【『ペア競技の復元力』発売前特別企画】中身チラ見せ6連載|連載5|なぜ同じ場面を見ているのに、判断が分かれるのか -「見ている」のではなく「解釈している」-



ペア競技の復元力 技術・戦術・メンタルを一本につなぐ、ダブルスの本質
朴 相俊  パク サンジュン 著(国際ソフトテニス指導者・プレーヤー・スポーツメンタル教育者)
※詳細プロフィールは最下部

ソフトテニスの緻密なペアリングから学ぶ、すべてのテニスプレーヤー必読の書

8月18日発売(全国の書店、ネット書店で予約受付中)
A5判並製 312頁
本体価格2000円+税
ベースボール・マガジン社刊


|連載5|
(『ペア競技の復元力』206_209ページ掲載)

第4章 試合を分けるのは「技術差」ではなく「心理操作

なぜ技術が同じでも勝敗が分かれるのか
なぜ同じ場面を見ているのに、判断が分かれるのか

Section❶「見ている」のではなく「解釈している」


 試合中、プレーヤーはボールや相手をよく見てプレーしているように思われがちである。しかし実際に行われているのは、視覚情報の受け取りではない。プレーヤーがやっているのは、見えた情報に意味を与え、それをもとに行動を選ぶこと。すなわち解釈である。

 同じボールを見ても、同じ動きを見ても、プレーヤーごとに次の一手が違うのは、解釈が違うから。試合を分けているのは、視力や反射ではなく、何をどう解釈しているかである。

■ 人は「事実」ではなく「意味」を見ている

 例えば、相手後衛が深いボールを続けてきた場面。あるプレーヤーは「相手は調子がいい」「ここは無理をしないほうがいい」と解釈し、別のプレーヤーは「攻めきれない」「前に出る余裕がない」と解釈する。

 見えている「事実」は同じだが、違うのはその事実に与えた意味である。この意味づけの差がそのあとの配球、立ち位置、判断のすべてを変える。

■ 早い判断は、「反射」ではなく「解釈の省略」

 うまいプレーヤーが速く(早く)見える理由は、反応が早いからではなく、解釈に迷わないからである。未熟なプレーヤーは、「何が起きたのか」「それがよいのか悪いのか」「どう対処すべきか」をその都度考えるが、その一方で熟練したプレーヤーは、状況を見た瞬間に「これは〇〇の場面だ」と分類している。つまり、見てから考えるのではなく、見た瞬間に意味が決まっているのだ。この解釈の型をどれだけ持っているかが、判断の早さを決める。

■ ミスの受け取り方も「解釈」で決まる

 同じミスをしても、試合が崩れるプレーヤーと崩れないプレーヤーがいる。崩れるプレーヤーは、ミスを「失敗した」「ダメなプレーだ」と解釈するが、崩れないプレーヤーは、ミスを「今はこの幅を超えた」「調整が必要だ」と解釈する。ミスそのものは変わらないが、解釈が違えば感情も次の判断も変わる。メンタルの強さとは感情の強さではなく、解釈をコントロールできるかどうかである。

■「見えなくなる」の正体は情報過多ではなく、「解釈不能」

 試合中に「何をしていいかわからなくなる」瞬間があるが、それは情報が多すぎるからではない。「相手の動きが気になる」「ミスが頭から離れない」「パートナーのようすも気になる」など、これらをどう解釈すればいいかわからなくなった状態での混乱と言える。解釈の軸を失った瞬間、人は視野が狭くなり、判断が遅れ、動きが硬くなる。

■ 認知を鍛えるとは「解釈の軸」を持たせることである

 認知を高めるとは、「よく見ること」「早く反応すること」ではなく、「何を見て」「どう意味づけるか」の基準を持つことである。例えば、今は我慢の時間なのか、相手が迷っている時間なのか、自分たちが主導権を持っている時間なのか。このような解釈のラベルを持っているプレーヤーほど試合中に迷わない。

■ 指導で変えるべきは、「見るもの」ではなく「解釈」



「よく見ろ!」「相手を見ろ!」――指導現場でよくある声かけだが、本当に必要なのは、それをどう解釈するかを教えることだ。例えば、その深さは攻めなのか逃げなのか、そのミスは攻め過ぎなのか迷いがあったのか、そのボレーはねらいか苦し紛れかなど、解釈の言語を増やすことでプレーヤーの判断は安定する。

 プレーヤーは、見てプレーしているのではなく、解釈してプレーしている。だからこそ試合を分けるのは、技術の量ではなく、経験の数でもなく、解釈の質と安定性である。

イラスト◎サキ大地



著者プロフィール
朴相俊

パク・サンジュン◎1975年、韓国生まれ。小学校から高校までエリートコース(スポーツ強化)でソフトテニス競技に参加し、韓国ジュニア代表としてプレー。1995年、20歳で競技を離れた。大学3年時に休学して兵役に就き、任務を終えたのち1998年に来日。2010年に東京大学大学院教育学研究科身体教育学コースで修士・博士課程を経て、現在は長野県にある佐久大学で基盤教育を行い、並行して国内外のソフトテニス振興・普及活動を行っている。教育学修士、環境共生学博士、日本自殺予防学会編集委員、信州公衆衛生学会理事、日本認知・行動療法学会認定行動療法士。2010年からプレーを再開しており、全日本クラブ選手権や関東オープン(35歳の部)、全日本社会人ソフトテニス選手権(45歳の部)、東日本ソフトテニス選手権(45歳の部)などで優勝。指導者としては、韓国代表も含め、国内の大学・高校チームのメンタルサポート、自ら立ち上げたソフトテニスの地域クラブ「PSJクラブアカデミー(小中学生対象)」代表兼コーチ、実業団「ウェル・トレード・プロワカ」チーム監督。さらに、ソフトテニス普及活動を目的とした「一般社団法人World Challenge Project」を立ち上げ、普及活動家兼指導者として、指導者を対象にソフトテニス技術指導、スポーツメンタル教育、チームビルディング指導のほか、JSPO資格のコーチ講師を務める。国際ソフトテニス連盟ランキング委員会副委員長、日本ソフトテニス連盟特別委員会委員などの活動もある。
Instagram @seagullpark_2028



試合で崩れても残る技術がある。
判断を誤っても立て直せる思考がある。
不安になってもやり直せるメンタルがある。
それらは才能でもなければ、偶然でもない。
試合は設計できるものであり、指導できるものだ。


ペア競技の復元力(朴相俊 著)
818日発売
A5判並製 312頁
本体価格2000円+税

目次
はじめに
第1章 技術は「正しさ」より「再現性」で考える
第2章 前衛・後衛の役割は「配置」ではなく「判断」
第3章 戦術とは「配球」ではなく「心理操作」
第4章 試合を分けるのは「技術差」ではなく「認知の差」
第5章 メンタルは「才能」ではなく「設計」
第6章 ペア競技における信頼とズレのマネジメント
第7章 競技が止まった日、人生が再起動した
第8章 怪我を経験した指導者だから伝えられること 
―技術・戦術・メンタルを超えた「人を育てる視点」―
私の履歴書
おわりに



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Cover写真◎篠原秀典(日本体育大学ソフトテニス部監督/ソフトテニス全日本ナショナルチーム男子監督)

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