手は取り入れていて、おそらくソフトテニスはこれからテンポが速くなっていきます。そうするとソフトテニス全体のテンポもレベルも上がるでしょう。硬式テニスにますます近づいていくのではないでしょうか。普及してほしいと思うスケールの大きい打ち方だと思います。硬式のいいところをソフトテニスが生かして、ソフトテニスのいいところを硬式が生かしていったら、お互いの競技の発展になりますね」
古川コーチ 「本当にそうですね。これは打球スポーツのひとつのヒントであって、効率的な打ち方があればジャンルを超えてトライする価値があるのではないかと考えています。のめさんのビフォー、アフターにヒントを見つけた人はきっとたくさんいると思います」
のめさん 「もっと練習したいです」
古川コーチ 「のめさんのフォーム、フットワークも、実際に球筋を見た私としては、パフォーマンスアップにつながるトライだと実感しました。共感した方はぜひトライしてみてください」
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