【『ペア競技の復元力』発売前特別企画】中身チラ見せ6連載|連載6|メンタルは「気持ちの切り替え」ではなく、「時間の分離」でつくる

Cover写真◎篠原秀典(日本体育大学ソフトテニス部監督/ソフトテニス全日本ナショナルチーム男子監督)



ペア競技の復元力 技術・戦術・メンタルを一本につなぐ、ダブルスの本質
朴 相俊  パク サンジュン 著(国際ソフトテニス指導者・プレーヤー・スポーツメンタル教育者)
※詳細プロフィールは最下部

ソフトテニスの緻密なペアリングから学ぶ、すべてのテニスプレーヤー必読の書

8月18日発売(全国の書店、ネット書店で予約受付中)
A5判並製 312頁
本体価格2000円+税
ベースボール・マガジン社刊


|連載6|
(書籍『ペア競技の復元力』256_259ページ掲載)

第5章 メンタルは「才能」ではなく「設計

メンタルは「強さ」ではなく「構造」で決まる 
Section❸メンタルは「気持ちの切り替え」ではなく、「時間の分離」でつくる

「切り替えが大事!」――この言葉はソフトテニスの現場で、ほぼ呪文のように毎回使われる。しかし、本番で問題になるのは切り替えの気合いではなく、心が同じ時間に居続けてしまうことだ。ミスをした瞬間、ポイントを落とした瞬間、相手に読まれた瞬間、人はその出来事を「今」ではなく、「ずっと」引きずる。そして、次のポイントの判断にまでそれを持ち込んでしまう。

 だから必要なのは、感情を消すことではなく、時間を分けること。メンタルが安定しているプレーヤーは、感情の強さが違うのではなく、「時間の扱い方」が違うのである。

■ 切り替えは不可能なときがある

 切り替えができないとき、プレーヤーは自分を責め、「自分はメンタルが弱い」と結論づける。しかし時と場合によっては、切り替えができないのが当然な状況がある。

「悔しい」「怖い」「焦る」「腹が立つ」「申し訳ない」、こういう感情は、意志では消せないし、消そうとするほど残る。だから「切り替えろ」という声かけは、「消せないものを消せ」と言っているのと同じだ。

 発想を変えて考えてみると、感情を消すのではなく、時間の分離に変えること。時間の分離とはどういうことかというと、「今やること」と「後(あと)でやること」を分ける技術である。簡単に言えば次のように説明できる。

・今      プレーに必要な判断をする。役割、情報だけを扱う
・後(あと)  反省、感情、原因分析は試合後に回す

 この分離ができると、ミスが「処理済み」になるため心は安定する。ポイント中に反省を始めてしまうと、脳は二重課題を解決しないといけない状況に陥る。相手を見て判断する、反省しながら気持ちを立て直すなどのように。これを同時にやれる人はいないし、だから判断が遅れ、動きが硬くなり、次も崩れてしまう。切り替えが遅い正体は、処理する時間が混ざっていることにある。

■「気持ちを切り替える」より、「時間を切る」

 うまいプレーヤーはミスをしても顔色が変わらず、感情がわからないように見えるが、しかし実際に彼らがやっているのは、「そのポイントは終わったものとして切る」「次のポイントの作業に入る」「感情の処理は試合後に戻ってやる」といったものである。つまりメンタルは、「気合いの強さ」ではなく、「時間設計のうまさ」なのだ。

 試合中(実戦中)に使える「時間を分離する方法」は大きく3つある。

■ 時間を分離する方法

❶1ポイント内(打つ前の時間)
 ここはもっとも短いが、もっとも重要で、やることを一つに絞る。例えば後衛であれば「今日は深さだけを守る」、前衛であれば「今日は触る(関与)を優先する」、ペアでは「迷ったらセンター深めに戻し、前衛が消す※」のような動作をする。ただし、ここで反省を入れたら終わるため、作業だけに意識を向ける。
※消す(張る動き、相手が打ちたいコースを消す動き)

❷1ポイント間(ポイントが終わって次のポイントまで)
 ここでは「修正」ではなく、「復帰」すること。深呼吸、視線を上げる、立ち位置を戻す、役割を言葉で確認する(短く)。この時間は整える時間であり、考える時間ではない。

❸エンドチェンジ=ゲーム間
 ここで初めて戦術の微調整をするが、ただし原因分析は長くせず、やるべきことを一つだけに絞る。そして感情の処理はまだ先でいい。

・相手後衛が遅い→ボールを高く打って時間をつくる
・前衛が前につめすぎ→(同じボールを打たない)「外すボール」を増やす
・自分が触りにいく→全体の80%で深さを意識する

■時間の分離を壊す典型パターン

 時間設計、つまり時間の分離ができないプレーヤーは、「ミス→理由探し→自分を責める→次のポイントでも反省→判断遅れ」「失点→パートナーに申し訳ない気持ち→表情からパートナーに伝染→二人で沈む」「相手に決められる→やり返したい→無理をする」となる。これらはすべて、未来のポイントに過去を持ち込む現象であり(時間が分離できず)、時間が混ざるとメンタルは必ず崩れる。

■切り替え練習ではなく、「分離練習」をする

 練習で鍛えるなら、やるべきことは次の方法である。

❶反省禁止のラリー練習
 ミスしても言葉を出さないようにし、次の1本の「目的だけ」を言う。例えば、「深く」「高く」「センター」「触る」などの一つだけ。

❷次の一点の作業を固定する
 ミスのあとにやる作業を決めておく。後衛なら深さ一本、前衛なら触る一本、ペアではセンター一本など、やるべき作業を固定すると時間が(反省と)混ざらない。

❸振り返りは「あとでやる枠」をつくる
 試合後に必ず振り返る時間をつくる。あとで処理できるという確信があると、試合中に処理しなくなる。メンタルとは「切り替えの才能」ではなく、「時間を分ける」技術である。

・今やることは一つ
・反省はあとで
・感情は消さない、感情の置き場所を変える

 このような設計ができているプレーヤーは、試合で崩れても戦いの原点に戻れるようになる。




著者プロフィール
朴相俊

パク・サンジュン◎1975年、韓国生まれ。小学校から高校までエリートコース(スポーツ強化)でソフトテニス競技に参加し、韓国ジュニア代表としてプレー。1995年、20歳で競技を離れた。大学3年時に休学して兵役に就き、任務を終えたのち1998年に来日。2010年に東京大学大学院教育学研究科身体教育学コースで修士・博士課程を経て、現在は長野県にある佐久大学で基盤教育を行い、並行して国内外のソフトテニス振興・普及活動を行っている。教育学修士、環境共生学博士、日本自殺予防学会編集委員、信州公衆衛生学会理事、日本認知・行動療法学会認定行動療法士。2010年からプレーを再開しており、全日本クラブ選手権や関東オープン(35歳の部)、全日本社会人ソフトテニス選手権(45歳の部)、東日本ソフトテニス選手権(45歳の部)などで優勝。指導者としては、韓国代表も含め、国内の大学・高校チームのメンタルサポート、自ら立ち上げたソフトテニスの地域クラブ「PSJクラブアカデミー(小中学生対象)」代表兼コーチ、実業団「ウェル・トレード・プロワカ」チーム監督。さらに、ソフトテニス普及活動を目的とした「一般社団法人World Challenge Project」を立ち上げ、普及活動家兼指導者として、指導者を対象にソフトテニス技術指導、スポーツメンタル教育、チームビルディング指導のほか、JSPO資格のコーチ講師を務める。国際ソフトテニス連盟ランキング委員会副委員長、日本ソフトテニス連盟特別委員会委員などの活動もある。
Instagram @seagullpark_2028



試合で崩れても残る技術がある。
判断を誤っても立て直せる思考がある。
不安になってもやり直せるメンタルがある。
それらは才能でもなければ、偶然でもない。
試合は設計できるものであり、指導できるものだ。


ペア競技の復元力(朴相俊 著)
818日発売
A5判並製 312頁
本体価格2000円+税

目次
はじめに
第1章 技術は「正しさ」より「再現性」で考える
第2章 前衛・後衛の役割は「配置」ではなく「判断」
第3章 戦術とは「配球」ではなく「心理操作」
第4章 試合を分けるのは「技術差」ではなく「認知の差」
第5章 メンタルは「才能」ではなく「設計」
第6章 ペア競技における信頼とズレのマネジメント
第7章 競技が止まった日、人生が再起動した
第8章 怪我を経験した指導者だから伝えられること 
―技術・戦術・メンタルを超えた「人を育てる視点」―
私の履歴書
おわりに



続きを読むには、部員登録が必要です。

部員登録(無料/メール登録)すると、部員限定記事が無制限でお読みいただけます。

いますぐ登録

Cover写真◎篠原秀典(日本体育大学ソフトテニス部監督/ソフトテニス全日本ナショナルチーム男子監督)

Pick up

Related

Ranking of articles