1989年男子シングルス4回戦、17歳チャンがケイレンを克服して王者レンドルに勝つ【AP Was Thereシリーズ⑦】
スポーツの大会はさまざまな理由で、人々にとって忘れがたいものになる。番狂わせ、歴史的重要性、劇的な瞬間、大逆転劇など…ときにいくつかの理由が重なることもある。
新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックによりフレンチ・オープンが9月に延期された今、AP通信はパリで伝説的な試合がプレーされたときに報道されたいくつかのストーリーをふたたび紹介していく。
そのロラン・ギャロスでの思い出深きカムバックは、1989年の男子シングルス4回戦で起きた。現在は錦織圭(日清食品)のコーチを務めているマイケル・チャン(アメリカ)が脚のケイレンと2セットダウンの劣勢を克服し、第1シードのイワン・レンドル(当時チェコスロバキア)を倒したのである。
そのまま勝ち進んで17歳にして優勝を遂げたチャンは、未だグランドスラム大会の同種目での最年少優勝者の記録を保持し続けている。
17歳チャンがケイレンを克服し、王者レンドルを倒す世紀の番狂わせ|1989年6月5日配信
脚がつり、体は脱水症状を起こしていた。そうして時間を取りすぎたことで警告を受けたとき、マイケル・チャン(アメリカ)がフレンチ・オープンで生き残るために続けていた勇敢な奮闘は失敗に終わるかに思われた。
それからカリフォルニア州プラセンティアから来た17歳の少年は、世界ナンバーワンのイワン・レンドル(当時チェコスロバキア)を倒すために残された唯一のオプションに賭けた。
彼はレンドルの“心”を攻撃したのだ。
「何かを試さなければならなかった」とチャンは振り返った。「僕は彼の集中を崩そうとしたんだ」。
深い山なりのボールを何本も打ちながら随所でスマッシュのウィナーを決めるなど、チャンは次に何がくるかレンドルに予測させないようなプレーで懸命に喰らいついた。
ある段階で彼はアンダーサーブを打ち、当惑したレンドルのボレーミスを誘ってそのポイントをもぎ取った。
「僕はただ、可能な方法でサーブを入れていたんだ」とチャンは打ち明けた。「彼はアンダーサーブにちょっと面を食らったんじゃないかな」。
それから彼はマッチポイントで、もうひとつの戦術を試みた。彼はサービスラインのすぐ近くで構え、レンドルを動揺させたのだ。
「ただ彼に考えさせるためだった。僕は彼の集中力を乱すためにそこに立ったんだよ」とチャンは説明した。
そのプランもまたうまくいき、レンドルはダブルフォールトを犯した。こうしてチャンは4-6 4-6 6-3 6-3 6-3で勝利をおさめ、驚くべき番狂わせをやってのけたのである。
「脚がケイレンを起こし始めたとき、ポイントが長くなればなるほど僕にとって勝つのは難しくなるだろうと分かっていた」とチャンは自分を準々決勝に導いたその4時間38分の試合のあとに話した。
「どこかの筋肉にどんなプレッシャーをかけても、すぐにケイレンを起こしてしまうような状態だった。僕は可能な限り多くのポイントを取るため、できることは何でもやった。チャンスを手にしたときには、思い切ってそれをつかみにいった」
もしケイレンがもっと早い段階で起きていたら、恐らくチャンは負けていただろう。しかし強い痛みが始まった頃までに、彼はすでに2セットダウンから最終セットに持ち込んでレンドルを混乱に陥れていた。
この試合でのレンドルは第1セットにスポーツマンらしからぬ振る舞いで警告を受け、第4セットの途中で審判と言い争ったため1ポイントをはく奪されていた。そして彼は突如として体に変調をきたした相手を前にすることになり、観客たちはアンダードッグのチャンのほうを熱狂的に応援した。
チャンのコーチで元デビスカップ選手のホセ・ヒゲラス(スペイン)は、あのような試合を見たことは一度もなかったと語った。
「私はもう何年もテニス界に身を置いてきたが、これは私が見た中でもっとも信じられないような試合だった。この試合でマイケルは、自分がチャンピオンの資質を持っているところを示した。彼は非常に賢いプレーヤーだ。記憶に残る試合だった」
これに先立つ唯一の対戦――それは先月アタランタで行われた3セットのエキシビションマッチだった――でレンドルを破っていたチャンは、フレンチ・オープンで準々決勝に進出した最年少の男子プレーヤーとなった。
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